感染

宇宙人

文字の大きさ
16 / 419

第4話

しおりを挟む
異常者の一人が手を伸ばし、母親の髪を掴んだ。

「この!」

 父親が三度バットを振り上げるが、このまま振り下ろせばどうなるかは子供でも分かる。必死に抵抗を続ける母親は、二人目の異常者に左耳をかじりとられた。鋭く熱い痛みに、喚き声をあげる母親の片腕を引っ張り、なんとか助け出そうとする祐介だが、異常者の歯が、ガチリ、と音をたて、それを阻んだ。咄嗟に手を引いた祐介に代わり、請うように伸ばされた母親の腕を父親が掴んだ。
 しかし、異常者の狙いは、父親の手首に変わる。
 絶え間なく襲う激痛により身体が硬直してしまっている母親の掌は、きつく縛られたように父親を離さない。そして、父親の腕に、あらん限りの咬筋力で異常者の一人が噛みついた。骨まで達しているのかミシミシと軋みをあげている。 

「このイカれ野郎があ!」

 祐介は、父親の手を離れたバットを拾い、食らい付く異常者の顔面にグリップエンドを叩きつけた。折れた歯を残したまま、異常者は父親を解放した。すぐさま、祐介は母親と父親の手をほどき、腕を回して引きずるように二人を引き離す。

「待て祐介!お前!」

「親父!諦めてくれ!母さんは……!」

「諦められるか!離せ!あいつを……!」

 衣服の上から強引に胸を裂かれ、左右の乳房は両肩の位置で、頼りなく垂れている。露出した臓器は素手で力任せに引きちぎられ、異常者達の口内で潰されていく。母親は、 体内で込み上がった血で喉が塞がっているのだろう。 もう声をあげることは出来なかった。
 だが、母親の意識はまだ残っているようだ。尋常ならざる重苦の中、母親の涙に滲んだ瞳がゆっくりと動き、二人の背後を見据えた。行ってくれ、今のうちに逃げて、そう母親の双眸は訴えかけてきていた。 

「母さん……ごめん……ごめん!」

 祐介は、父親に肩をかして駆け出した。今、振り返ってしまえば、母親と同じ道を辿ろうとしてしまうことが分かっていたからだ。二人を命掛けで見送った母親は、空っぽになりつつある自らの肉体を見ることなく、その瞼を静かに下ろした。
 祐介はエレベーターに入ると、尾を引かないように一階へのボタン力強く押した。知らぬ間に指が震えている。

「親父……腕は大丈夫か?」

「ああ……なんとかな……」

 父親は悲痛の面持ちだった。目の前で、長年苦楽を共にした伴侶が生きたまま身体を開かれた上に、異常者の胃袋に収められてしまった。この事実を目の前で突き付けられてしまった父親の心境は、祐介以上に悲痛に満ちているだろう。その重さは到底、計り知れず、目線を下げたところで、エレベーターは一階に到着する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

三分で読める一話完結型ショートホラー小説

ROOM
ホラー
一話完結型のショートショートです。 短いけれど印象に残るそんな小説を目指します。 毎日投稿して行く予定です。楽しんでもらえると嬉しいです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

意味が分かると、分からないと怖い話【体験談+】

緑川
ホラー
ショートショートの寄せ集め。 幻想的から現実味溢れるものなど様々、存在。 出来の良し悪しについては格差あるので悪しからず。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...