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第16話
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そこで漂ってくる鉄錆の匂いが、途端に強くなり、豁然と広がった光景に二人は瞠目することになる。
あちらこちらに飛び散る血液、それらに混ざって臓物や眼球が転がっており、それも一人や二人分どころではない。まるで、乱雑な屠殺場と化した現場を目の当たりにした二人は咄嗟に口を塞いだ。
眼界を埋め尽くす内臓や屍に鼻息を荒くしつつ、祐介は死者であった死体を見下ろし、どうにも腑に落ちない点を発見し、真一の肩を軽く揺らす。
「真一さん......これって......」
同じ違和感を真一も覚えていたのか、短い返答の後に、自身の右手を見詰めた。あまたの死体には、銃では決して残せない傷が多く見受けられる。通常、頭を撃ち抜かれれば、額を中心に焦げあとや、後頭部での炸裂痕が残るものだが、それらが面影すらない。代わりに死体には、打撲傷がある。つまり、これは銃等ではなく、素手で作り上げられた景色ということだ。そんなことが出来る人間が、果たして存在するのかは、甚だ疑問だと真一は考えるが、祐介の見解は違う。
一人だけ、たった一人だけ引っ掛かる男がいる。そして、この場所が語る一つの真実がある。
......あの狂気の殺人鬼、東がこの状況を作りあげたのだとしたら、奴は生きてここを脱出している……?
そんなはずはない。そもそも、片手が潰れた状態で、このような惨状を作れるものだろうか。いや、無理だ、無理に決まっている。
青ざめた祐介に気付いた真一が、小声で尋ねた。
「......どうした?なんか、知ってんのか?」
「......いえ、なんでもないです。先を急ぎましょう」
祐介は、視線を無理矢理に剥がし、真一を追い越した。無駄な不安を煽ることになるかもしれない。それならば、いっそのこと、ここでは話さないほうが賢明と判断したが、真一は見逃すことなく、祐介の手を掴んだ。
「何もないことないぜ?言ってみろよ祐介」
「真一さん......ここで話しても、奴等に感付かれるだけですから、無事に物資を手にしてからで良いでしょう?」
振り返らず、祐介にそう返され、真一は二の句が継げなくなるが、お返しとばかりに、祐介の手を引いて前に躍り出て言った。
「分かった。だけど、後で必ず話してもらうぜ?」
「......はい、それは、もちろん」
隠しきれない動揺を携え、中間のショッパーズモールの外壁を見上げ、風に漂う独特な香りに尻を叩かれながら、二人はぐるり、と回り込み、遂に裏口へ到着した。さしたる障害もなく、拍子抜けしたとばかりに、真一が吐息をついてナイフを腰に戻すと、祐介が鋭く言った。
「真一さん、気を抜かないでくださいよ?これからが、本番ですから」
「ああ、充分に分かってる。気が抜けて見えたなら謝るぜ」
「いえ、俺も少し過敏になっていました......すいません」
祐介は目の前のシャッターを仰いだ。恐らくは、この奥に目当てのテナントがある。しかし、このシャッターが最大の難関となる。
あちらこちらに飛び散る血液、それらに混ざって臓物や眼球が転がっており、それも一人や二人分どころではない。まるで、乱雑な屠殺場と化した現場を目の当たりにした二人は咄嗟に口を塞いだ。
眼界を埋め尽くす内臓や屍に鼻息を荒くしつつ、祐介は死者であった死体を見下ろし、どうにも腑に落ちない点を発見し、真一の肩を軽く揺らす。
「真一さん......これって......」
同じ違和感を真一も覚えていたのか、短い返答の後に、自身の右手を見詰めた。あまたの死体には、銃では決して残せない傷が多く見受けられる。通常、頭を撃ち抜かれれば、額を中心に焦げあとや、後頭部での炸裂痕が残るものだが、それらが面影すらない。代わりに死体には、打撲傷がある。つまり、これは銃等ではなく、素手で作り上げられた景色ということだ。そんなことが出来る人間が、果たして存在するのかは、甚だ疑問だと真一は考えるが、祐介の見解は違う。
一人だけ、たった一人だけ引っ掛かる男がいる。そして、この場所が語る一つの真実がある。
......あの狂気の殺人鬼、東がこの状況を作りあげたのだとしたら、奴は生きてここを脱出している……?
そんなはずはない。そもそも、片手が潰れた状態で、このような惨状を作れるものだろうか。いや、無理だ、無理に決まっている。
青ざめた祐介に気付いた真一が、小声で尋ねた。
「......どうした?なんか、知ってんのか?」
「......いえ、なんでもないです。先を急ぎましょう」
祐介は、視線を無理矢理に剥がし、真一を追い越した。無駄な不安を煽ることになるかもしれない。それならば、いっそのこと、ここでは話さないほうが賢明と判断したが、真一は見逃すことなく、祐介の手を掴んだ。
「何もないことないぜ?言ってみろよ祐介」
「真一さん......ここで話しても、奴等に感付かれるだけですから、無事に物資を手にしてからで良いでしょう?」
振り返らず、祐介にそう返され、真一は二の句が継げなくなるが、お返しとばかりに、祐介の手を引いて前に躍り出て言った。
「分かった。だけど、後で必ず話してもらうぜ?」
「......はい、それは、もちろん」
隠しきれない動揺を携え、中間のショッパーズモールの外壁を見上げ、風に漂う独特な香りに尻を叩かれながら、二人はぐるり、と回り込み、遂に裏口へ到着した。さしたる障害もなく、拍子抜けしたとばかりに、真一が吐息をついてナイフを腰に戻すと、祐介が鋭く言った。
「真一さん、気を抜かないでくださいよ?これからが、本番ですから」
「ああ、充分に分かってる。気が抜けて見えたなら謝るぜ」
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