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中編
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あれから数ヶ月が経ち、季節は夏。
学校では、長期休暇に入る前に、サマーパーティが行われる。
これは昼に行われるがドレスコードのある正式なもので、男女共に正装し、来賓も招かれる。
勿論、他国からも。
ただ、夏であるし昼間なので、男子も白やグレーなどの薄い色や生地の者が多いし、女子はレースやチュールを使った、袖なしのシンプルなデザインが多い。
未婚女性は肌を見せられないので、上からショールやボレロを羽織らなければならないが。
サフィーラは、白い地色に薄い水色のレースで飾りつけた、涼しげなドレスを纏っていた。肘までの白いレースの手袋と、揃いのショールで、肌は隠されている。レースなので、透けて見えるのが艶めかしい。
「やっだぁ!サフィーラさんったら、すっごーい、地味!!」
そこにいたのは、マイナだった。肩が剥き出しの派手な濃いピンクのドレスで、あちこちに宝石が縫い付けられ、背中も胸元もぱっくり開いている。
「なっ……何て格好……」
結い上げられた頭にはティアラまで乗せ、ネックレスもイヤリングも大粒のルビーで、とにかくギラギラしていた。
外なので、眩しくて直視出来ないくらいに。
「もうアンディの婚約者じゃないから、まともなドレスも買えなかったんですかぁ?コレ、アンディのプレゼントなんですよぉー、ふふっ」
「……ここは公式の場です。王族たる殿下を名で呼んではなりませんし、男爵令嬢のあなたが、わたくしに敬称を付けないのもいけません」
「ひっどーい!!そうやってあたしを苛めるんですね!!」
バタバタと走って行くマイナに、サフィーラは手を伸ばして止めたかった。
お願い、その格好で来賓の前に出ないでー!!
勿論、願いは叶わなかったが。
「貴様!もう俺の婚約者でもない癖に、マイナを苛めるとは何事だ!!」
マイナを腕にぶら下げて、やって来たのはアンドリューだった。
「……苛めてなどおりません。言葉遣いの注意をしただけですわ」
「それが生意気だと言うのだ!俺が許しているのだから、マイナが正しい!!」
「……左様でございますか。では、もう何も申し上げません。……ごきげんよう」
サフィーラは、正式なカーテシーをすると、その場を立ち去った。これ以上、アレの仲間だと思われては堪らない。
「……アレが、きみの元婚約者かい?」
「お見苦しいところをお見せしました」
「いや。……王子なのだろう?アレ。凄いね」
あらゆる意味で。
略された言葉を察して、サフィーラは苦笑した。
「何故かあの方だけ、変わっておられまして」
「そのお陰できみが手に入ったから、私には僥倖だけどね」
エスコートの手に口づけられ、サフィーラがちょっぴり赤くなる。
そう。サフィーラは、1人ではなかった。ちゃんと新たな婚約者と一緒だったし、先程も隣にいたのだが。
「しかし……」
サフィーラの婚約者は、騒ぎを起こしまくっている2人を見やり、肩を竦めた。
「よく2人にしておくね?」
「王女殿下が傍におられるのですが……」
始めは注意していたらしいリディアーナは、もう死んだ目をして2人を眺めているだけだった。
「ご挨拶に伺ってよろしいですか?」
「勿論。……お友達なのだったね」
「はい」
サフィーラがそちらに向かって歩いて行くと、リディアーナが気づいてやって来た。
「ごきげんよう、サフィーラ」
「ありがとう存じます、リディアーナ殿下。……こちらは、わたくしの婚約者で……」
「ルーファス・ラディ・シードルートと申します」
「まあ!……わたくしはリディアーナ・ドラ・ネディラですわ」
「以後、お見知り置きください」
「こちらこそ。……サフィーラ、良い方ですわね」
「ええ、とても。……その、殿下」
「愚兄のことは言わないでちょうだい」
「せめて、何か……ショールでも」
「言ったのよ、わたくしも!ボレロだって可愛いの仕立てて着せてやりましたのに!引き裂きやがりましたわ、あの女!!」
「殿下、お言葉」
「あら、失礼。……もう、未婚の女性ではない、ということで無理やり納得しましたわ」
「……まだ婚約なさってませんわよね?」
「一足飛びに婚姻なさるのではなくて」
「……諦めたのですね」
「もう、知りませんわ」
ルーファスがくっくっと笑い出し、リディアーナが溜息をつく。
「他国の方に、お見苦しいところを」
「いえ。……アンドリューどのは、男爵家に婿入りするのかな」
「婿入りなんて出来ませんわ。ドナート男爵家は既にあのおん……マイナ嬢の兄が継いでますし、後継も生まれてますもの」
「まあ。では、やはり平民になるのですね」
「それしかないでしょう。……ですから、多少のマナー違反は見ぬ振りをしていただけるとありがたいですわ」
「多少……まあ、努力しましょう」
ルーファスが苦笑したところでリディアーナと別れ、2人は挨拶回りを始めた。婚約者が変わったので、周知しなければならない。
どの国の来賓に対しても、きちんとその国の言葉で対応するサフィーラに、ルーファスは感心した。
「流石だね」
「ランドルーズ家は代々、外交を担ってますから」
「私も鍛え直そう」
「ルーファスさまの発音も綺麗ですわよ」
「そう?良かった」
そんな仲睦まじい2人を、睨むように見据えていた者がいた。
学校では、長期休暇に入る前に、サマーパーティが行われる。
これは昼に行われるがドレスコードのある正式なもので、男女共に正装し、来賓も招かれる。
勿論、他国からも。
ただ、夏であるし昼間なので、男子も白やグレーなどの薄い色や生地の者が多いし、女子はレースやチュールを使った、袖なしのシンプルなデザインが多い。
未婚女性は肌を見せられないので、上からショールやボレロを羽織らなければならないが。
サフィーラは、白い地色に薄い水色のレースで飾りつけた、涼しげなドレスを纏っていた。肘までの白いレースの手袋と、揃いのショールで、肌は隠されている。レースなので、透けて見えるのが艶めかしい。
「やっだぁ!サフィーラさんったら、すっごーい、地味!!」
そこにいたのは、マイナだった。肩が剥き出しの派手な濃いピンクのドレスで、あちこちに宝石が縫い付けられ、背中も胸元もぱっくり開いている。
「なっ……何て格好……」
結い上げられた頭にはティアラまで乗せ、ネックレスもイヤリングも大粒のルビーで、とにかくギラギラしていた。
外なので、眩しくて直視出来ないくらいに。
「もうアンディの婚約者じゃないから、まともなドレスも買えなかったんですかぁ?コレ、アンディのプレゼントなんですよぉー、ふふっ」
「……ここは公式の場です。王族たる殿下を名で呼んではなりませんし、男爵令嬢のあなたが、わたくしに敬称を付けないのもいけません」
「ひっどーい!!そうやってあたしを苛めるんですね!!」
バタバタと走って行くマイナに、サフィーラは手を伸ばして止めたかった。
お願い、その格好で来賓の前に出ないでー!!
勿論、願いは叶わなかったが。
「貴様!もう俺の婚約者でもない癖に、マイナを苛めるとは何事だ!!」
マイナを腕にぶら下げて、やって来たのはアンドリューだった。
「……苛めてなどおりません。言葉遣いの注意をしただけですわ」
「それが生意気だと言うのだ!俺が許しているのだから、マイナが正しい!!」
「……左様でございますか。では、もう何も申し上げません。……ごきげんよう」
サフィーラは、正式なカーテシーをすると、その場を立ち去った。これ以上、アレの仲間だと思われては堪らない。
「……アレが、きみの元婚約者かい?」
「お見苦しいところをお見せしました」
「いや。……王子なのだろう?アレ。凄いね」
あらゆる意味で。
略された言葉を察して、サフィーラは苦笑した。
「何故かあの方だけ、変わっておられまして」
「そのお陰できみが手に入ったから、私には僥倖だけどね」
エスコートの手に口づけられ、サフィーラがちょっぴり赤くなる。
そう。サフィーラは、1人ではなかった。ちゃんと新たな婚約者と一緒だったし、先程も隣にいたのだが。
「しかし……」
サフィーラの婚約者は、騒ぎを起こしまくっている2人を見やり、肩を竦めた。
「よく2人にしておくね?」
「王女殿下が傍におられるのですが……」
始めは注意していたらしいリディアーナは、もう死んだ目をして2人を眺めているだけだった。
「ご挨拶に伺ってよろしいですか?」
「勿論。……お友達なのだったね」
「はい」
サフィーラがそちらに向かって歩いて行くと、リディアーナが気づいてやって来た。
「ごきげんよう、サフィーラ」
「ありがとう存じます、リディアーナ殿下。……こちらは、わたくしの婚約者で……」
「ルーファス・ラディ・シードルートと申します」
「まあ!……わたくしはリディアーナ・ドラ・ネディラですわ」
「以後、お見知り置きください」
「こちらこそ。……サフィーラ、良い方ですわね」
「ええ、とても。……その、殿下」
「愚兄のことは言わないでちょうだい」
「せめて、何か……ショールでも」
「言ったのよ、わたくしも!ボレロだって可愛いの仕立てて着せてやりましたのに!引き裂きやがりましたわ、あの女!!」
「殿下、お言葉」
「あら、失礼。……もう、未婚の女性ではない、ということで無理やり納得しましたわ」
「……まだ婚約なさってませんわよね?」
「一足飛びに婚姻なさるのではなくて」
「……諦めたのですね」
「もう、知りませんわ」
ルーファスがくっくっと笑い出し、リディアーナが溜息をつく。
「他国の方に、お見苦しいところを」
「いえ。……アンドリューどのは、男爵家に婿入りするのかな」
「婿入りなんて出来ませんわ。ドナート男爵家は既にあのおん……マイナ嬢の兄が継いでますし、後継も生まれてますもの」
「まあ。では、やはり平民になるのですね」
「それしかないでしょう。……ですから、多少のマナー違反は見ぬ振りをしていただけるとありがたいですわ」
「多少……まあ、努力しましょう」
ルーファスが苦笑したところでリディアーナと別れ、2人は挨拶回りを始めた。婚約者が変わったので、周知しなければならない。
どの国の来賓に対しても、きちんとその国の言葉で対応するサフィーラに、ルーファスは感心した。
「流石だね」
「ランドルーズ家は代々、外交を担ってますから」
「私も鍛え直そう」
「ルーファスさまの発音も綺麗ですわよ」
「そう?良かった」
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