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第7話
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※※※ ※※※
同時刻……
北九州市小倉北区鍛冶町に日本聖公会小倉インマヌエルという教会がある。内部は一般的なものだ。
赤を基調とした壁は明るさを演出し、参拝者に用意された長椅子が、横に二列で五台並び映画に出るような立派は十字架はなく教壇がある。グランドピアノも置かれていることから、讃美歌も歌われているのだろう。だが、今、奏でられているのは、男性の甲高い悲鳴だった。カソックを着用しているので、この教会にいた牧師だろう。
牧師の胸には、刃が肉体に埋もれるほどに深々と突き立てられたナイフが、まるで初めからそこにあった飾られたオブジェのように、違和感なく淡い光を放っていた。
そのように見えるのは、牧師の傍らに膝まづき、両手を合わせて祈りを捧げる長身の男のせいだろう。カソックを脱いでいる彼の姿は、どこか異常だった。
線の細い身体を一昔前に現れた白装束集団のように真っ白な服で固め、両の袖と眼鏡は返り血で、ぐっしょりと紅い。短い髪をセットしているように立たせているが、毛先から落ちるのは、やはり血だ。そんな男が、牧師の死体を足元に置いたまま黙祷を捧げているのだ。異常という他に言葉が見付からない。彼は、この日、化け物へと変わり果てた両親を自らの手で殺したその瞬間から、名前を捨てた。手向けのつもりなのだろう。
彼は、名字を「安部」といった。
安部は、ポケットから新聞の切り抜きを取りだし、牧師から流れる血を吸わせる。
『とある国の少女には、夢があった。優しい人になって困ってる人を助けたいと、少女は語った。そんな少女が、身体に爆弾を巻かれ、遠隔操作で人間爆弾として使用される事件があった。これが悲劇じゃなくてなんだというのか。これは、世界の悲劇そのものだ。小さな願いすら叶えられない世の中をどう見詰めれば愛せるのか、今、我々は試されているのかもしれない。』
小さな小さな一面に載っていた内容に、安部は、感銘を受け、切り抜きを持ち歩いていた。
そして、こう考えた。今、自分達が晒されている状況は、神様が下した罰なのではないか。あまりにも恵まれた環境にいる人間達に対しての神罰なのではないか。それならば、外を徘徊し、動き回る者は神の使徒として、腐った人間に鉄槌をおろしているのではないだろうか。つまり、現在も生き延びている私は、神に選ばれた存在なんだ。
だからこそ、世の中に絶望し、それほど熱心に教えを説く宗教家でもなかった安部が、こうして祈りを捧げている。自らを選別してくれた神に感謝を捧げているのだ。
神より課せられた使命、それは選別だ。必要な人間だけを生かし、いらない人間は使徒になってもらい、共に世界を救済する。
安部が、そんな大義を掲げていた時、教会の入口が開かれた。現れたのは安部と同じ姿をした小柄な男だった。
男が安部の背中に声を掛ける。
「準備は終わったぞ、安部さん……ん?なんだ、牧師さん殺しちゃったのか?」
安部は、その問いかけに淡々とした口調で返した。
「ええ、彼は選別から外されていたようです」
「ひゃはははは!今まで神様に仕えていながら、選別されねえなんて、神様も皮肉な奴だな、おい!」
男はさも可笑しそうに腹を抱えながら、息をしていない牧師の顔面を踏みつけた。
「止めなさい、東さん。彼はこれから使徒として共に選別をしていく我々の同志になるんです。冒涜は許さない」
立ち上がり、東と呼んだ男へ顔を向ける。東は、肩をすくねた。
「悪い悪い、そう怒るなよ、俺は基本的には主たる安部孝之、アンタに従うからよ」
唇を左に上げて言った。人を遠ざけるような歪な笑みだが、安部は、軽口を叩くような気軽さで口を開く。
「私としては、なぜ貴方のような方が選ばれたのか、と疑問に感じるのですがね」
「あ?それが神様の思し召しってやつなんじゃねえの?」
同時刻……
北九州市小倉北区鍛冶町に日本聖公会小倉インマヌエルという教会がある。内部は一般的なものだ。
赤を基調とした壁は明るさを演出し、参拝者に用意された長椅子が、横に二列で五台並び映画に出るような立派は十字架はなく教壇がある。グランドピアノも置かれていることから、讃美歌も歌われているのだろう。だが、今、奏でられているのは、男性の甲高い悲鳴だった。カソックを着用しているので、この教会にいた牧師だろう。
牧師の胸には、刃が肉体に埋もれるほどに深々と突き立てられたナイフが、まるで初めからそこにあった飾られたオブジェのように、違和感なく淡い光を放っていた。
そのように見えるのは、牧師の傍らに膝まづき、両手を合わせて祈りを捧げる長身の男のせいだろう。カソックを脱いでいる彼の姿は、どこか異常だった。
線の細い身体を一昔前に現れた白装束集団のように真っ白な服で固め、両の袖と眼鏡は返り血で、ぐっしょりと紅い。短い髪をセットしているように立たせているが、毛先から落ちるのは、やはり血だ。そんな男が、牧師の死体を足元に置いたまま黙祷を捧げているのだ。異常という他に言葉が見付からない。彼は、この日、化け物へと変わり果てた両親を自らの手で殺したその瞬間から、名前を捨てた。手向けのつもりなのだろう。
彼は、名字を「安部」といった。
安部は、ポケットから新聞の切り抜きを取りだし、牧師から流れる血を吸わせる。
『とある国の少女には、夢があった。優しい人になって困ってる人を助けたいと、少女は語った。そんな少女が、身体に爆弾を巻かれ、遠隔操作で人間爆弾として使用される事件があった。これが悲劇じゃなくてなんだというのか。これは、世界の悲劇そのものだ。小さな願いすら叶えられない世の中をどう見詰めれば愛せるのか、今、我々は試されているのかもしれない。』
小さな小さな一面に載っていた内容に、安部は、感銘を受け、切り抜きを持ち歩いていた。
そして、こう考えた。今、自分達が晒されている状況は、神様が下した罰なのではないか。あまりにも恵まれた環境にいる人間達に対しての神罰なのではないか。それならば、外を徘徊し、動き回る者は神の使徒として、腐った人間に鉄槌をおろしているのではないだろうか。つまり、現在も生き延びている私は、神に選ばれた存在なんだ。
だからこそ、世の中に絶望し、それほど熱心に教えを説く宗教家でもなかった安部が、こうして祈りを捧げている。自らを選別してくれた神に感謝を捧げているのだ。
神より課せられた使命、それは選別だ。必要な人間だけを生かし、いらない人間は使徒になってもらい、共に世界を救済する。
安部が、そんな大義を掲げていた時、教会の入口が開かれた。現れたのは安部と同じ姿をした小柄な男だった。
男が安部の背中に声を掛ける。
「準備は終わったぞ、安部さん……ん?なんだ、牧師さん殺しちゃったのか?」
安部は、その問いかけに淡々とした口調で返した。
「ええ、彼は選別から外されていたようです」
「ひゃはははは!今まで神様に仕えていながら、選別されねえなんて、神様も皮肉な奴だな、おい!」
男はさも可笑しそうに腹を抱えながら、息をしていない牧師の顔面を踏みつけた。
「止めなさい、東さん。彼はこれから使徒として共に選別をしていく我々の同志になるんです。冒涜は許さない」
立ち上がり、東と呼んだ男へ顔を向ける。東は、肩をすくねた。
「悪い悪い、そう怒るなよ、俺は基本的には主たる安部孝之、アンタに従うからよ」
唇を左に上げて言った。人を遠ざけるような歪な笑みだが、安部は、軽口を叩くような気軽さで口を開く。
「私としては、なぜ貴方のような方が選ばれたのか、と疑問に感じるのですがね」
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