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第3話
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浜岡もそれを察してか、斎藤の行動を視線だけで制止した。現状、あの男を引き離すのは無理だ。
車は、幾度かの右左折を経て、大きな振動を繰り返しつつ、約一時間走り続け、ようやく停車する。
豁然と開いた視界の先には、見慣れた十字のマークが見え、田辺は眉根を寄せ、浜岡へ耳打ちする。
「浜岡さん、ここは......」
浜岡は、立てた人差し指を唇に当てた。その行動は、田辺に安堵の吐息を吐かせた。
浜岡は、ここがどこかを完璧に理解しており、だからこそ、口にするなという意味のジェスチャーで伝えたのだ。
そこは、医療施設だった。それも、三人にとっては、喉を鳴らしてしまうほどの危険地帯でもある。
今だけは、田辺と浜岡の両名も、記者であることを忘れるしかない。ましてや、スクープなどと言ってはいられない。斎藤も、二人の顔色から、野田貴子との会話を思い出し青ざめた。ここは、浜岡が持参した資料に載っていた場所、そのものではないか。
狼狽する三人の背中に、野田が短く声を掛けた。
「進むんだ。折角の特ダネが転がっているかもしれないんだぞ?記者としては、益体のないものにはならないはずだ」
「......いやぁ、出来れば引き返したいくらいですよ」
「ならば、ここを探ったことを後悔するしかない。おい」
野田の合図と共に、さきほどの外人が田辺の肩を強く押し、一歩を踏み出したことで、自動扉がスライドした。建物内部は、一応は明るくなっているが、病院ということもあり、若干、重い空気が充満しているようだ。そんなことも気にせずに、野田は田辺の傍らを通りすぎて、振り返らずに言った。
「こっちだ。着いてこい」
ツカツカと迷いの欠片も見せずに、歩き始めた野田と外国人を先頭に、田辺と浜岡、斎藤が続き、その後ろを例の三人組が、田辺達を挟む形で歩を進める。
「......ここには、一般の患者はいないんですか?」
田辺の質問に、野田は前を向いたまま答える。
「ああ、いない。ここは、基本的には出張ができる老人ホームみたいなものだ。連絡があれば、すぐに対応には迎えるようになっているから、安心して、自分達の心配をしろ」
やがて、一行は建物奥にあるエレベーターに乗り込んだ。野田が懐から取り出したのは、数本の鍵だった。その内の一本を、階数パネルの下にある窪みへ差し込んで回せば、新たな制御盤が現れた。通常よりも小さなボタンか二つあり、数字ではなく、シンプルな矢印だけがオレンジに光っていた。エレベーターは、ぐん、と沈み、やがて落下の衝撃に備えるよう、そのスピードを緩めていく。
「マンションでのような不意打ちは、ここでは通用しないぞ?肝に銘じておけ」
「さすがに、こんな状況では何も出来ませんよ、野田さん」
「......ふん、どうだろうな」
エレベーター内に、軽い振動が伝わった。どうやら、建物の地下に到着したようだ。田辺は、誰にも気づかれないよう、重厚な扉が開く様を、固唾を飲んで見守った。
車は、幾度かの右左折を経て、大きな振動を繰り返しつつ、約一時間走り続け、ようやく停車する。
豁然と開いた視界の先には、見慣れた十字のマークが見え、田辺は眉根を寄せ、浜岡へ耳打ちする。
「浜岡さん、ここは......」
浜岡は、立てた人差し指を唇に当てた。その行動は、田辺に安堵の吐息を吐かせた。
浜岡は、ここがどこかを完璧に理解しており、だからこそ、口にするなという意味のジェスチャーで伝えたのだ。
そこは、医療施設だった。それも、三人にとっては、喉を鳴らしてしまうほどの危険地帯でもある。
今だけは、田辺と浜岡の両名も、記者であることを忘れるしかない。ましてや、スクープなどと言ってはいられない。斎藤も、二人の顔色から、野田貴子との会話を思い出し青ざめた。ここは、浜岡が持参した資料に載っていた場所、そのものではないか。
狼狽する三人の背中に、野田が短く声を掛けた。
「進むんだ。折角の特ダネが転がっているかもしれないんだぞ?記者としては、益体のないものにはならないはずだ」
「......いやぁ、出来れば引き返したいくらいですよ」
「ならば、ここを探ったことを後悔するしかない。おい」
野田の合図と共に、さきほどの外人が田辺の肩を強く押し、一歩を踏み出したことで、自動扉がスライドした。建物内部は、一応は明るくなっているが、病院ということもあり、若干、重い空気が充満しているようだ。そんなことも気にせずに、野田は田辺の傍らを通りすぎて、振り返らずに言った。
「こっちだ。着いてこい」
ツカツカと迷いの欠片も見せずに、歩き始めた野田と外国人を先頭に、田辺と浜岡、斎藤が続き、その後ろを例の三人組が、田辺達を挟む形で歩を進める。
「......ここには、一般の患者はいないんですか?」
田辺の質問に、野田は前を向いたまま答える。
「ああ、いない。ここは、基本的には出張ができる老人ホームみたいなものだ。連絡があれば、すぐに対応には迎えるようになっているから、安心して、自分達の心配をしろ」
やがて、一行は建物奥にあるエレベーターに乗り込んだ。野田が懐から取り出したのは、数本の鍵だった。その内の一本を、階数パネルの下にある窪みへ差し込んで回せば、新たな制御盤が現れた。通常よりも小さなボタンか二つあり、数字ではなく、シンプルな矢印だけがオレンジに光っていた。エレベーターは、ぐん、と沈み、やがて落下の衝撃に備えるよう、そのスピードを緩めていく。
「マンションでのような不意打ちは、ここでは通用しないぞ?肝に銘じておけ」
「さすがに、こんな状況では何も出来ませんよ、野田さん」
「......ふん、どうだろうな」
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