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第5話
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もしも、あのまま真っ直ぐに通路を走っていれば、戦車が障害となって追い付いていたものを、と安部は奥歯を噛んだ。少年少女と甘く見ていた。彼らとて、ここまで使徒の追撃から身を守ってきた選別者なのだ。
気を引き締めなければ、こちらも危ない。安部は、ゆっくりと起き上がり、四人が隠れるUFOキャッチャーを睨目付けると、深く息を吐き、銃を持ち上げてトリガーを引いた。
銃弾が、ガラスを叩き、細かく破片を散らしながら砕ける。祐介は、加奈子と阿里沙に被さった。UFOキャッチャーのガラスケースは、車のドアガラスと似た砕けかたをする。その為、大きな怪我をすることもなく、間接的な攻撃を仕掛けた安部は、苦渋を舐める結果となった。
安部の最終的な目的としては、加奈子を自身の手中に収めることだ。未来を作れるのは子供だけ。まだ、何も人生が決まっていない子供だけだ。
安部は、銃口を向けたまま口を開く。
「出てきなさい。そちらの子供を差し出せば、危害は加えないと約束しましょう」
「糞くらえだ!ロリコン野郎!」
UFOキャッチャーから聞こえた彰一の返答に、安部はもう一発放った。筐体の取り出し口の上蓋を激しく破壊する。射撃の技術は、安部に分があり、顔を出し、一斉に通路へ駆け出せば、必ず誰かが撃たれるだろう。
彰一は、撃たれた肩を右手で抑えながら思索を巡らせる。やがて、祐介を打見して言った。
「......祐介、これ、渡しとくわ」
顔をあげた祐介の眼界には、鮮やかで武骨な黒が広がっており、それが彰一が持つイングラムの銃身だと理解するのに、数秒も掛からなかった。
同時に、その意味を読みとると、銃を受け取らずに、彰一を睨みつけた。
「どういうつもりだよ......」
「俺が囮になる......お前らは、その隙に通路まで走れ」
「坂本君......駄目だよそんなの!」
阿里沙を無視するような憮然とした態度で彰一は続ける。
「実はよ......ロリコン野郎に撃たれた辺りから......視界に黒いもんが飛び回ってるんだよ......それに、噛まれた傷口から、身体を通って......よくわかんねえもんが頭に登ってきてる......多分、これは......そういうもんなんじゃねえかな......」
大量の脂汗を額に溜めながら、彰一は息も絶え絶えに言った。口の端に笑みを浮かべてみせる。
「だからよ......いずれ、奴等みてえになっちまうなら......お前らを助けることに......命を使いてえ......」
「......なんだよそれ......らしくないだろ?なに諦めようとしてんだよ......ほら、トンネルの時みたく、絶対に生きて突破してやろうぜって言えよ......」
「祐介......」
「それに、奴は八幡西署のバリケードを壊すような奴だぞ?そんな......そんな奴にたった一人で......」
「なら......尚更だな」
祐介の目元が柔らいでいき、やがて疑問で一杯になった。そのふやけた表情に苦笑した彰一は、阿里沙へと何かを堪えるように発話した。
「阿里沙......お前は、甘いものを一杯食べたいだったよな?」
次に、彰一は加奈子へと目を落とす。
「加奈子は......お菓子をたくさん食べたいだったか......」
加奈子が、大きな瞳を向けて頷く。それを確認してから、彰一は白い天井を見上げる。
「俺は、誰かを助けるために、自分の犠牲を省みない人間になる、だ」
気を引き締めなければ、こちらも危ない。安部は、ゆっくりと起き上がり、四人が隠れるUFOキャッチャーを睨目付けると、深く息を吐き、銃を持ち上げてトリガーを引いた。
銃弾が、ガラスを叩き、細かく破片を散らしながら砕ける。祐介は、加奈子と阿里沙に被さった。UFOキャッチャーのガラスケースは、車のドアガラスと似た砕けかたをする。その為、大きな怪我をすることもなく、間接的な攻撃を仕掛けた安部は、苦渋を舐める結果となった。
安部の最終的な目的としては、加奈子を自身の手中に収めることだ。未来を作れるのは子供だけ。まだ、何も人生が決まっていない子供だけだ。
安部は、銃口を向けたまま口を開く。
「出てきなさい。そちらの子供を差し出せば、危害は加えないと約束しましょう」
「糞くらえだ!ロリコン野郎!」
UFOキャッチャーから聞こえた彰一の返答に、安部はもう一発放った。筐体の取り出し口の上蓋を激しく破壊する。射撃の技術は、安部に分があり、顔を出し、一斉に通路へ駆け出せば、必ず誰かが撃たれるだろう。
彰一は、撃たれた肩を右手で抑えながら思索を巡らせる。やがて、祐介を打見して言った。
「......祐介、これ、渡しとくわ」
顔をあげた祐介の眼界には、鮮やかで武骨な黒が広がっており、それが彰一が持つイングラムの銃身だと理解するのに、数秒も掛からなかった。
同時に、その意味を読みとると、銃を受け取らずに、彰一を睨みつけた。
「どういうつもりだよ......」
「俺が囮になる......お前らは、その隙に通路まで走れ」
「坂本君......駄目だよそんなの!」
阿里沙を無視するような憮然とした態度で彰一は続ける。
「実はよ......ロリコン野郎に撃たれた辺りから......視界に黒いもんが飛び回ってるんだよ......それに、噛まれた傷口から、身体を通って......よくわかんねえもんが頭に登ってきてる......多分、これは......そういうもんなんじゃねえかな......」
大量の脂汗を額に溜めながら、彰一は息も絶え絶えに言った。口の端に笑みを浮かべてみせる。
「だからよ......いずれ、奴等みてえになっちまうなら......お前らを助けることに......命を使いてえ......」
「......なんだよそれ......らしくないだろ?なに諦めようとしてんだよ......ほら、トンネルの時みたく、絶対に生きて突破してやろうぜって言えよ......」
「祐介......」
「それに、奴は八幡西署のバリケードを壊すような奴だぞ?そんな......そんな奴にたった一人で......」
「なら......尚更だな」
祐介の目元が柔らいでいき、やがて疑問で一杯になった。そのふやけた表情に苦笑した彰一は、阿里沙へと何かを堪えるように発話した。
「阿里沙......お前は、甘いものを一杯食べたいだったよな?」
次に、彰一は加奈子へと目を落とす。
「加奈子は......お菓子をたくさん食べたいだったか......」
加奈子が、大きな瞳を向けて頷く。それを確認してから、彰一は白い天井を見上げる。
「俺は、誰かを助けるために、自分の犠牲を省みない人間になる、だ」
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