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第4話
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戸部が今の地位にいられるのは、野田の根回しがあったからだ。
自尊心の強さを見抜き、利用する為に近付かれたことを戸部は気付いていない。それどころか、生来の気の弱さを隠蔽する為に、事件発生から、徐々に傲りを強くしていっているようにすら見える。疎漏のないよう気を回すほうが大変だ。
野田は、顔を上げ口を開く。
「九州地方の首尾は上々です。これといった連絡もありません」
戸部は、不遜に鼻を鳴らす。
「そんなことは分かりきっている。下らない報告をするな」
「......失礼しました。あと、一つ懸念がありましたが、そちらには私が雇った者が向かっています」
眉を上げた戸部は、視線だけで先を促した。
「とある記者が私を嗅ぎ回っているのです。何か、こちらに繋がるような証拠を掴まれている可能性もあります」
野田は、倨傲が崩れはしないだろうかと表情を窺うが、戸部の顔色は変わらなかった。
「記者くらい、どうにでも出来るだろう。それほど、気に掛ける必要などない」
ぞんざいな返答に目眩がする。
自身の隠れ蓑になりうるだけの立場があるだけに、事件に関する認識の低さは、いずれ野田に悪影響を及ぼす可能性がある。戸部が考えているのは、利益、野田は復讐だ。これは、決定的な違いと言える。
金を手に入れるには、前準備の方に多大な時間を掛けるが、野田のような復讐には後始末のほうがより手間がかかる。早い段階で矯正する必要があるのならば、その手間すら惜しいほどにだ。
ある程度、事が落ち着いたら、雇っている奴等を使っても良いだろう。その後は、彼らをテロリストの首謀者として始末するのはどうだ。そんな算段を築きつつ、野田は言った。
「いいえ、それは違いますよ、総理......彼は、我々にとって最大の脅威に成りうる男です」
大仰な手振りで、戸部が短く笑った時、不意に野田の携帯電話が鳴った。失礼します、と一言挟んで、二三の受け答えの後、電話を切った野田が言った。
「......件の記者を発見したそうなので、少し出掛けます」
踵を返し、扉を素早く閉めた野田は、一度ハンカチで唇を拭うと、しっかりとした足取りで歩き始めた。
※※※ ※※※
広大な中間のショッパーズモールの敷地を、豁然と開いた景色として上空から見た二人組は、目を剥いて息を呑んだ。プロペラの音に反応して空を仰ぐ死者は、数百規模に膨らんでいるようだ。
一体、モール内では、どれほど惨憺たる光景が繰り広げられているのだろうか。もしも、アパッチではなく、生身で降り立つことになれば、そう想像しただけで、身の毛がよだつ。運転席に座る男が言う。
「こいつは凄いな......俺は、生涯で、これ以上にイカれた状況に出逢えないと断言できる......」
自尊心の強さを見抜き、利用する為に近付かれたことを戸部は気付いていない。それどころか、生来の気の弱さを隠蔽する為に、事件発生から、徐々に傲りを強くしていっているようにすら見える。疎漏のないよう気を回すほうが大変だ。
野田は、顔を上げ口を開く。
「九州地方の首尾は上々です。これといった連絡もありません」
戸部は、不遜に鼻を鳴らす。
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「とある記者が私を嗅ぎ回っているのです。何か、こちらに繋がるような証拠を掴まれている可能性もあります」
野田は、倨傲が崩れはしないだろうかと表情を窺うが、戸部の顔色は変わらなかった。
「記者くらい、どうにでも出来るだろう。それほど、気に掛ける必要などない」
ぞんざいな返答に目眩がする。
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ある程度、事が落ち着いたら、雇っている奴等を使っても良いだろう。その後は、彼らをテロリストの首謀者として始末するのはどうだ。そんな算段を築きつつ、野田は言った。
「いいえ、それは違いますよ、総理......彼は、我々にとって最大の脅威に成りうる男です」
大仰な手振りで、戸部が短く笑った時、不意に野田の携帯電話が鳴った。失礼します、と一言挟んで、二三の受け答えの後、電話を切った野田が言った。
「......件の記者を発見したそうなので、少し出掛けます」
踵を返し、扉を素早く閉めた野田は、一度ハンカチで唇を拭うと、しっかりとした足取りで歩き始めた。
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