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第4話
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人体を作る骨や筋肉が、いくら転化して脆くなっていようと、それらを一切意に介さず、それもただの一撃で下半身と上半身を切り離されていた。
そんなことが可能なのだろうか。いや、死者の胸に残された傷痕は、そのすべてを肯定するに充分な代物だった。
深さを如実に現す胸に刻まれた三本の創傷は、右上から左下へと斜めに降り下ろされており、そこから覗いていた臓器が路面へと、ぼとり、と落下する。
「......なあ、どう思う?」
達也が改めて言った。その質問に誰もが答えることなどできない。
車内にある十四の瞳が固まった。
商店街の入口から新たに黒い巨体が飛び出したからだ。鼻息荒く、さきほどの死体に食らい付き、一心不乱に口を動かしている。その見た目は、成人した男性を軽々と越える背丈を有し、全身が黒い体毛で包まれた、四足で走る動物だ。
「なんで......あんなのが......こんなとこにいんだよ......」
後部座席で、真一が詰まった喉を震わせながら、誰にともなく囁いた。祐介が律儀に返す。
「......知りませんよ、そんなの......」
所々、体毛の奥に咬傷があるのか、流れた血が凝固している。やはり、この動物すら一度は死んで甦ったという意味だろう。
真一と祐介の不安は的中したが、想像を遥かに超越した現実を目の当たりにして、声紋が塞がってしまったのか、それ以上、声を出せなかった。ガフガフと聞こえる呼吸音に、加奈子は身体をすくませて小さくなっている。そんな矮躯を抱いた阿里沙が蚊の鳴き声のような声量で言った。
「......逃げよう......駄目だよ......」
「賛成だ......ゆっくりだ、達也、ゆっくり下がって距離をとれ......」
浩太の指示に、こくりと首だけで応じた達也が、じわり、と靴底をアクセルに当てた。
タイヤが回転を始め、ゆっくりと車が後退していく。永遠にも感じられる長い時間、件の動物は、仕留めた獲物を夢中に貪っている。そして、その均衡を破ったのは、後輪がなにかを踏み砕いた音だった。恐らくは、路上に転がっていた死者の頭部だろう。バキバキと頭蓋を砕く音と共に、車が縁石に乗り上げたような違和感が車内に伝わる。
全員が思わず息を止めた。
ピクリ、と双肩を震わせた動物は、食事を止めると、七人が乗る車を紅い双眸で捉え、同時に吼えた。
「達也!走り抜けろ!」
浩太が右手でギアをDに合わせ、反射的に達也がアクセルを踏んだ。途端に、車は前進を始める。
動物の正体、それは巨躯を揺らしながら迫り来る熊だった。車の接近に合わせ、熊が怪腕を振り上げた刹那、達也がハンドルを切る。
「クッソ……!があああああああああああ!」
そんなことが可能なのだろうか。いや、死者の胸に残された傷痕は、そのすべてを肯定するに充分な代物だった。
深さを如実に現す胸に刻まれた三本の創傷は、右上から左下へと斜めに降り下ろされており、そこから覗いていた臓器が路面へと、ぼとり、と落下する。
「......なあ、どう思う?」
達也が改めて言った。その質問に誰もが答えることなどできない。
車内にある十四の瞳が固まった。
商店街の入口から新たに黒い巨体が飛び出したからだ。鼻息荒く、さきほどの死体に食らい付き、一心不乱に口を動かしている。その見た目は、成人した男性を軽々と越える背丈を有し、全身が黒い体毛で包まれた、四足で走る動物だ。
「なんで......あんなのが......こんなとこにいんだよ......」
後部座席で、真一が詰まった喉を震わせながら、誰にともなく囁いた。祐介が律儀に返す。
「......知りませんよ、そんなの......」
所々、体毛の奥に咬傷があるのか、流れた血が凝固している。やはり、この動物すら一度は死んで甦ったという意味だろう。
真一と祐介の不安は的中したが、想像を遥かに超越した現実を目の当たりにして、声紋が塞がってしまったのか、それ以上、声を出せなかった。ガフガフと聞こえる呼吸音に、加奈子は身体をすくませて小さくなっている。そんな矮躯を抱いた阿里沙が蚊の鳴き声のような声量で言った。
「......逃げよう......駄目だよ......」
「賛成だ......ゆっくりだ、達也、ゆっくり下がって距離をとれ......」
浩太の指示に、こくりと首だけで応じた達也が、じわり、と靴底をアクセルに当てた。
タイヤが回転を始め、ゆっくりと車が後退していく。永遠にも感じられる長い時間、件の動物は、仕留めた獲物を夢中に貪っている。そして、その均衡を破ったのは、後輪がなにかを踏み砕いた音だった。恐らくは、路上に転がっていた死者の頭部だろう。バキバキと頭蓋を砕く音と共に、車が縁石に乗り上げたような違和感が車内に伝わる。
全員が思わず息を止めた。
ピクリ、と双肩を震わせた動物は、食事を止めると、七人が乗る車を紅い双眸で捉え、同時に吼えた。
「達也!走り抜けろ!」
浩太が右手でギアをDに合わせ、反射的に達也がアクセルを踏んだ。途端に、車は前進を始める。
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「クッソ……!があああああああああああ!」
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