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第2話
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リビングでは、母親が憔悴しきった顔で荷物を纏めていた。父親は玄関脇にある寝室で電話をしていたようだ。バタバタと慌ただしい音をたてながらリビングに入る。
「準備は良いか!必要なもの以外は置いていけよ!」
手には車の鍵が握り締められている。祐介は置いていかれる思考と状況に追い付くために言った。
「なあ、説明してくれよ。それに、今からどこにいくつもりなんだよ!」
「八幡西警察署だ!避難した人を受け入れている」
黒埼にある父親の勤務先だった。車で十分ほどの距離だ。だが、黒埼から真っ直ぐ突き抜ける国道二百号線の惨状を見てしまった祐介には、とてもじゃないが辿り着ける気がしなかった。
逃げる人間の肉を喰らい、血を啜る。外にいる連中は、はっきり言って異常者だ。
「下手に外へ出るより、ここにいた方が良いんじゃないかしら?」
「馬鹿を言うな!」
父親は口の端に溜まった泡を興奮気味に飛ばしながら母親の主張を一蹴した。正直、祐介も母親の意見に賛成だったのだが、こうも必死になっているのだから、何か出なければいけない理由があるのだろう。
「親父、分かる範囲で良い……教えてくれよ、何が起きてんだ?」
祐介の問い掛けに、父親は逡巡しているようだ。頻りに玄関をチラチラと見ている。重苦しい雰囲気の中、父親は口を開く。
「俺も正確には分からない……朝一番に連絡があってな。昨日の飛行機事故を覚えているよな?」
祐介は、ゆっくりと頷いた。あれだけニュースが大々的に報じていたのだから、忘れられる筈がない。
「その現場で死体袋にいれられていた人間が、突然起き上がったらしい。それからは、あっという間にこんな状態になっていたらしい」
らしい、という不確定を連続して口にする。事態を完璧に把握しているのは、この場には誰もいないようだった。祐介は続けて訊いた。
「それで、なんで警察署なんだよ?お袋が言ったようにここにいた方が安全じゃないか?」
「扉なんざ時間稼ぎにしかならない。事が起きてまだ数時間しか経ってないんだぞ!なのにこの有り様だ!どういう意味かはすぐに分かるだろ!」
怒鳴った父親は、踵を返して玄関まで早足で歩くと、扉の中心にある覗き穴から廊下を確認し、すぐさま舌打ちした。
「どうしたんだよ?」
父親は右手の掌を祐介に見せ、人差し指を唇に当てた。喋るな、静かにしろ。祐介は自ら口を両手で塞ぎ、父親と場所を交代した。
祐介の自宅から出ると、そこから先は、鼠色のタイルが張られた廊下に出る。壁は白を基調とした昔ながらのコンクリートマンションだ。等間隔に十のドアが並んでおり、祐介一家は601号室の角部屋だ。エレベーターは610号室にある隣のスペースに設置されいる。
つまりは、廊下を横切らなければならないのだが、小窓から見える限りでも、603号室前と608号室前に異常者の群れからはぐれたであろう二人が、水浴びでもしたかのように血を滴らせ、まるで全身に走る痛みに耐えるような、低い声を上げている。位置が最悪だと祐介は唇を噛んだ。
「準備は良いか!必要なもの以外は置いていけよ!」
手には車の鍵が握り締められている。祐介は置いていかれる思考と状況に追い付くために言った。
「なあ、説明してくれよ。それに、今からどこにいくつもりなんだよ!」
「八幡西警察署だ!避難した人を受け入れている」
黒埼にある父親の勤務先だった。車で十分ほどの距離だ。だが、黒埼から真っ直ぐ突き抜ける国道二百号線の惨状を見てしまった祐介には、とてもじゃないが辿り着ける気がしなかった。
逃げる人間の肉を喰らい、血を啜る。外にいる連中は、はっきり言って異常者だ。
「下手に外へ出るより、ここにいた方が良いんじゃないかしら?」
「馬鹿を言うな!」
父親は口の端に溜まった泡を興奮気味に飛ばしながら母親の主張を一蹴した。正直、祐介も母親の意見に賛成だったのだが、こうも必死になっているのだから、何か出なければいけない理由があるのだろう。
「親父、分かる範囲で良い……教えてくれよ、何が起きてんだ?」
祐介の問い掛けに、父親は逡巡しているようだ。頻りに玄関をチラチラと見ている。重苦しい雰囲気の中、父親は口を開く。
「俺も正確には分からない……朝一番に連絡があってな。昨日の飛行機事故を覚えているよな?」
祐介は、ゆっくりと頷いた。あれだけニュースが大々的に報じていたのだから、忘れられる筈がない。
「その現場で死体袋にいれられていた人間が、突然起き上がったらしい。それからは、あっという間にこんな状態になっていたらしい」
らしい、という不確定を連続して口にする。事態を完璧に把握しているのは、この場には誰もいないようだった。祐介は続けて訊いた。
「それで、なんで警察署なんだよ?お袋が言ったようにここにいた方が安全じゃないか?」
「扉なんざ時間稼ぎにしかならない。事が起きてまだ数時間しか経ってないんだぞ!なのにこの有り様だ!どういう意味かはすぐに分かるだろ!」
怒鳴った父親は、踵を返して玄関まで早足で歩くと、扉の中心にある覗き穴から廊下を確認し、すぐさま舌打ちした。
「どうしたんだよ?」
父親は右手の掌を祐介に見せ、人差し指を唇に当てた。喋るな、静かにしろ。祐介は自ら口を両手で塞ぎ、父親と場所を交代した。
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