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第7話
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※※※ ※※※
数十分前から鳴り響きだした警報音は、戦車内部にも聞こえていた。死者の呻きさえも、その音の波に呑み込まれていく。
操縦菅の前で、頭を両腕で抱えていた大地と、戦車の中央で、茫然と立ち尽くしていた新崎は、揃って何事かと顔をあげる。
恐怖で竦み上がっている大地は動けそうにないと判断した新崎は、自らハッチを開き、目だけを覗かせて現状の確認にはいり、目を丸くした。あれだけ戦車に群がっていた死者が、大音量で響き渡る報知器へと突進にも似た速度で激突したり、歯をたてるなどの奇行を行っていたのだ。奇妙な光景以外に、言葉にしようがない。
しかし、新崎にとっては、チャンスだった。脱出不可能とすら思えた戦車内部の暗がりを切り裂くように、ハッチから光が注がれていく。すぐさま、車内へ飛び降り、悲嘆にくれる大地の肩を叩いた。
「おい、しっかりしろ坂下!ここを出るぞ!」
新崎の信じがたい提案に、大地は歯を剥いた。
「ここを出る......?ふざけんな!外がどうなってるか、アンタが知らない訳ないがない!降りた瞬間に、囲まれて喰われて、それでお仕舞いだ!自殺と変わらない!」
「分かっていないのはお前だ!良いか、奴等は、この音に気を散らしてバラバラになっている!脱出するなら今しかない!」
新崎は、大地の胸ぐらを掴み、顔を引き寄せて一気に言った。
「信じられないのなら、引き摺ってでも叩き落としてやる!分かったら、さっさとお前の足元にある鞄を渡せ!」
新崎の指示した鞄は、かなりの大きさがあり、見合うだけの重量もあった。とても持って走れる重さではない。
しかし、新崎は鬼気迫る顔つきで大地に迫った。逃げ出そうという時に、不審な言動だったが、大地の性格からか、勢いに負け、素直に鞄を渡す。
顔に多量の皺を刻みつつ、鞄を肩から袈裟に下げた新崎は、89式小銃一挺とマガジンを二つ大地に持たせ、自身も同じく装備した。
「良いか?まずは、お前が戦車から降りろ。もしものときは、俺が援護する」
こくり、と頷いた大地の前髪は、汗で額に引っ付いている。相当な緊張が目に見えて分かった新崎は、大地の肩に手を置く。
「安心しろ、岩神がいない今、俺にはお前だけが頼りだ。絶対に死なせたりはしない」
「......分かったよ」
二人だけと強調され、大地は渋々、承諾するしかなかった。一人になるのは、耐えられない。
ここまで、新崎にとって順調に事が運んでいた。ただ、一つの誤算は、ハッチから出た途端に、頭上から聞こえた自身の名を叫ぶ声だった。
知っている声だ。それも、同じ自衛官でもある男の声音だ。
新崎は、反射的に顔をあげ、声の持ち主を視認して、目を剥くと同時に呟いた。
「古賀......達也......か?」
数十分前から鳴り響きだした警報音は、戦車内部にも聞こえていた。死者の呻きさえも、その音の波に呑み込まれていく。
操縦菅の前で、頭を両腕で抱えていた大地と、戦車の中央で、茫然と立ち尽くしていた新崎は、揃って何事かと顔をあげる。
恐怖で竦み上がっている大地は動けそうにないと判断した新崎は、自らハッチを開き、目だけを覗かせて現状の確認にはいり、目を丸くした。あれだけ戦車に群がっていた死者が、大音量で響き渡る報知器へと突進にも似た速度で激突したり、歯をたてるなどの奇行を行っていたのだ。奇妙な光景以外に、言葉にしようがない。
しかし、新崎にとっては、チャンスだった。脱出不可能とすら思えた戦車内部の暗がりを切り裂くように、ハッチから光が注がれていく。すぐさま、車内へ飛び降り、悲嘆にくれる大地の肩を叩いた。
「おい、しっかりしろ坂下!ここを出るぞ!」
新崎の信じがたい提案に、大地は歯を剥いた。
「ここを出る......?ふざけんな!外がどうなってるか、アンタが知らない訳ないがない!降りた瞬間に、囲まれて喰われて、それでお仕舞いだ!自殺と変わらない!」
「分かっていないのはお前だ!良いか、奴等は、この音に気を散らしてバラバラになっている!脱出するなら今しかない!」
新崎は、大地の胸ぐらを掴み、顔を引き寄せて一気に言った。
「信じられないのなら、引き摺ってでも叩き落としてやる!分かったら、さっさとお前の足元にある鞄を渡せ!」
新崎の指示した鞄は、かなりの大きさがあり、見合うだけの重量もあった。とても持って走れる重さではない。
しかし、新崎は鬼気迫る顔つきで大地に迫った。逃げ出そうという時に、不審な言動だったが、大地の性格からか、勢いに負け、素直に鞄を渡す。
顔に多量の皺を刻みつつ、鞄を肩から袈裟に下げた新崎は、89式小銃一挺とマガジンを二つ大地に持たせ、自身も同じく装備した。
「良いか?まずは、お前が戦車から降りろ。もしものときは、俺が援護する」
こくり、と頷いた大地の前髪は、汗で額に引っ付いている。相当な緊張が目に見えて分かった新崎は、大地の肩に手を置く。
「安心しろ、岩神がいない今、俺にはお前だけが頼りだ。絶対に死なせたりはしない」
「......分かったよ」
二人だけと強調され、大地は渋々、承諾するしかなかった。一人になるのは、耐えられない。
ここまで、新崎にとって順調に事が運んでいた。ただ、一つの誤算は、ハッチから出た途端に、頭上から聞こえた自身の名を叫ぶ声だった。
知っている声だ。それも、同じ自衛官でもある男の声音だ。
新崎は、反射的に顔をあげ、声の持ち主を視認して、目を剥くと同時に呟いた。
「古賀......達也......か?」
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