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第13話
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東から与えられた恐怖が、今になって、祐介の胸中に形となって現れ始めた。心臓がいつもよりも早く収縮を繰り返している。すぐにでも、吐き出してしまいそうだ。
「祐介君?」
阿里沙が憂慮を宿した瞳で言った。恐怖からは、逃げられない。だったら、せめてもの足掻きで、このカバンを開いてみせる。東への恐怖をここで捨てて、向き合っていくためにもだ。祐介は、勢いよくカバンのジッパーを開いた。
中身を覗いて、祐介は目を剥く。
銀色の筒に、トリガーの付いている銃のような形をしているそれは、おおまかに分解されカバンに収まっている。どうやら、東は組み立てかたが分からずに放置したのだろう。かくいう、祐介達にも、こんなものの使い方など、知っている筈もない。だが、これがなんなのかは理解している。映画などで目にしてきた、ロケット砲というものだろう。
なぜ、こんなものがここにあるのだろうか、そんな疑問を抱くより先に、祐介の表情に、安堵か暗澹か、どちらともとれない色が浮かんだ。組み立てる技術がなければ、こんなものは無用の長物となる。
「これって......ロケット砲ってやつかな?」
「そうだろうけど……こんなもん使い方すら分からない……」
祐介は、そう言いながらジッパーを閉めた。途中、阿里沙が言う。
「浩太さん達は使えないかな?」
「使えるだろうけど、運んでいたら、瞬く間に死者から襲われるだろ。どちらにしろ、持ち運びは出来ないし、置いておくしかないな......」
祐介が、改めてハッチにカバンを戻した時、突然、右足に違和感が走った。間違いなく、誰かに掴まれている。それも、ハッチにカバンを置いたのだから東ではない。
じゃあ、誰だ。 この場にいる三人以外には、一つしかない。
振り返るよりも早く、祐介の右足が引かれる。戦車を器用に登ってきた一人の使者が、祐介の右太股へ大口を開ける姿が見えた瞬間、反射的に左足で蹴り落とす。
痛みに呻くような声を出しながら、使者は再び、波をうつように蠢く海へと落下していった。しかし、死者達は、次々にキャタピラへと手を置き始めている。
このままでは、対処できない人数に押しきられるのも時間の問題だ。
「くそ!なんだってんだこいつら......!」
祐介が、一人の手を踏みつける。まるで、もぐら叩きのようだ。もっとも、登ってくるものは、もぐらなんかよりはるかに醜悪で凶暴だ。濁りきった黒目のない眼球が、祐介達の姿を捕らえる。
重なりあう伸吟は、オーケストラよりも、激しく三人を動揺させた。
「危ない!」
阿里沙が叫ぶと同時に、祐介の足首が捕らえられた。引き倒されるや否や、祐介はハッチの引き戸に手を掛ける。
死者の口よりも、高い位置にはあるが、投げ出されたような右足を握る手は徐々に増えていく。そうなれば、当然、死者の海へと引く力は強くなっていく。
「ぐうううう......あああああ!」
歯が磨り減ってしまうと思うほどに、祐介は両手に力を込めた。放すことは、そのまま死に繋がる。
「祐介君?」
阿里沙が憂慮を宿した瞳で言った。恐怖からは、逃げられない。だったら、せめてもの足掻きで、このカバンを開いてみせる。東への恐怖をここで捨てて、向き合っていくためにもだ。祐介は、勢いよくカバンのジッパーを開いた。
中身を覗いて、祐介は目を剥く。
銀色の筒に、トリガーの付いている銃のような形をしているそれは、おおまかに分解されカバンに収まっている。どうやら、東は組み立てかたが分からずに放置したのだろう。かくいう、祐介達にも、こんなものの使い方など、知っている筈もない。だが、これがなんなのかは理解している。映画などで目にしてきた、ロケット砲というものだろう。
なぜ、こんなものがここにあるのだろうか、そんな疑問を抱くより先に、祐介の表情に、安堵か暗澹か、どちらともとれない色が浮かんだ。組み立てる技術がなければ、こんなものは無用の長物となる。
「これって......ロケット砲ってやつかな?」
「そうだろうけど……こんなもん使い方すら分からない……」
祐介は、そう言いながらジッパーを閉めた。途中、阿里沙が言う。
「浩太さん達は使えないかな?」
「使えるだろうけど、運んでいたら、瞬く間に死者から襲われるだろ。どちらにしろ、持ち運びは出来ないし、置いておくしかないな......」
祐介が、改めてハッチにカバンを戻した時、突然、右足に違和感が走った。間違いなく、誰かに掴まれている。それも、ハッチにカバンを置いたのだから東ではない。
じゃあ、誰だ。 この場にいる三人以外には、一つしかない。
振り返るよりも早く、祐介の右足が引かれる。戦車を器用に登ってきた一人の使者が、祐介の右太股へ大口を開ける姿が見えた瞬間、反射的に左足で蹴り落とす。
痛みに呻くような声を出しながら、使者は再び、波をうつように蠢く海へと落下していった。しかし、死者達は、次々にキャタピラへと手を置き始めている。
このままでは、対処できない人数に押しきられるのも時間の問題だ。
「くそ!なんだってんだこいつら......!」
祐介が、一人の手を踏みつける。まるで、もぐら叩きのようだ。もっとも、登ってくるものは、もぐらなんかよりはるかに醜悪で凶暴だ。濁りきった黒目のない眼球が、祐介達の姿を捕らえる。
重なりあう伸吟は、オーケストラよりも、激しく三人を動揺させた。
「危ない!」
阿里沙が叫ぶと同時に、祐介の足首が捕らえられた。引き倒されるや否や、祐介はハッチの引き戸に手を掛ける。
死者の口よりも、高い位置にはあるが、投げ出されたような右足を握る手は徐々に増えていく。そうなれば、当然、死者の海へと引く力は強くなっていく。
「ぐうううう......あああああ!」
歯が磨り減ってしまうと思うほどに、祐介は両手に力を込めた。放すことは、そのまま死に繋がる。
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