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第14部 懸隔
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東は走っていた。誰よりも早く安部に追い付くためにだ。小金井にしてやられ、東はつくづく自分が甘くなったと痛感していた。以前ならば、小金井に猜疑の目を向けた時点で、その喉元を掻き切っていただろう。だが、今はどうだ。
安部を優先するあまり、かつてない危機に直面している。二階から一階へ降りるエスカレーターに差し掛かるが、そこにはすでに大勢の使徒がけたたましい咆哮をあげながら集まっていた。いくら東でも多勢に無勢だ。悪態をついて踵を返した東の背後から、海嘯のような足音が迫る。
中間市のショッパーズモールは、建物が大きい分、連絡通路を崩されようとも、移動する階段の数も相当数ある。自衛官を軟禁していた寝具売り場の反対に、一階に出る階段がある。
上に逃げるという選択肢は東の中にはない。その分、安部との距離が遠退いてしまうからだ。東は、数秒だけ振り返り、使徒との距離を確認する。数は増えたものの、余裕はある距離だ。
寝具売り場から、ぐるり、と迂回し、階段を駆け降りる準備を整えた東は、勢いの付いた身体を一段目から手摺に掴まって強引に停止させることになる。
東の眼界に広がった光景は、まさに使徒の海だった。数百規模に達しそうな波は、ゆらゆらと揺らしていた身を固め、一斉に東を見上げた。
統率されたような動きに思わず呟いた。
「......やべえ」
一人があげた哮りが、共鳴を起こしたかのように膨らんだ凄まじい音撃は、東の身体を正面から突き抜ける。弾かれるように、東は三階へ駆け上がった。駐車場に出ると、別館へ繋がる通路を駆け抜けるが、立体駐車場内部は破損が酷くなっている。もともと古い建物なので、ガタがきているのは分かっていたが、たった一度の衝撃で通路が分断されてしまっていた。
安部との距離は広がるばかりだ。
「クソが……!クソがぁぁぁぁぁ!」
四肢を突っぱねてやり場のない怒りの雄叫びをあげた瞬間、東の肩を誰かが掴み、引き倒した。
地面に転がった東の眼前には、赤く染まった涎が絡まる歯が迫りつつある。先頭の一人が東に追い付いてきたのだろう。
咄嗟に使徒の濁った眼球へ左手の人差し指と親指を突き入れ、眼窩に引っ掻けて引き離し、身体の位置を入れ換え、使徒を組伏せると同時に、硬く握った右拳を顔の中心へ振り下ろした。噛み千切られたのか、僅かに残っていた鼻ごと、東の拳が使徒の顔面へ沈められる。拳頭に広がる肉と骨が潰れる感触を味わう間もなく、背中に覆い被さるように両腕を広げていた使徒の飛び込みを、身体を縮めて避け、立ち上がる前にサッカーボールを蹴り上げるような鋭い一撃を見舞う。
背後には、数百に近い使徒が、ザワついた集団のような足音をたてて迫っていた。東は、苦虫を噛んだような顔をして、再び走り出した。
安部を優先するあまり、かつてない危機に直面している。二階から一階へ降りるエスカレーターに差し掛かるが、そこにはすでに大勢の使徒がけたたましい咆哮をあげながら集まっていた。いくら東でも多勢に無勢だ。悪態をついて踵を返した東の背後から、海嘯のような足音が迫る。
中間市のショッパーズモールは、建物が大きい分、連絡通路を崩されようとも、移動する階段の数も相当数ある。自衛官を軟禁していた寝具売り場の反対に、一階に出る階段がある。
上に逃げるという選択肢は東の中にはない。その分、安部との距離が遠退いてしまうからだ。東は、数秒だけ振り返り、使徒との距離を確認する。数は増えたものの、余裕はある距離だ。
寝具売り場から、ぐるり、と迂回し、階段を駆け降りる準備を整えた東は、勢いの付いた身体を一段目から手摺に掴まって強引に停止させることになる。
東の眼界に広がった光景は、まさに使徒の海だった。数百規模に達しそうな波は、ゆらゆらと揺らしていた身を固め、一斉に東を見上げた。
統率されたような動きに思わず呟いた。
「......やべえ」
一人があげた哮りが、共鳴を起こしたかのように膨らんだ凄まじい音撃は、東の身体を正面から突き抜ける。弾かれるように、東は三階へ駆け上がった。駐車場に出ると、別館へ繋がる通路を駆け抜けるが、立体駐車場内部は破損が酷くなっている。もともと古い建物なので、ガタがきているのは分かっていたが、たった一度の衝撃で通路が分断されてしまっていた。
安部との距離は広がるばかりだ。
「クソが……!クソがぁぁぁぁぁ!」
四肢を突っぱねてやり場のない怒りの雄叫びをあげた瞬間、東の肩を誰かが掴み、引き倒した。
地面に転がった東の眼前には、赤く染まった涎が絡まる歯が迫りつつある。先頭の一人が東に追い付いてきたのだろう。
咄嗟に使徒の濁った眼球へ左手の人差し指と親指を突き入れ、眼窩に引っ掻けて引き離し、身体の位置を入れ換え、使徒を組伏せると同時に、硬く握った右拳を顔の中心へ振り下ろした。噛み千切られたのか、僅かに残っていた鼻ごと、東の拳が使徒の顔面へ沈められる。拳頭に広がる肉と骨が潰れる感触を味わう間もなく、背中に覆い被さるように両腕を広げていた使徒の飛び込みを、身体を縮めて避け、立ち上がる前にサッカーボールを蹴り上げるような鋭い一撃を見舞う。
背後には、数百に近い使徒が、ザワついた集団のような足音をたてて迫っていた。東は、苦虫を噛んだような顔をして、再び走り出した。
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