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Ⅱ 黒い石のようなもの
2-3.
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───大演舞場
初日の見学以来、近づきもしなかった建物。そそり立つ灰色の巨壁に覆われた、威圧感はあるし規模は壮大だけどコスパが悪いというイメージしかなく。年数回しか使ってないって、もったいなさすぎる。
外には誰もいない。いたずらのわけはないと思うが……扉は普通に開いている。失礼しますとばかりに、暗い通用道を歩いていく。
前回と同じ演武台に出ると、その真ん中でポツンと一人、誰かが立っているのが見えた。先生か、学園関係者か。他にあてもないし、近くに行って訊いてみることにした。
「あの~、ケイと言います。ここに教頭先生から来るように言われまして。何かご存じないですか」
仕立のいい脚衣に外套の出で立ち……この人、女性だ。顔はレースのアイマスクをしていてよくわからないが、巻き巻きにまとめたブロンド髪がすごい。
「そう、あなたがケイなのね。では……早速、お手並み拝見っ!」
「───ぇえっ?」
ちょ、いきなり、何!?
右腕から〝何か〟が俺に向かって素早く振り出された! 風を斬る鋭い音が左耳をかすめ、ビシィッと石畳を強く打つ。
(あれ、かなり距離を取ったのに……軌道が俺に寄ってきたぞ)
変則的な一撃の意味が、彼女の手にする得物でわかった。鞭だ。なるほど、そりゃ曲線で来るわけだ。
「まあっ。この初撃をかわすなんて。さすがなのか、あたくしが怠っているのか」
「あの、いったい何の余興なんですかこれ。貴女はいったい何者───っとぉ?」
鞭打の範囲が広い。蛇のようにうねらせ、打つときと戻すときに攻撃態勢を崩さず、隙が無い。鞭なんて大振りなだけの武器だと思っていたのに、この人、めちゃくちゃ使いこなしている。
王都に来て一番するどい攻撃だが、でもまあ、俺には大したことはない。何よりこの人、どうも本気じゃないような……と思いきや。
(───! なんかヤバいっ)
不穏を感じて、一旦距離を取る。
「やだ、勘もいい。くう~、ゾクゾクする。あたくしは〝流行り〟の口上などしませんからね。いきなり打ちますよ。覚悟はいい?」
「まったくわかりませんが、どうぞ。受けて立ちます、お姉さん」
「きゃあ~っ! お姉さんだなんて。じゃあ、受け止めるって〝信じてる〟わ! 【天蛇螺鞭】っ!」
空高く振りかぶった鞭に光が収束したかと思うと、巨大な扇状に無数に分かれて拡がり、そのまま一気に振り下ろされた。この技、つい最近見たやつと同系統……っと。この練り具合だと【闘衣・壱】では防ぎ切れない。仕方ない。【弐】を出すかっ。
雨あられと降り注ぐ光の鞭が、石畳をデタラメに打ち付けまくる。
相も変わらず耳にうるさいが……これはすごい。光の鞭一本残らず上下左右にうねっているから、取りこぼしがない。全体攻撃なのに執拗って。技を考えた人の性格が怖い。
攻撃が止んだ。連続できない大技は、このタイムラグが致命傷になる。つまり耐えきってかわしきれば勝ち。石畳が凹むほどに踏み込んで一気に距離を詰め、懐に飛び込み、鞭を奪おう───としたところ。がっしりとハグされた。
「───ぅわっ?」
「つっかまえたっ! ああああ、この黒髪の感触、ニオイ。間違えようもないっ。ああああ、素敵ぃぃ」
何か感極まっていらっしゃる。すっごい力で抱きしめて、俺の髪をわしゃわしゃしながら頬を合わせ、ぐりぐりと押し付けてくる。
「あ……の、く、苦しいです。離して」
「いぃ~えっ! 16年も待ったの! 絶対離すものですかっ。持って帰って一晩中───」
「いい加減にせんかっ、〝レイ〟!」
遠くからの一喝にふと力が弱まる。声の先を向いてみると、学園長がこちらに歩いてくるのが見えた。
「ちょっとおじいちゃん! いいところなの。邪魔しないでくれる?」
「誰がおじいちゃんじゃ。まったく、ワシに断りもなく教頭と大演舞場を使いおって!」
「あら、ここは王立よ。国がお金を出して、分け隔てなく使えるようにしているんだから。別に許可なんて要らないわ」
「そうか、そこまで強権を駆使するんじゃったらワシにも考えがある。このことを全部、セイ様に報告するからの」
おかんの名を聞くなり、ふいっと俺を離す彼女。
「もう。その名を出されると一気に冷めるのよねぇ。ゴメンなさい、ケイ。あなたがケン様に似すぎていて、つい我を忘れちゃって」
そう言いながら、すっとアイマスクを取り去る彼女。そこに現れた俺を見つめる瞳が、翠に輝いている。それでようやく、俺の頭の中にスッキリと解答が現れた。
「女王陛下……レイアーネ様?」
「大正解!」
陛下は嬉しそうに言うなり、さっとひざまずいた。
「剣帝ケン様のご子息、ケイ様。あらためてご挨拶が遅くなったことに加え、先ほどまでの非礼。どうかお赦しくださいませ」
赦すも何も……参ったな。
また、よく知らない偉い人が俺の前で頭を下げる。今回は国家元首だぞ。恐縮しすぎて「やめてください」とも言えない。
ああ、自分の目が遠くを見つめている。
おとん、おかん。あなたがたは一体、過去にどれだけのことをやったんですか。何で俺がこんな目に遭ってんの?
初日の見学以来、近づきもしなかった建物。そそり立つ灰色の巨壁に覆われた、威圧感はあるし規模は壮大だけどコスパが悪いというイメージしかなく。年数回しか使ってないって、もったいなさすぎる。
外には誰もいない。いたずらのわけはないと思うが……扉は普通に開いている。失礼しますとばかりに、暗い通用道を歩いていく。
前回と同じ演武台に出ると、その真ん中でポツンと一人、誰かが立っているのが見えた。先生か、学園関係者か。他にあてもないし、近くに行って訊いてみることにした。
「あの~、ケイと言います。ここに教頭先生から来るように言われまして。何かご存じないですか」
仕立のいい脚衣に外套の出で立ち……この人、女性だ。顔はレースのアイマスクをしていてよくわからないが、巻き巻きにまとめたブロンド髪がすごい。
「そう、あなたがケイなのね。では……早速、お手並み拝見っ!」
「───ぇえっ?」
ちょ、いきなり、何!?
右腕から〝何か〟が俺に向かって素早く振り出された! 風を斬る鋭い音が左耳をかすめ、ビシィッと石畳を強く打つ。
(あれ、かなり距離を取ったのに……軌道が俺に寄ってきたぞ)
変則的な一撃の意味が、彼女の手にする得物でわかった。鞭だ。なるほど、そりゃ曲線で来るわけだ。
「まあっ。この初撃をかわすなんて。さすがなのか、あたくしが怠っているのか」
「あの、いったい何の余興なんですかこれ。貴女はいったい何者───っとぉ?」
鞭打の範囲が広い。蛇のようにうねらせ、打つときと戻すときに攻撃態勢を崩さず、隙が無い。鞭なんて大振りなだけの武器だと思っていたのに、この人、めちゃくちゃ使いこなしている。
王都に来て一番するどい攻撃だが、でもまあ、俺には大したことはない。何よりこの人、どうも本気じゃないような……と思いきや。
(───! なんかヤバいっ)
不穏を感じて、一旦距離を取る。
「やだ、勘もいい。くう~、ゾクゾクする。あたくしは〝流行り〟の口上などしませんからね。いきなり打ちますよ。覚悟はいい?」
「まったくわかりませんが、どうぞ。受けて立ちます、お姉さん」
「きゃあ~っ! お姉さんだなんて。じゃあ、受け止めるって〝信じてる〟わ! 【天蛇螺鞭】っ!」
空高く振りかぶった鞭に光が収束したかと思うと、巨大な扇状に無数に分かれて拡がり、そのまま一気に振り下ろされた。この技、つい最近見たやつと同系統……っと。この練り具合だと【闘衣・壱】では防ぎ切れない。仕方ない。【弐】を出すかっ。
雨あられと降り注ぐ光の鞭が、石畳をデタラメに打ち付けまくる。
相も変わらず耳にうるさいが……これはすごい。光の鞭一本残らず上下左右にうねっているから、取りこぼしがない。全体攻撃なのに執拗って。技を考えた人の性格が怖い。
攻撃が止んだ。連続できない大技は、このタイムラグが致命傷になる。つまり耐えきってかわしきれば勝ち。石畳が凹むほどに踏み込んで一気に距離を詰め、懐に飛び込み、鞭を奪おう───としたところ。がっしりとハグされた。
「───ぅわっ?」
「つっかまえたっ! ああああ、この黒髪の感触、ニオイ。間違えようもないっ。ああああ、素敵ぃぃ」
何か感極まっていらっしゃる。すっごい力で抱きしめて、俺の髪をわしゃわしゃしながら頬を合わせ、ぐりぐりと押し付けてくる。
「あ……の、く、苦しいです。離して」
「いぃ~えっ! 16年も待ったの! 絶対離すものですかっ。持って帰って一晩中───」
「いい加減にせんかっ、〝レイ〟!」
遠くからの一喝にふと力が弱まる。声の先を向いてみると、学園長がこちらに歩いてくるのが見えた。
「ちょっとおじいちゃん! いいところなの。邪魔しないでくれる?」
「誰がおじいちゃんじゃ。まったく、ワシに断りもなく教頭と大演舞場を使いおって!」
「あら、ここは王立よ。国がお金を出して、分け隔てなく使えるようにしているんだから。別に許可なんて要らないわ」
「そうか、そこまで強権を駆使するんじゃったらワシにも考えがある。このことを全部、セイ様に報告するからの」
おかんの名を聞くなり、ふいっと俺を離す彼女。
「もう。その名を出されると一気に冷めるのよねぇ。ゴメンなさい、ケイ。あなたがケン様に似すぎていて、つい我を忘れちゃって」
そう言いながら、すっとアイマスクを取り去る彼女。そこに現れた俺を見つめる瞳が、翠に輝いている。それでようやく、俺の頭の中にスッキリと解答が現れた。
「女王陛下……レイアーネ様?」
「大正解!」
陛下は嬉しそうに言うなり、さっとひざまずいた。
「剣帝ケン様のご子息、ケイ様。あらためてご挨拶が遅くなったことに加え、先ほどまでの非礼。どうかお赦しくださいませ」
赦すも何も……参ったな。
また、よく知らない偉い人が俺の前で頭を下げる。今回は国家元首だぞ。恐縮しすぎて「やめてください」とも言えない。
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