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第11話
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ナイフの刃先から血が垂れる。
女性は壁伝いに這うこともしなくなった。腕が痛むのだろう。父親の場合、祐介が助けたこともあり、深刻なダメージはなかったが、女性は違う。骨に達するほどの咬筋力で噛まれているのだ。
彰一は構わずに間合いを詰めていく。門前に蔓延る異常者達が、今から起きる凄惨な一幕を煽るように一段と喚き始めた。まるで、合唱のようだ。奏でられるのは、人を狂わす痛苦の叫びに他ならない。すがるような女性の目を、誰もが直視できなかった。文字どおり、彰一の持つナイフの矛先が自分に向けられるのが恐ろしいからだ。
女性は、壁に両手を突き、どうにか窓枠にしがみつくと、窓の鍵へ左手を伸ばした。その瞬間を逃さずに、走りだそうとした彰一は、突然、背後から聞こえた銃声に足を止めた。
あれほど逃れようとしていた女性の後頭部が弾け、窓ガラスに額からぶつかり、激しい音を響かせる。力なく、ダラリ、と下がった両手、丸まって動かない背中が女性の死を全員に伝える。
「もう良いだろ......」
力なく父親が囁いた。その表情は青ざめている。同じ立場にいる人間として、見てられなくなったのだろう。薄い煙を昇らせる銃口を下げ、腕を突き上げて傷口を晒した。
「他に噛まれた者はいないかチェックする!僅かな傷も見逃すな!隠すな!傷があるものは、誰かに任せるか、自分で絶つか決めろ!」
それは、残酷な宣言だった。自殺か他殺か、どちらにしろ死ぬことに変わりはない。途端に、署内で喧騒が巻き起こった。日本独自使用のM360、父親は、まだ四発残った銃を祐介に差し出す。
祐介は、その意味を悟り、声をあげた。
「ふざけんな!嫌に決まってんだろ!」
やり場のない憤りが、体内を巡っていき、突発的に出た言葉だった。だが、父親は何も返さずに、右手に乗せた拳銃の熱を確かめるように握る。
「なんなんだよ!そんなのおかしいだろ!昨日までは普通だった!学校や仕事や部活に行って、帰ってお袋が作ってくれた飯を家族で食べて!怒って、笑って......そんな日常は何処に行っちまったんだよ!」
「祐介......」
「なあ......帰ろうぜ親父......いつもの日常にさ......きっと、お袋だって俺達を待ってるよ......」
項垂れる祐介の頬を両手で挟み、父親は強引に顔を上げさせた。見えた父親の顔は、祐介が見たことがない涙で濡れていた。瞳に溜まった涙を流さぬようにしているのか、震える喉を絞るような声で言った。
「逃げるな!逃げた所で何も変わらない!俺は、受け入れられずにお前に不信感を与えてしまったが、お前は俺のようになってはいけない......」
女性は壁伝いに這うこともしなくなった。腕が痛むのだろう。父親の場合、祐介が助けたこともあり、深刻なダメージはなかったが、女性は違う。骨に達するほどの咬筋力で噛まれているのだ。
彰一は構わずに間合いを詰めていく。門前に蔓延る異常者達が、今から起きる凄惨な一幕を煽るように一段と喚き始めた。まるで、合唱のようだ。奏でられるのは、人を狂わす痛苦の叫びに他ならない。すがるような女性の目を、誰もが直視できなかった。文字どおり、彰一の持つナイフの矛先が自分に向けられるのが恐ろしいからだ。
女性は、壁に両手を突き、どうにか窓枠にしがみつくと、窓の鍵へ左手を伸ばした。その瞬間を逃さずに、走りだそうとした彰一は、突然、背後から聞こえた銃声に足を止めた。
あれほど逃れようとしていた女性の後頭部が弾け、窓ガラスに額からぶつかり、激しい音を響かせる。力なく、ダラリ、と下がった両手、丸まって動かない背中が女性の死を全員に伝える。
「もう良いだろ......」
力なく父親が囁いた。その表情は青ざめている。同じ立場にいる人間として、見てられなくなったのだろう。薄い煙を昇らせる銃口を下げ、腕を突き上げて傷口を晒した。
「他に噛まれた者はいないかチェックする!僅かな傷も見逃すな!隠すな!傷があるものは、誰かに任せるか、自分で絶つか決めろ!」
それは、残酷な宣言だった。自殺か他殺か、どちらにしろ死ぬことに変わりはない。途端に、署内で喧騒が巻き起こった。日本独自使用のM360、父親は、まだ四発残った銃を祐介に差し出す。
祐介は、その意味を悟り、声をあげた。
「ふざけんな!嫌に決まってんだろ!」
やり場のない憤りが、体内を巡っていき、突発的に出た言葉だった。だが、父親は何も返さずに、右手に乗せた拳銃の熱を確かめるように握る。
「なんなんだよ!そんなのおかしいだろ!昨日までは普通だった!学校や仕事や部活に行って、帰ってお袋が作ってくれた飯を家族で食べて!怒って、笑って......そんな日常は何処に行っちまったんだよ!」
「祐介......」
「なあ......帰ろうぜ親父......いつもの日常にさ......きっと、お袋だって俺達を待ってるよ......」
項垂れる祐介の頬を両手で挟み、父親は強引に顔を上げさせた。見えた父親の顔は、祐介が見たことがない涙で濡れていた。瞳に溜まった涙を流さぬようにしているのか、震える喉を絞るような声で言った。
「逃げるな!逃げた所で何も変わらない!俺は、受け入れられずにお前に不信感を与えてしまったが、お前は俺のようになってはいけない......」
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