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第11話
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痛みはない。
遅れてくるであろう熱い衝撃もない。ただただ、目の前が暗かった。固く結ばれた瞼が揺れ、眼底から溢れてくるのは、涙だろうか。指先も感覚が遠退いていき、寒気すら覚え始める。誰の声も聞こえず、鼓膜を揺すぶるのは、確かな反響音だけだ。
とても、静かな静謐な時間、徐々に、祐介の身体から温もりが消えていく。
ああ、そうか、これが死ぬということなんだ。意外と、苦しみもないんだな。そりゃそうか、意識がないんだから、痛みもないよな。もしすかしたら、大きな手術をされている際中は、こんな感覚なのかもしれない。とはいえ、こちらは、もう目覚めることはないのだろうけれど。
時間が、遮蔽物のない川に流される流木のようにスムーズに流れていく。届けられる先は、広大な海だろう。そこで、意識も、身体も、感情でさえも溶けていくのだろうか。それはそれで、物悲しくもある。
一人での死がこんなにも寂しいものなら、死がこんなにも、悲しいものなら、父親も彰一も、よく耐えきれたものだと思う。いや、彼らは耐えきれた訳ではなく、仲間を、家族を助けてくれたのだ。
それなら、祐介も悲しみはない。それでも、最後に出来ることなら、二人の顔を見ていきたい。
祐介は、重たくなった瞼を、ゆっくりと開いた。ハッチから顔を出した阿里沙と加奈子の姿が瞳に写る。なにやら、必死に叫んでいるようだった。頭を撃ち抜かれたいるのだから、助かる筈がないだろうに、何をやっているんだろう。そんなことをするなら、早く逃げていけば良いのに、と苦笑した。
......待てよ。頭を抜かれたのであれば、すぐさま絶命する。ならば、何故、ここまで頭が回っているのだろうか。あまつさえ、意識もある。まさか、これが走馬灯というやつなのか。いや、違う。馬が走るような一瞬の灯りの中に、脳が記憶を掘り起こし映像を投影する、それが走馬灯だ。それなら、瞼を開いて二人の顔が視認できているのは、どうしてだ。
朧気な右手を動かしてみれば、反応を示した。続けて、左手、右足、左足、と力を入れてみる。
祐介は、腹から声を絞り出してみる。微かに、あっ、と喉が震えた。
「俺......生き......てる......?」
右手で顔に触れてみれば、ほんの僅かな粘着性をもった鮮やかすぎる朱色の液体が指差を濡らす。これは、これまで何度も見てきた。間違いなく血液だ。
なら、祐介はどうして生きている。まさか、東が外したのだろうか。そんなはずはない。あれほどの至近距離、外すほうがどうかしている。
祐介の鼻先に、温いものが次々と降ってくる。鼻腔をくすぶる鉄の香りが、一気に肺を満たすと、あまりにも強烈な刺激に噎せてしまう。つまり、祐介は呼吸をしているのだ。
もう、疑いようもない。祐介は、確実に生きている。
だとすれば、これは誰の血だ?それに、銃弾は一体どこに飛んでいったんだ?
「ぐうう!くああああああああ!」
耳をつんざく痛苦な絶叫で、祐介の意識は完全に覚醒した。誰の悲鳴か、そんなものは決まっている。
「右手が!右手がああああ!」
東の右手は、血にまみれており、右手首を必死の形相で握りしめ、雄叫びにもにも悲鳴をあげている。
遅れてくるであろう熱い衝撃もない。ただただ、目の前が暗かった。固く結ばれた瞼が揺れ、眼底から溢れてくるのは、涙だろうか。指先も感覚が遠退いていき、寒気すら覚え始める。誰の声も聞こえず、鼓膜を揺すぶるのは、確かな反響音だけだ。
とても、静かな静謐な時間、徐々に、祐介の身体から温もりが消えていく。
ああ、そうか、これが死ぬということなんだ。意外と、苦しみもないんだな。そりゃそうか、意識がないんだから、痛みもないよな。もしすかしたら、大きな手術をされている際中は、こんな感覚なのかもしれない。とはいえ、こちらは、もう目覚めることはないのだろうけれど。
時間が、遮蔽物のない川に流される流木のようにスムーズに流れていく。届けられる先は、広大な海だろう。そこで、意識も、身体も、感情でさえも溶けていくのだろうか。それはそれで、物悲しくもある。
一人での死がこんなにも寂しいものなら、死がこんなにも、悲しいものなら、父親も彰一も、よく耐えきれたものだと思う。いや、彼らは耐えきれた訳ではなく、仲間を、家族を助けてくれたのだ。
それなら、祐介も悲しみはない。それでも、最後に出来ることなら、二人の顔を見ていきたい。
祐介は、重たくなった瞼を、ゆっくりと開いた。ハッチから顔を出した阿里沙と加奈子の姿が瞳に写る。なにやら、必死に叫んでいるようだった。頭を撃ち抜かれたいるのだから、助かる筈がないだろうに、何をやっているんだろう。そんなことをするなら、早く逃げていけば良いのに、と苦笑した。
......待てよ。頭を抜かれたのであれば、すぐさま絶命する。ならば、何故、ここまで頭が回っているのだろうか。あまつさえ、意識もある。まさか、これが走馬灯というやつなのか。いや、違う。馬が走るような一瞬の灯りの中に、脳が記憶を掘り起こし映像を投影する、それが走馬灯だ。それなら、瞼を開いて二人の顔が視認できているのは、どうしてだ。
朧気な右手を動かしてみれば、反応を示した。続けて、左手、右足、左足、と力を入れてみる。
祐介は、腹から声を絞り出してみる。微かに、あっ、と喉が震えた。
「俺......生き......てる......?」
右手で顔に触れてみれば、ほんの僅かな粘着性をもった鮮やかすぎる朱色の液体が指差を濡らす。これは、これまで何度も見てきた。間違いなく血液だ。
なら、祐介はどうして生きている。まさか、東が外したのだろうか。そんなはずはない。あれほどの至近距離、外すほうがどうかしている。
祐介の鼻先に、温いものが次々と降ってくる。鼻腔をくすぶる鉄の香りが、一気に肺を満たすと、あまりにも強烈な刺激に噎せてしまう。つまり、祐介は呼吸をしているのだ。
もう、疑いようもない。祐介は、確実に生きている。
だとすれば、これは誰の血だ?それに、銃弾は一体どこに飛んでいったんだ?
「ぐうう!くああああああああ!」
耳をつんざく痛苦な絶叫で、祐介の意識は完全に覚醒した。誰の悲鳴か、そんなものは決まっている。
「右手が!右手がああああ!」
東の右手は、血にまみれており、右手首を必死の形相で握りしめ、雄叫びにもにも悲鳴をあげている。
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