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Ⅰ 両親が英雄だなんて聞いてない
1-3.
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そんなこんなで一週間が経ち、王立ブレイビオス学園の入学式当日を迎えた。
「制服、本当によくお似合いです。このような晴れ晴れしい日に立ち会えるとは……長生きするものですなあ」
「ああ、坊ちゃま。坊ちゃまは何を着ても坊ちゃまです」
バスチァンはハンカチで目じりを押え、ドメは恍惚とした表情で何を言ってるかわからない。とにかく二人の見送りで、邸を後にする。気恥ずかしいけどやっぱり家族同然の二人だから嬉しい。
歩いて5分ぐらいで学園に到着。邸の窓から校舎が見える距離という、学園の敷地かというレベル。王国の端々から生徒が集まるから、ほとんどは通えず寮に入るというのに……恵まれすぎて申し訳ない。
今日こそはあの女の子を見つけないと。三日前に学園へ制服を取りに行った時、学園長に訊いたら知ってたのには驚いた。翠の瞳って言ったら、すぐに会えるって言ってたし。まあ時短が可能ならそれに越したことは無い。とにかく誠心誠意だ。覚悟はできている。
校門は既に、同じ制服を着た子たちであふれていた。どこか落ち着かない子に、妙に堂々とした子。いろんな人間に囲まれて、俺はこれから「普通の暮らしを頑張る」。何が普通なのかわからんまま。
「この無礼者がっ」
ん? 何だか騒々しいな。豪華な馬車の前に立ち、何か怒ってる赤味を帯びたブロンドと、地面に伏せてビクビクとする茶色巻き毛ぽっちゃり。何があったんだろう。
「この王国四大公爵が一角スザック家公子、ギルレイ・スザックの馬車と知っての狼藉かっ」
「申し訳、ございませんっ。体調が少しすぐれず、ついふらふらと。決して狼藉をしようなどとは」
「そのような軟弱者が、よくも我が晴れ舞台を穢してくれたなっ。赦せん。そこへなおれっ」
あんな長い口上をよく噛まずに言えるな。
それよりもこれ、知ってる。「無礼討ち」っていう、貴族が気に入らなければ即KILL特権とかいうやつだ。いや待てよ。あれはおとんの小噺であって、俺が読んだ王国六法にはそんなのは無かったはず。
あらら、ギルレイってやつ、剣を抜いたぞ。何を考えてるんだ、あんな罠にかかった子ウサギみたいな子に。何で周りのヤツらも止めずに見てるんだ。おかしいだろ。
「死ね。穢れた貴様をここで散らし、この雅な学園の枝打ちとしてくれるっ」
「ひいい……」
「お前んとこの家業って、林業?」
振りかぶる剣を止めるべく、割って入る。
「何だお前はっ! 無礼者っ」
問答無用で斬りかかるのがすごい。そこは徹底してるんだ。
まあとにかくこの、ゆっくり降りてくるへなちょこの剣を……
「───! なあっ」
ほら、素手でも受け取れる。【闘衣】すら要らん攻撃なんて久しぶり。
「うぐぬうんっ……その手を離せっ」
「はいよ」
「うわあっ」
力余って大コケするギルレイ。体幹はどうなってるんだ。
「こここ、このゴミがっ、赦さん、赦さんぞっ!」
「そもそも何でお前に赦されなきゃならんのか、まずそこから説明をしてくれよ」
「ぬぉああ───っ! 来たれ南方の猛炎よっ、我が刀身にその灼熱を宿さんっ……」
なんか変な構えを取りながらブツブツ言ってる。
へえ、刀身に炎を纏って……夜に振ったら綺麗だろうなあ。だがそんなもの、斬るのには無意味だぞ。
「くらえいぃ、スザック三型、【猛炎両断】っっ」
かったるい……あ、わかった。一回死なせて生き返らせよう。そうしよう。
まずこの剣を取り上げて、
「なっ?」
そんでもう二度とお痛ができないようにへし折って、
「あばばっ、剣がっ、我が家の家宝があっ」
ほんで……手刀でこいつを斬る。
「ぐぉあああ───っ!」
血しぶきを上げてぶっ倒れるギルレイ。エッジを立てているからそう痛くないはずだ。
「きゃあ───っ、人殺しぃーっ」
「うわあああ衛兵を、衛兵を呼べえっ」
まあこうなることはわかっていたので、ここで小芝居だとする。
「ああ~皆さんご心配なく。今から3つ数えたら彼は復活するので。見ていてくださいよ~1、2の……3っ!」
【聖光】を発射して生き返らせる。ギャラリーからおお~と声があがった。小芝居は成功か。
「───はっ。い、いったい何が……ひぃっ、お、お前、私に何をしたっ」
「はい、お疲れさん。ちょっとお前、認知が歪んでる感じだったからさ。一回死んでもらったんだよ」
飛び上がるように起き上がって後ずさりするギルレイ。うん、やっぱりメンタル弱い人間はすぐ痛みに矯正されるな。
「あ、そうそう。このヘンテコな剣、家宝なんだろ。ほら、一緒に直しといたから」
「な……さっき、確かに折れ……」
「もうちょい良い鍛冶師を探して芯のある剣を打ってもらえよ。こんな子供の玩具を振り回すぐらいなら」
「ひ……ひぁ、ひああああ~~~っ!」
剣を抱えたままあらぬ方向へ走り出すギルレイ。ちょっとやり過ぎたかもしれん。ま、従者が追いかけてったし、ほっとくか。
そういやさっきの巻き毛の男子もいなくなっている。無事ならいいが……
固まって鎮まり返るギャラリーに一礼してっと。さて、いざ学園へ。
さっきのが普通でないことは、自分でも何となくわかるんだが……おとんはいつも言ってるから。「いかなる事情があろうとも、無抵抗な弱者に攻撃してはならん」と。それを見過ごすのは、我が家の流儀に反する。
しかし、入学式でこの血の気の多さとは。大丈夫かこの学園、あんなのがまかり通っているなんて。
まあ、あんな感じで、気が付いたら抜いていってやろう。俺の学園生活が、粛々と穏便に進むように。
「制服、本当によくお似合いです。このような晴れ晴れしい日に立ち会えるとは……長生きするものですなあ」
「ああ、坊ちゃま。坊ちゃまは何を着ても坊ちゃまです」
バスチァンはハンカチで目じりを押え、ドメは恍惚とした表情で何を言ってるかわからない。とにかく二人の見送りで、邸を後にする。気恥ずかしいけどやっぱり家族同然の二人だから嬉しい。
歩いて5分ぐらいで学園に到着。邸の窓から校舎が見える距離という、学園の敷地かというレベル。王国の端々から生徒が集まるから、ほとんどは通えず寮に入るというのに……恵まれすぎて申し訳ない。
今日こそはあの女の子を見つけないと。三日前に学園へ制服を取りに行った時、学園長に訊いたら知ってたのには驚いた。翠の瞳って言ったら、すぐに会えるって言ってたし。まあ時短が可能ならそれに越したことは無い。とにかく誠心誠意だ。覚悟はできている。
校門は既に、同じ制服を着た子たちであふれていた。どこか落ち着かない子に、妙に堂々とした子。いろんな人間に囲まれて、俺はこれから「普通の暮らしを頑張る」。何が普通なのかわからんまま。
「この無礼者がっ」
ん? 何だか騒々しいな。豪華な馬車の前に立ち、何か怒ってる赤味を帯びたブロンドと、地面に伏せてビクビクとする茶色巻き毛ぽっちゃり。何があったんだろう。
「この王国四大公爵が一角スザック家公子、ギルレイ・スザックの馬車と知っての狼藉かっ」
「申し訳、ございませんっ。体調が少しすぐれず、ついふらふらと。決して狼藉をしようなどとは」
「そのような軟弱者が、よくも我が晴れ舞台を穢してくれたなっ。赦せん。そこへなおれっ」
あんな長い口上をよく噛まずに言えるな。
それよりもこれ、知ってる。「無礼討ち」っていう、貴族が気に入らなければ即KILL特権とかいうやつだ。いや待てよ。あれはおとんの小噺であって、俺が読んだ王国六法にはそんなのは無かったはず。
あらら、ギルレイってやつ、剣を抜いたぞ。何を考えてるんだ、あんな罠にかかった子ウサギみたいな子に。何で周りのヤツらも止めずに見てるんだ。おかしいだろ。
「死ね。穢れた貴様をここで散らし、この雅な学園の枝打ちとしてくれるっ」
「ひいい……」
「お前んとこの家業って、林業?」
振りかぶる剣を止めるべく、割って入る。
「何だお前はっ! 無礼者っ」
問答無用で斬りかかるのがすごい。そこは徹底してるんだ。
まあとにかくこの、ゆっくり降りてくるへなちょこの剣を……
「───! なあっ」
ほら、素手でも受け取れる。【闘衣】すら要らん攻撃なんて久しぶり。
「うぐぬうんっ……その手を離せっ」
「はいよ」
「うわあっ」
力余って大コケするギルレイ。体幹はどうなってるんだ。
「こここ、このゴミがっ、赦さん、赦さんぞっ!」
「そもそも何でお前に赦されなきゃならんのか、まずそこから説明をしてくれよ」
「ぬぉああ───っ! 来たれ南方の猛炎よっ、我が刀身にその灼熱を宿さんっ……」
なんか変な構えを取りながらブツブツ言ってる。
へえ、刀身に炎を纏って……夜に振ったら綺麗だろうなあ。だがそんなもの、斬るのには無意味だぞ。
「くらえいぃ、スザック三型、【猛炎両断】っっ」
かったるい……あ、わかった。一回死なせて生き返らせよう。そうしよう。
まずこの剣を取り上げて、
「なっ?」
そんでもう二度とお痛ができないようにへし折って、
「あばばっ、剣がっ、我が家の家宝があっ」
ほんで……手刀でこいつを斬る。
「ぐぉあああ───っ!」
血しぶきを上げてぶっ倒れるギルレイ。エッジを立てているからそう痛くないはずだ。
「きゃあ───っ、人殺しぃーっ」
「うわあああ衛兵を、衛兵を呼べえっ」
まあこうなることはわかっていたので、ここで小芝居だとする。
「ああ~皆さんご心配なく。今から3つ数えたら彼は復活するので。見ていてくださいよ~1、2の……3っ!」
【聖光】を発射して生き返らせる。ギャラリーからおお~と声があがった。小芝居は成功か。
「───はっ。い、いったい何が……ひぃっ、お、お前、私に何をしたっ」
「はい、お疲れさん。ちょっとお前、認知が歪んでる感じだったからさ。一回死んでもらったんだよ」
飛び上がるように起き上がって後ずさりするギルレイ。うん、やっぱりメンタル弱い人間はすぐ痛みに矯正されるな。
「あ、そうそう。このヘンテコな剣、家宝なんだろ。ほら、一緒に直しといたから」
「な……さっき、確かに折れ……」
「もうちょい良い鍛冶師を探して芯のある剣を打ってもらえよ。こんな子供の玩具を振り回すぐらいなら」
「ひ……ひぁ、ひああああ~~~っ!」
剣を抱えたままあらぬ方向へ走り出すギルレイ。ちょっとやり過ぎたかもしれん。ま、従者が追いかけてったし、ほっとくか。
そういやさっきの巻き毛の男子もいなくなっている。無事ならいいが……
固まって鎮まり返るギャラリーに一礼してっと。さて、いざ学園へ。
さっきのが普通でないことは、自分でも何となくわかるんだが……おとんはいつも言ってるから。「いかなる事情があろうとも、無抵抗な弱者に攻撃してはならん」と。それを見過ごすのは、我が家の流儀に反する。
しかし、入学式でこの血の気の多さとは。大丈夫かこの学園、あんなのがまかり通っているなんて。
まあ、あんな感じで、気が付いたら抜いていってやろう。俺の学園生活が、粛々と穏便に進むように。
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