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第5部 調査
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大量のフラッシュが焚かれる中、戸部は堂々と壇上に立った。黒のスーツは変わらず、現在の九州地方における被害情況について、淡々と事務的な口調で述べていく。
墜落した航空機に乗っていた搭乗者、百万都市を有する北九州市がある福岡県の現状、そして、感染者の狂暴性、九州地方の隔離の成功、被害者数、それらを踏まえながらの会見は、約一時間に及んだ。
続いての質疑応答にも、時折、涙を見せながら、戸部は淀みなく自身の見解を答える。
「犯行声明は届いていません、が、これは明らかなテロリストによる行為と我々は認識しております。現在、微妙な状況にある日本に対して、過激派のテロリストが動いたのだと考えています。あくまで、推測の域を出ないのが非常に悔しく、二次被害の可能性もあり、なかなか救助活動に移れないこと、また、国民の皆様に、一刻も早く情報をお教えできない、私の不甲斐なさに憤りを覚えております。大変、申し訳ございません」
戸部は、カメラの前で頭を垂れた。一斉に焚かれるフラッシュの奥で、戸部は、にやり、と嗤い嘲笑していた。
そんな時、一人の男が手を上げた。ヨレヨレのTシャツに、無精髭、くたびれたネクタイ、記者会見という場には、やや不釣り合いの男は、名前を田辺将太という。
「質問願います」
戸部の隣にいた女性は、田辺の姿に眉をしかめ、無視を決め込もうとしたが、頭を上げた戸部が首を横に振った。
女性が、どうぞ、と許可を出してから、立ち上がり、田辺は一礼する。
「今回の事件に対する総理の手際......例えば、関門橋の破壊、あらゆる機関の停止、九州地方への手配が早かったように思えるのですが、これだけ迅速な行動をとれたのは、何故でしょうか?」
戸部は、さきほどまでと同じように、濁さずに返した。
「全てどんな事態が起きても、対処できるよう備えていたからです。及び、各機関の方々の努力あってこそでしょう。私個人は、何をした訳ではありません」
どこまでも謙虚な姿勢に、数名の記者から感銘の拍手すら起きた。田辺も、両手を打ち付けている。だが、座ることはなく、続けて訊いた。
「では、次の質問ですが、今回の事件に厚労省の方は、どう動かれているのでしょうか?聞く所によると、墜落した旅客機には、薬品が積まれており、それが漏洩した可能性がある、とありましたが?」
「と、言いますと?」
田辺は、右手に持ったペンで困ったように頭を掻いた。言いにくそうに尋ねる。
「その薬品が、ただの航空機墜落事件を悪化させる引き金になった......という可能性があるのではないでしょうか?」
田辺の質問は、そんなB級映画のような事態がある訳がない、と会場中の失笑を買ったが、田辺は真剣そのもののようだ。
戸辺は呆れたとばかりに、額に指を当てる。
「なかなか想像力が豊かな質問ですが、現在、調査中とだけお答えします。それでよろしいですか?」
「待って下さい。まだ、厚労省等の動きを聞いていません」
「......そちらも現在、調査中です」
「はい、分かりました。以上です」
田辺は、椅子に座り、聞いた内容をメモに書き残した。他の記者は、どうでも良い質問だと思ったのか、誰もペンを走らせる様子はない。
墜落した航空機に乗っていた搭乗者、百万都市を有する北九州市がある福岡県の現状、そして、感染者の狂暴性、九州地方の隔離の成功、被害者数、それらを踏まえながらの会見は、約一時間に及んだ。
続いての質疑応答にも、時折、涙を見せながら、戸部は淀みなく自身の見解を答える。
「犯行声明は届いていません、が、これは明らかなテロリストによる行為と我々は認識しております。現在、微妙な状況にある日本に対して、過激派のテロリストが動いたのだと考えています。あくまで、推測の域を出ないのが非常に悔しく、二次被害の可能性もあり、なかなか救助活動に移れないこと、また、国民の皆様に、一刻も早く情報をお教えできない、私の不甲斐なさに憤りを覚えております。大変、申し訳ございません」
戸部は、カメラの前で頭を垂れた。一斉に焚かれるフラッシュの奥で、戸部は、にやり、と嗤い嘲笑していた。
そんな時、一人の男が手を上げた。ヨレヨレのTシャツに、無精髭、くたびれたネクタイ、記者会見という場には、やや不釣り合いの男は、名前を田辺将太という。
「質問願います」
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女性が、どうぞ、と許可を出してから、立ち上がり、田辺は一礼する。
「今回の事件に対する総理の手際......例えば、関門橋の破壊、あらゆる機関の停止、九州地方への手配が早かったように思えるのですが、これだけ迅速な行動をとれたのは、何故でしょうか?」
戸部は、さきほどまでと同じように、濁さずに返した。
「全てどんな事態が起きても、対処できるよう備えていたからです。及び、各機関の方々の努力あってこそでしょう。私個人は、何をした訳ではありません」
どこまでも謙虚な姿勢に、数名の記者から感銘の拍手すら起きた。田辺も、両手を打ち付けている。だが、座ることはなく、続けて訊いた。
「では、次の質問ですが、今回の事件に厚労省の方は、どう動かれているのでしょうか?聞く所によると、墜落した旅客機には、薬品が積まれており、それが漏洩した可能性がある、とありましたが?」
「と、言いますと?」
田辺は、右手に持ったペンで困ったように頭を掻いた。言いにくそうに尋ねる。
「その薬品が、ただの航空機墜落事件を悪化させる引き金になった......という可能性があるのではないでしょうか?」
田辺の質問は、そんなB級映画のような事態がある訳がない、と会場中の失笑を買ったが、田辺は真剣そのもののようだ。
戸辺は呆れたとばかりに、額に指を当てる。
「なかなか想像力が豊かな質問ですが、現在、調査中とだけお答えします。それでよろしいですか?」
「待って下さい。まだ、厚労省等の動きを聞いていません」
「......そちらも現在、調査中です」
「はい、分かりました。以上です」
田辺は、椅子に座り、聞いた内容をメモに書き残した。他の記者は、どうでも良い質問だと思ったのか、誰もペンを走らせる様子はない。
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