【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

文字の大きさ
21 / 70

21 女の武器

しおりを挟む
それからまもなくして、わたしは、ひたすら日々はたきをかけ続け、エアリアさんが吹っ飛ばし、お城の瘴気はほぼ消えた。
城に、人間界とつながる結界があるので、魔王城が一番瘴気にやられたらしいけど、一件落着。

城下町以降、他の町に影響は出てないので、職員さんたちをお城に呼び戻せるようになったらしい。
魔王さま、トミーさん、わたしの生活も終わってしまった。
ウンディーネさんやエアリアさんも声をかけないと会えない

「いろんな従業員さんが戻ってきたら、わたしの仕事あるんでしょうか?」

お昼の噴水のそばで、わたしはぼそりとつぶやいた。
ウンディーネは水面にぷかぷか浮かびながら、リンの顔をのぞき込む。

「瘴気はどう?」
「もう、城の中はみんなでハタキ終わりました」

埃と違って瘴気はそこまで急激にはたまらない。
魔王城の瘴気は長く溜まってしまっていたのだろうか?

城の空気はすっかり変わった。

ネズミイさんは仲間とにぎやかに再会。
台所は、厨房長は鬼のオーガなので、人間の私が行ったら踏み潰されそうだ。

トミーさんは人員配置で大忙しだから声がかけられない。
「リンさんに適職がある」って嬉しそうだったんだけどなあ。
なんか忙しそうで、ここ数日放置状態だ。

魔王さまは執務室にこもってる。
それこそ忙しそうで、コーヒーすら飲めそうにない。
まあ、私が入れなくても色んな人が身の回りのことしてくれるみたいだから...

リンは、仕事も無くなり、ぽつんと噴水の縁に腰を下ろし、足をぶらぶらさせる。

「……やっぱり、わたしって、いらないのかも」

廊下を通るメイドたちの視線が、ちらちらリンに向けられている。

「……嫁候補の噂、広まってるみたい」
「人間だって!」
「魔王さま、本気なのかなあ」
「可愛いけど……ちょっとちっちゃいわね」

……うん、全部わたしに向けられた声。
どうやら、魔族の中で人間というのは特殊に見られる存在らしい。

「ウンディーネさん、人間ってあまり好かれてないんですね」

ここに、あまり発言や視線に好意的な人たちはいない。
毒舌ネズミイさんは、好意的ではなかったのだろうが、掃除という共通目標を持った同士として認めてくれたという感じらしい。

でも、鬼のオーガの厨房長や胴体が蛇のメイド長スネクさんのほうがよっぽど珍しいと思うんだけどなあ。
 
そんなスネクさんに昨日言われたことが、まだ胸に刺さってる。 

「あなたは魔王さまの奥方さまになるかもしれない方なんでふってね?
 もっとご飯をしっかり食べて、太陽を浴びて、素敵なレディにならなきゃ。あなたの仕事は食べては眠ることではなくて?」

つまり……もっと女らしくなれってことよね?

「人間はよく思われてないのは事実よ。ただ、それは、スネクならではの優しさねえ……」

ウンディーネは噴水の上でくるりと回りながら、ちょっと苦笑い。

「リンちゃん、痩せすぎなの。もう少しふっくらしたら、もっと魅力的になるってことよ」
「やっぱり、ボインが正義なんですよね」

リンはため息をつく。
教会と変わらない。
みんなのように、女性を武器にできなければ生きてはいけないのだ。

「またそれ言うの!リンちゃん、いつもそればっか」

ウンディーネは、ふんと笑う。
わたしは膝を抱えてぽつぽつ話し出す。

「教会にいたころ、先輩の神官さんやカレンは、下町によくしてくれる人がたくさんいたみたいで。豪華なご飯もプレゼントも届いてたけど、わたしにはなかった。“ぺたんこには施しがない”って言われて……ここでも一緒なんですよね」



――その言葉を呟いた瞬間

水の精ウンディーネの笑顔がぱたりと止まった。
水面がざわつき、彼女の顔がほんの少し怖く見えた。

「リンちゃん、ぺたんこで良かったと思いなさい」
低く、静かな声。
「本当に、あの教会は腐り切ってるわ」
腰に手を当て、ウンディーネの熱弁が始まる。

「大事なのはね、胸でもなければ、尻でもないの!大体わたしから言えば、胸ぐらいで威張るなといいたいわ。
胸がデカくても腹もデカかったら、寸胴じゃないの!お尻が大きくても、胸が小さかったらおかしいしね!要は健康的にバランスがとれているかどうかよ。
胸だってね!形っていうのも重要なわけ!でかくて垂れるなら自慢にもならないわ!」
 
なんだかよくわからないけど、ウンディーネが言うと説得力がある。
なんかゆらゆらしてるけど締まるところがきちんと締まって、出るところでてるダイナマイトボディ!

いや、ただの水のゆらめきか??

「だからスネクが“ご飯をしっかり食べなさい”って言ったのは間違ってないのよ」

ウンディーネは優しく微笑んだ
エアリアさんが慰めてくれるように、姿は見えないけど優しい風が吹く。

噴水の水面に映る自分の顔をじっと見つめてわたしも、ふと思う。

「確かに、話してたらなんかどっちでもいいかも。元々ボインになりたかったのは、貧しくてご飯も少なくて、カレンたちが羨ましかっただけでした」
わたしは立ち上がる。

「ここに来てからは、私の欲しかった世界が広がってる。
ご飯を食べなさいって言ってくれる人がいるんだもの。もう女の武器は考えなくていいんですよね。前と一緒なんていったら、バチがあたっちゃいます」

へへっとリンは笑った。
ウンディーネが驚いて見つめる。

「え?急にどうしたのリンちゃん?
ずっと“ボインが世界を救う”とか言ってたじゃない?」

「でも、たぶん今、ちょっと救われてるんです。
ボインじゃなくても」

ウンディーネはしばらく黙ってから、にっこり微笑んだ。

「それなら、いいのよ」

エアリアの優しい風に吹く。
どうやらエアリアさんもわたしを励ましてくれているようだ。
わたしは笑顔で言った。

「職場に戻ります!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...