感染

宇宙人

文字の大きさ
376 / 419

第4話

しおりを挟む
「駄目だよ……真一さん……そんなこと考えちゃ駄目だ……」

    自然と溢れだした涙を拭わずに、裕介は嗚咽を交えながら続けた。

「死ぬことなんてないよ……きっと、なにか方法が……」

「裕介……なんか……勘違いしてるぜ?」

    えっ、と目を丸くした裕介が顔をあげれば、青白い血色とは不釣り合いな笑顔を浮かべた真一がいた。ぽんっ、と軽い調子で裕介の頭に右手を乗せる。 

「俺はさ……九州がこうなる前に……浩太と新崎から言われてんだぜ……?その気楽さが羨ましいってさ……そんな奴がお前に殺してくれなんざ、頼むと思うか?」

    微塵の不安もなさそうな真一の微笑みに嘘はない。けれど、裕介は首を縦には振れなかった。母親に父親、彰一、これ以上、大切な人を失うことが恐ろしくもあり、真一に対して何も出来ない自分が情けなくもあったからこそ、裕介は俯いて唇を噛んだ。歯列から洩れるような細い声を出す。

「真一さん……俺、何も出来ないんだ……真一さんの頼みだって……果たせる自信が萎んでしまってる……情けない、情けないよ俺」

    佐伯真一の強さを目の当たりにし、坂本彰一の強さを見届けた裕介にとって、辛い一言だった。だが、心の奥に閉じ込めていた本心からきた一言だ。
    九州地方から生き延びる為に、大切な人を守る為に身につけた装いは、怜悧な自分を演じること。新崎への詰問も裕介にとって処世術の一つだったのだろう。
    しかし、それは弱さを露悪的に晒すことが出来ないという弱点を生み出してしまっていた。それでも良い、そう言う者もいるだろう。ただし、 それは正解なのかと問われればそうではない、誰にも答えられない。
    人は、生き方で変わっていく。真一の気楽さもまた、生き方であるのと同じようにだ。

「お前は……情けなくなんかないぜ……」

「けど……!」

「よく聞けよ?本当に……情けない奴ってのは、根子をもってない木みたいな奴だ……お前は、どんだけ苦しくても……人の為って本質は変えてない……どんなときも、自分より他人を心配する甘ちゃんとも見えるけどよ……普通は出来ないぜ?そんな男を情けないなんて誰にも言えない」 

    ニッ、と笑んだ真一の口角から、一筋の血が垂れている。それでも、裕介には瞼を塞ぎたくなるほどの眩しい笑顔だった。とても、死を目前にしているとは思えない。
    直後、真一は噎せ始める。大量の吐血が迷彩柄のズボンに再び染み込んでいく。

「真一さん!」

    身体をあげて真一の肩を掴んだ裕介は、ふと気が付いてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

三分で読める一話完結型ショートホラー小説

ROOM
ホラー
一話完結型のショートショートです。 短いけれど印象に残るそんな小説を目指します。 毎日投稿して行く予定です。楽しんでもらえると嬉しいです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

意味が分かると、分からないと怖い話【体験談+】

緑川
ホラー
ショートショートの寄せ集め。 幻想的から現実味溢れるものなど様々、存在。 出来の良し悪しについては格差あるので悪しからず。

処理中です...