女神の白刃

玉椿 沢

文字の大きさ
113 / 114
第7章「白刃は銀色に輝く」

第113話「時化ても無事だよ 雪洞ゃ明るい」

しおりを挟む
 フミから見れば、今更、精剣せいけんが変化したところで、何もかも「少々」という言葉で片付けられる。

「元はノーマル! しかも碌《ろく》なスキルが宿っていなかった!」

 フミ自身は非時ときじくに宿るスキルを知らないが、目立っていないのだから死にスキルだと判断している。

 アブノーマル化は格の変化だが、元がノーマルの精剣がどのように変化しようとも、最上級のLレアに匹敵するとも思っていない。

「スキルを把握しきれていない気配がするぞ!」

 グリューとフォールをたおした一回しか扱った事がない、と確信をいだいた。

 経験を殊更ことさら、重視するフミではなく、寧ろ自分は一瞬で精剣スキルを把握したと胸を反らせられるたちであるからこそ、ファンの讃州さんしゅう旺院おういん非時陰歌ときじくのかげうたへ嘲笑を向ける。

「Lレアを宿していた女は蒸発して消滅した!」

 アイシャの死で、万が一に過ぎなくとも、戦力になるヴァラー・オブ・ドラゴンは消失した。

「使っていた剣士も、無謀な格好だ」

 ヴィーは崩れ落ちようとしている。

 もうまともに立っていられる剣士はいない、とフミはわらうのみ。コバックとパトリシアは直接、見ていないが、下で大慌てしている村人共にいるのでは、二度目の火炎魔法で死しかないものと断じた。

「いずれ、使ってやろう。そのためのヘロウィンだ」

 また嗤う。

 地に崩れたヴィーの身体が見えた。

 その向こうで、必死になって精剣をかざしているファンの姿に、更なる嘲笑を加える。

「そんな位置で、何ができるというんだろうな。攻撃スキルだったとしても、私の魔法で掻き消されてしまうくらいなのにな」

 嗤うフミであったが、精剣を持つファンのこそ、この時、嘲りの表情が浮かんだ。

「バカ面さげてる場合か?」

 讃州旺院非時陰歌を構えるファンの姿は、電撃魔法で消滅させられそうになっている姿ではない。

 そしてフミも、自分の足で立っている。

「!?」

 そこでやっと、フミは自分のいる場所が死人で造り上げた巨人の中ではない事に気付いた。


 精剣のスキルが捉えたぞ、とファンが宣言する。


「傷跡のウェヌス」

 ヴィーが稼いだのは高々、一歩に過ぎなかったが、その一歩こそ、黄金にも勝るものだった。

不干渉領域・・・・・だ」

 死者で作った巨人も、この場には入れない。

「入れるのは二人。しかし出られるのは一人」

 一騎打ちに勝利した方のみが出られる空間の中だ。

 ――ヴィー……。

 振り向く事は許されず、フミから意識を逸らす事すら死を意味する一対一の空間であるが、ファンは一瞬、この場に導いてくれた親友の顔を思い浮かべた。

 ――エル……。

 そして、この場を形作る精剣を宿す少女の顔も。

 ――特別な友達・・・・・を一人、選ばなきゃいけない時が来るってヴィーはいってたか。

 その特別な一人に、ファンはエルを選んだ。しかし、ただ一人に対し、誠実になるということは、他の誰かには不誠実になるという事の裏返しでもある。

 ――ヴィーに、消えない傷跡をつけてたんだな。

 傷跡を抱えたヴィーを思えば、そしてその想い故に、この場にファンを立たせたのだと考えれば、自分の不明に腹が立つ。

 しかし同時に思う事は、今の勝機を作ってくれたエルの事。

 ――エルはヴィーの事を分かってたんだよな。

 如何《いか》なる法則があって精剣が、またスキルが宿るのかは知らないが、ファンは讃州旺院非時陰歌に宿るスキルこそがエルの想いだと理解していた。


 傷跡のウェヌス。


 スキルの名には、ヴィーに残されたもの・・が、効果にはヴィーに対する態度が示されている。

 ――エルは、一対一で傷跡と向かい合えって思ってたんだな。

 ならば今、ファンはその想いを両足に込め、己の立ついしずえとし、敵を怖れる己の心に立ち向かう。

 しかしフミの笑みは消えない。

「フッ」

 今尚、フミは怖れるに足らないと考えている。

「一騎打ち、望むところ!」

 ヘイロウィンを振り上げ、ファンに躍りかかった。

 構えているのだから、当然、ファンは動く。徹底的に後の先――敵の挙動を見てから動いても、先に挙動を完成させる秘技を発揮し、フミが振り回すヘロウィンを受け流そうとする。

 ――バカメ!

 フミの笑みは、そう告げていた。

 ファンが受け流そうとするヘロウィンは、不意に光を宿す。赤、次いで白、最後に青と一瞬で光の色を変化させたのは、刃に宿る熱のため。


 電磁式振動剣だ。


「デュアルスキルだ! Lレアでは常識だ!」

 知らなかっただろうという嘲笑をファンへ向けるフミ。

「刀身を衝突させれば、より大きなエネルギーを持つ方が勝る!」

 へし折ってやると目を見開くフミに対し、ファンは細い目を更に鋭くするのみ。

「確かに、強くて凄くていい剣だ」

 受け流そうとした動作に間違いはなく、ファンの刀身も輝きを宿す。エルの精神感応式振動剣が発動したのだ。

 ――だけど……。

 刀身の衝突によって激しい火花が散り、二人の顔を焼いていく。

 その火花の中、ファンはぐるりと剣を半回転させ――、


「技術は追い付いてるか!?」


 ヘロウィンの刀身を巻き込み、弾く。

 火花が止まる中、宙を舞ったのは切断されたヘロウィンの刀身だった。

「――!」

 フミが目を剥く。

 確かにヘロウィンの方が強い力を持っていたのだろう。

 だが刃を垂直に押し当ててしまったフミに対し、ファンは刃を傾斜させ、最も浅い角度で受け止めた。

 断面積の差――僅かばかりとしかいい様がないが、その差が明暗を分ける。

 ――いいや!

 精剣を構えるファンは、理屈こそそうであっても、明暗を分けたのはひとえに人なのだという。

 神に選ばれたというフミの言葉には嘲笑を向けたが、ファンの精剣こそが――ファンの心を救ってくれるエルに宿った剣こそが伝説級なのだ。


 女神の白刃・・・・・にて、断てぬ敵があろうか!


「――!?」

 ファンの刃は、フミに悲鳴も断末魔も上げさせない。

 不干渉領域が解き放たれると、首を失ったフミが倒れた。

「……」

 しかしファンからも、勝利の雄叫びはなかった。

「誰も笑えないッスわ」

 倒れているヴィーへ歩み寄り、肩を貸すのみ。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...