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第12話
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今、銃を持っているのは、俺と安部さんだけだ。ならば、あの銃声は安部さんが鳴らしたことになる。銃を撃たなければならない状況下にあるということだ。
......何の為に?使徒はバリケードから入ってこれない。一階の連中は抵抗する素振りもなかった......いや、待て。俺は大切なことを失念しているんじゃないか?
東の脳裏に、以前、安部に言った言葉が甦る。
悪いものほど、感染していく速度は早い。募金活動なんかより、よっぽど早いぜ
そう、広がっていく速度は、圧倒的に悪意のほうが早い。しかし、なんにでも反対は存在する。こんな絶望しかない世界でも、それはいつまでも変わることはない。一階から響いてきた外を徘徊する死人には絶対に出せない、今を生きている人間だけにしか出せない、幾重にも重なった活発な喚声が東の背中を叩き、弾かれるように踵を返した。
「行かせるかよ!」
小金井が咄嗟に東の足にしがみついた。ガクン、と下がる視界には、一階にいる安部が、小金井の行動に活力を取り戻し、反旗を翻した一団に追われている姿がある。
「安部さん!離せよこのボケがあああぁぁ!」
東は、床に這ったまましがみつく小金井へ銃口を向け引き金を引いたが、間一髪、達也の蹴り上げで、弾丸はあらぬ方向へ飛んでいき、拳銃は一階へと落下していく。
「小金井の勇気や勇敢な行動は、確かに全員に伝わったみたいだな」
言いながら放った渾身の右フックは、東の頬を打ち抜いた。東の身体は、小金井の頭を突き入れた自動扉を抜け連絡通路へ転がる。東が痛みで唸っている隙に、達也は小金井を肩をかして立ち上がらせた。直後、連絡通路から怒声が轟ぐ。
「こ、が、ね、いぃぃぃぃぃぃ!!」
達也は絶句した。鍛えた自衛官同士ならまだしも、東は身長も低く、体格も劣る。右手には確かな手応えも残っているにも関わらず、もうダメージが抜けきったかのように駆け出した。
「小金井!下がれ!」
達也が次に繰り出した前蹴りは、空しく空を切った。東は、最小の動きで避けたのだ。達也の眼前にあるのは、東の右腕だった。助走をつけたラリアットが達也の喉を直撃する。バランスの悪い片足に加え、強引に腕の力だけで達也を地面に叩きつけた。
「ごはっ!」
東の体つきからは想像もつかない力の正体は、単純な腕力だ。達也が首に感じた東の腕は異様な盛り上がりをしていた。思い返してみれば、妙な点は幾つもある。人間の頭の重さは、ボウリングの球と同等とはいえ、強化プラスチックで作られたパネルを割ることは難しい。
それに加え、通常、人間は殴り合いの場面で知らぬ内にストッパーを掛けるものだが、東の暴力には微塵の加減もない。
「があああああああぁぁぁぁ!」
嗔恚に燃える余りに声が震えている。その矛先を向けられた小金井は、東の迫力になす統べなく組伏せられた。
二発、三発、と振り下ろされた拳は、全て小金井の急所に落とされていた。鼻、額、左目、四発目を達也が背後から拳を掴んで止め、間を開かずに背負い投げ、もう一度、連絡通路へと東を戻した。
......何の為に?使徒はバリケードから入ってこれない。一階の連中は抵抗する素振りもなかった......いや、待て。俺は大切なことを失念しているんじゃないか?
東の脳裏に、以前、安部に言った言葉が甦る。
悪いものほど、感染していく速度は早い。募金活動なんかより、よっぽど早いぜ
そう、広がっていく速度は、圧倒的に悪意のほうが早い。しかし、なんにでも反対は存在する。こんな絶望しかない世界でも、それはいつまでも変わることはない。一階から響いてきた外を徘徊する死人には絶対に出せない、今を生きている人間だけにしか出せない、幾重にも重なった活発な喚声が東の背中を叩き、弾かれるように踵を返した。
「行かせるかよ!」
小金井が咄嗟に東の足にしがみついた。ガクン、と下がる視界には、一階にいる安部が、小金井の行動に活力を取り戻し、反旗を翻した一団に追われている姿がある。
「安部さん!離せよこのボケがあああぁぁ!」
東は、床に這ったまましがみつく小金井へ銃口を向け引き金を引いたが、間一髪、達也の蹴り上げで、弾丸はあらぬ方向へ飛んでいき、拳銃は一階へと落下していく。
「小金井の勇気や勇敢な行動は、確かに全員に伝わったみたいだな」
言いながら放った渾身の右フックは、東の頬を打ち抜いた。東の身体は、小金井の頭を突き入れた自動扉を抜け連絡通路へ転がる。東が痛みで唸っている隙に、達也は小金井を肩をかして立ち上がらせた。直後、連絡通路から怒声が轟ぐ。
「こ、が、ね、いぃぃぃぃぃぃ!!」
達也は絶句した。鍛えた自衛官同士ならまだしも、東は身長も低く、体格も劣る。右手には確かな手応えも残っているにも関わらず、もうダメージが抜けきったかのように駆け出した。
「小金井!下がれ!」
達也が次に繰り出した前蹴りは、空しく空を切った。東は、最小の動きで避けたのだ。達也の眼前にあるのは、東の右腕だった。助走をつけたラリアットが達也の喉を直撃する。バランスの悪い片足に加え、強引に腕の力だけで達也を地面に叩きつけた。
「ごはっ!」
東の体つきからは想像もつかない力の正体は、単純な腕力だ。達也が首に感じた東の腕は異様な盛り上がりをしていた。思い返してみれば、妙な点は幾つもある。人間の頭の重さは、ボウリングの球と同等とはいえ、強化プラスチックで作られたパネルを割ることは難しい。
それに加え、通常、人間は殴り合いの場面で知らぬ内にストッパーを掛けるものだが、東の暴力には微塵の加減もない。
「があああああああぁぁぁぁ!」
嗔恚に燃える余りに声が震えている。その矛先を向けられた小金井は、東の迫力になす統べなく組伏せられた。
二発、三発、と振り下ろされた拳は、全て小金井の急所に落とされていた。鼻、額、左目、四発目を達也が背後から拳を掴んで止め、間を開かずに背負い投げ、もう一度、連絡通路へと東を戻した。
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