416 / 419
第21話
しおりを挟む
少し離れたところから軽い足音がする。二人は揃って顔を向けると、厚い雨雲が遮る空から、差し込む光のような笑顔の加奈子が柄杓と手桶を持って駆けてくる。その様子を眺めていた浩太が不意に言った。
「いいや、過ぎ去ったから終わった訳じゃない。過ぎ去ったから始まるんだ」
柄杓と手桶を地面に置いた加奈子を浩太が抱き上げると、満面の笑みを浮かべた。大人でも気が滅入る体験をしてきたというのに、やはり子供は強いものだ。すぐに、花をもった亜里沙と線香や供え物を持参した裕介も合流する。
「浩太さん、マンションはどうでしたか?」
裕介の問い掛けに、浩太は苦笑する。
「聞かされた通りだった。三人を田辺さんのとこに行かせて良かったよ……もしも四人で出て行たら今頃、ここにはいない」
亜里沙は、花立を抜きとり拝石に花を置きつつ言った。
「けど、加奈子ちゃんは田辺さんの所でお菓子ばっかり食べてたんですよ?田辺さんも浜岡さんも加奈子ちゃんに甘いんだから……」
溜息混じりの言葉を受け、抱き上げたまま加奈子の口元を見れば、田辺の車でも何かを食べていたのか、少し汚れている。浩太はハンカチを取り出してバツが悪そうな加奈子の口元を拭う。
「けど、家でご飯もちゃんと食べてるんだ。良いんじゃないのか?」
「だけど、このままじゃお肉が付きすぎるんじゃないかって……変な病気になっても……」
「亜里沙は、心配しすぎなんだよ」
ぽん、と肩に手を置いたのは裕介が彰一の墓石に目を向けながら続ける。
「それにさ、俺達は九州地方を生き延びたら、それぞれにやりたいことを決めただろ?今はまだ、これで良いんだよ」
不服そうに唇を尖らせた亜里沙が、横目で浩太に抱えられた加奈子を盗み見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。慌てて立ちあがった亜里沙は、加奈子へ両手を伸ばす。
しばらく亜里沙の腕を見詰めていた加奈子は、ついと涙目を合わせ訊いた。
「お姉ちゃん……怒ってない……?」
「うん、怒ってないよ」
向日葵のような笑顔が咲き、浩太から亜里沙へと移った流れに、田辺は両親を無くした少女という悲劇的な側面を持ちながらも、煢然たる様子が全くない加奈子が少し羨ましく思えた。
野田貴子は、学生でありながらも現在、厳しい管理下におかれ田辺であろうとなかなか面会はできない。浜岡や斎藤も尽力した結果、どうにか自宅から学校、買い物にも行けてはいるが、不自由な生活を余儀なくされている。
「野田のことでも考えてるのか?」
「いいや、過ぎ去ったから終わった訳じゃない。過ぎ去ったから始まるんだ」
柄杓と手桶を地面に置いた加奈子を浩太が抱き上げると、満面の笑みを浮かべた。大人でも気が滅入る体験をしてきたというのに、やはり子供は強いものだ。すぐに、花をもった亜里沙と線香や供え物を持参した裕介も合流する。
「浩太さん、マンションはどうでしたか?」
裕介の問い掛けに、浩太は苦笑する。
「聞かされた通りだった。三人を田辺さんのとこに行かせて良かったよ……もしも四人で出て行たら今頃、ここにはいない」
亜里沙は、花立を抜きとり拝石に花を置きつつ言った。
「けど、加奈子ちゃんは田辺さんの所でお菓子ばっかり食べてたんですよ?田辺さんも浜岡さんも加奈子ちゃんに甘いんだから……」
溜息混じりの言葉を受け、抱き上げたまま加奈子の口元を見れば、田辺の車でも何かを食べていたのか、少し汚れている。浩太はハンカチを取り出してバツが悪そうな加奈子の口元を拭う。
「けど、家でご飯もちゃんと食べてるんだ。良いんじゃないのか?」
「だけど、このままじゃお肉が付きすぎるんじゃないかって……変な病気になっても……」
「亜里沙は、心配しすぎなんだよ」
ぽん、と肩に手を置いたのは裕介が彰一の墓石に目を向けながら続ける。
「それにさ、俺達は九州地方を生き延びたら、それぞれにやりたいことを決めただろ?今はまだ、これで良いんだよ」
不服そうに唇を尖らせた亜里沙が、横目で浩太に抱えられた加奈子を盗み見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。慌てて立ちあがった亜里沙は、加奈子へ両手を伸ばす。
しばらく亜里沙の腕を見詰めていた加奈子は、ついと涙目を合わせ訊いた。
「お姉ちゃん……怒ってない……?」
「うん、怒ってないよ」
向日葵のような笑顔が咲き、浩太から亜里沙へと移った流れに、田辺は両親を無くした少女という悲劇的な側面を持ちながらも、煢然たる様子が全くない加奈子が少し羨ましく思えた。
野田貴子は、学生でありながらも現在、厳しい管理下におかれ田辺であろうとなかなか面会はできない。浜岡や斎藤も尽力した結果、どうにか自宅から学校、買い物にも行けてはいるが、不自由な生活を余儀なくされている。
「野田のことでも考えてるのか?」
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる