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Ⅰ 両親が英雄だなんて聞いてない
1-1b.
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人生初めての、年長者からの土下座を目の前にし、俺のドン引きは止まらない。
しかしよく見るとこのおじいさん、ちょっと興味深い。
このとんがり帽は確か、魔法に関わる人がかぶるやつのはず。なのに身体の革鎧は戦士の衣装だからちぐはぐ。つまりこのおじいさん、『魔武両道』ってやつなんだ。出来る人は多くないが、極めた人は数えるほどだという。
レジクス王国中の才子才媛が集まるというこの学園の長。そんな偉いかたが床に膝を付け、眉尻を下げた顔で俺を見上げている。
「ケイ〝様〟でいらっしゃいますな。入学試験の不手際、大変失礼をいたしました!」
「敬称不要です。それより、弁償の件ならひとつ提案が」
「教頭もワシと一緒に土下座してくれんか」
「はっ。し、しかし学園長、この少年はいったい」
「ちょっと俺の話を聞いてくださいよ」
眼鏡の先生も言われるがまま、ナチュラルに土下座に付き合う。何ゆえそんなに忙しそうにへりくだるんだろう。
おじいさんが半泣きで語り始めた。
「あらためて、ケイよ。ワシはこの王立ブレイビオス学園の学園長をしている、ジマッツァと言うのじゃが」
「あ、おとんとおかんが『ジマさん』って言ってた人ですね」
「おお! やはり間違いない。まさかケン様とセイ様のご子息が受験されるなど、まったく聞いておらず。今さっきの騒ぎで、慌てて受験申込書を見て気が付いた次第での」
あ~……二人とも、「黙って行ったほうがおもしろい」って、こういうことだったのか。旧知の人へのサプライズに俺を使うとは、まったく。
「両親から、ジマさんの話はよく聞きましたよ。三人教えた中で一番センスがあったって。自分たちの親ぐらいの歳だから、むしろ学ばせてもらうことのほうが多かったとか」
「な、何と……そのような有難いお言葉を。ううう、ワシ、今日まで頑張ってきて本当によかった」
ジマさん、感無量で泣き始める。一緒にもらい泣きする教頭さん。とにかく嬉しそうなのは伝わった。
両親の昔の話は、バスチァンとドメからしか聞いたことが無かったからなあ。山麓の村でもみんな普通に接してたし。あらためてこの反応を見ると、山に籠る前はそれなりの立ち位置だったってことだろうか。
「俺の両親って、そんなにすごかったんですか」
「ひょっとして、何も聞いておらんのか」
「おらんです」
ジマさんは肩をすくめ、ため息をついた。
「お二人らしいと言えばそうじゃな。ご両親は『剣帝』と『聖姫』。魔王を倒した英雄。おぬしはその血を引継ぎし者、ということなんじゃ」
「ちょっと情報が多いんですが。それより魔王って、絵本の話じゃなかったんだ」
やってくれたなあの二人。それで初対面の子供に、いい大人がこんなにへりくだっていたのか。やっと空気が読めてきたぞ。 まったく「おもしろい」じゃないって。単に失礼極まりないだけじゃないか。こっちこそ土下座だ。
遅ればせ、俺も両膝をつき、上半身を目一杯に振りかぶった。
「ほんっと、申し訳ありませんでしたあ───っ」
手を突いた途端、床にどかんと穴が開いた。
「あ、しまった」
景色が上下に揺れ、下へ落ちていく。
また、やってしまった。謝ろうとしただけなのにこの顛末。そうだ、さっきの試験から『縛り』を解いたままだった。それで力が余ってこんなことに。しかしもう遅い。
バキバキのぐしゃぐしゃ。派手な音を出しながら、三階分ぐらい落ちたかな。
やっと止まって……青いタイルの壁が見える。おそらくここは浴場。
舞い上がるホコリの中、誰かが立っているのが見えた。
女の子だ。しかも、すっぽんぽん。
ブロンドの髪。珍しい翠の瞳が、ばっちりと俺の目と合う。
そんでもって俺、つい目線を顔から下へとやってしまう。それに気付き、わなわなと震える女の子。
「いやああああ───っ、ヘンタイ───っ!」
あ痛っ。
手あたり次第その辺の瓦礫を掴んで投げつける女の子。
「ごっ、ごめんなさいぃ───っ」
慌てて退散。今日は謝ってばっかりだ。
試験どころじゃなくなってしまった。これは〝大変なこと〟になったぞ。
この学園に入って、何としてもあの娘を見つけないと。誠心誠意、謝って。そして……家訓を守らねば。
だが俺は、この時まだぜんっぜん予想だにしなかった。
この土下座事故が、あんなに大騒ぎになるなんて───
しかしよく見るとこのおじいさん、ちょっと興味深い。
このとんがり帽は確か、魔法に関わる人がかぶるやつのはず。なのに身体の革鎧は戦士の衣装だからちぐはぐ。つまりこのおじいさん、『魔武両道』ってやつなんだ。出来る人は多くないが、極めた人は数えるほどだという。
レジクス王国中の才子才媛が集まるというこの学園の長。そんな偉いかたが床に膝を付け、眉尻を下げた顔で俺を見上げている。
「ケイ〝様〟でいらっしゃいますな。入学試験の不手際、大変失礼をいたしました!」
「敬称不要です。それより、弁償の件ならひとつ提案が」
「教頭もワシと一緒に土下座してくれんか」
「はっ。し、しかし学園長、この少年はいったい」
「ちょっと俺の話を聞いてくださいよ」
眼鏡の先生も言われるがまま、ナチュラルに土下座に付き合う。何ゆえそんなに忙しそうにへりくだるんだろう。
おじいさんが半泣きで語り始めた。
「あらためて、ケイよ。ワシはこの王立ブレイビオス学園の学園長をしている、ジマッツァと言うのじゃが」
「あ、おとんとおかんが『ジマさん』って言ってた人ですね」
「おお! やはり間違いない。まさかケン様とセイ様のご子息が受験されるなど、まったく聞いておらず。今さっきの騒ぎで、慌てて受験申込書を見て気が付いた次第での」
あ~……二人とも、「黙って行ったほうがおもしろい」って、こういうことだったのか。旧知の人へのサプライズに俺を使うとは、まったく。
「両親から、ジマさんの話はよく聞きましたよ。三人教えた中で一番センスがあったって。自分たちの親ぐらいの歳だから、むしろ学ばせてもらうことのほうが多かったとか」
「な、何と……そのような有難いお言葉を。ううう、ワシ、今日まで頑張ってきて本当によかった」
ジマさん、感無量で泣き始める。一緒にもらい泣きする教頭さん。とにかく嬉しそうなのは伝わった。
両親の昔の話は、バスチァンとドメからしか聞いたことが無かったからなあ。山麓の村でもみんな普通に接してたし。あらためてこの反応を見ると、山に籠る前はそれなりの立ち位置だったってことだろうか。
「俺の両親って、そんなにすごかったんですか」
「ひょっとして、何も聞いておらんのか」
「おらんです」
ジマさんは肩をすくめ、ため息をついた。
「お二人らしいと言えばそうじゃな。ご両親は『剣帝』と『聖姫』。魔王を倒した英雄。おぬしはその血を引継ぎし者、ということなんじゃ」
「ちょっと情報が多いんですが。それより魔王って、絵本の話じゃなかったんだ」
やってくれたなあの二人。それで初対面の子供に、いい大人がこんなにへりくだっていたのか。やっと空気が読めてきたぞ。 まったく「おもしろい」じゃないって。単に失礼極まりないだけじゃないか。こっちこそ土下座だ。
遅ればせ、俺も両膝をつき、上半身を目一杯に振りかぶった。
「ほんっと、申し訳ありませんでしたあ───っ」
手を突いた途端、床にどかんと穴が開いた。
「あ、しまった」
景色が上下に揺れ、下へ落ちていく。
また、やってしまった。謝ろうとしただけなのにこの顛末。そうだ、さっきの試験から『縛り』を解いたままだった。それで力が余ってこんなことに。しかしもう遅い。
バキバキのぐしゃぐしゃ。派手な音を出しながら、三階分ぐらい落ちたかな。
やっと止まって……青いタイルの壁が見える。おそらくここは浴場。
舞い上がるホコリの中、誰かが立っているのが見えた。
女の子だ。しかも、すっぽんぽん。
ブロンドの髪。珍しい翠の瞳が、ばっちりと俺の目と合う。
そんでもって俺、つい目線を顔から下へとやってしまう。それに気付き、わなわなと震える女の子。
「いやああああ───っ、ヘンタイ───っ!」
あ痛っ。
手あたり次第その辺の瓦礫を掴んで投げつける女の子。
「ごっ、ごめんなさいぃ───っ」
慌てて退散。今日は謝ってばっかりだ。
試験どころじゃなくなってしまった。これは〝大変なこと〟になったぞ。
この学園に入って、何としてもあの娘を見つけないと。誠心誠意、謝って。そして……家訓を守らねば。
だが俺は、この時まだぜんっぜん予想だにしなかった。
この土下座事故が、あんなに大騒ぎになるなんて───
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