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46 50年前の出来事
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魔王はリンのぐっすり眠っている顔を見ながら考えていた。
ウンディーネが、無事に戻ってきた。
正直、マクライアのことが許せないのではないか?
狂化して敵として現れる未来も、想定していた。
彼女はかつて、魔王討伐の時に人間界から魔界の門を開けに来てしまったパーティの一員だったからな。
だから——
もし敵にやったらどんなにリンに愛想をつかされても、処分しなければならなかった。
無事二人がふたたび和解できて良かった。
リンからその報せを聞いた瞬間、心の底から、ほっとした自分がいたことを再認識する。
マクライアが悪いやつじゃないのは、わかってる。
でも、それだけじゃ、終わらない。
俺は、俺たちは失うものが多すぎた。
ーーー
50年前
「……あの、狐の……子は。あの子は……無事か……?」
全てが終わった後のかすれた声。
マクライアが、生死の淵から戻って、最初に気にしたのは自分のことではなかった。
「……トミーは、生きてる」
そう答えると、
「……すまない……すま……ない……」
何度も、何度も。
涙を落としながら、床に額をつけたまま。
彼がなにかをしたのか?
そう聞かれると、何もしなかったのだ。
ただそれでも、そこにいたことが罪だったといえる。
何もしなかったから愛する人は亡くなった。
出来もしないのに魔族の小狐トミーを狙った。
それが理由でトミーの母は死んだ。
悪き心で暴れ回った彼らのせいで、魔界の門は完全に開いた
俺は父を殺すしかなかった。
あの日、トミーはマクライアを殺したいと暴れた。
俺はそれを許さなかった。
最終的にトミーは、マクライアを許すことに決めた。
最後には自らの手で、母の血に染まった自分の服を怨念の山に投げ込んだ。
「母さんは……オレを、憎しみに染めたくて助けたんじゃない。だから、これは……母さんのためだ」
その言葉を聞いた瞬間、マクライアの背中が、音もなく崩れ落ちたのを覚えている。
それから、魔界を離れるまでのあいだ、
マクライアは俺に何度も、喉を潰すほど叫んだ。
「殺してくれ」って。
殺すのは、簡単だった。
でも——
逃げた“残りの三人”のほうが、よっぽど悪に見えた。
あいつらは反省していない。
仲間を助けようとする気持ちもない。
トミーの母を最後に救おうとして命を落とした聖女アルデリア
トミーを攻撃から最後は守ろうとした勇者マクライア
この二人の方がよっぽど善に見えた。
それに、マクライアにとっては、生きることのほうが何倍も辛そうだった。
魔界の門の前で、
崩れそうな手で、亡き恋人の聖女を探し続ける背中。
瘴気に沈んだ山で、血がにじむ手で土を掘る姿。
それが、父を殺したあと、
意味もなく父を殺害した場で彷徨っていた——あの頃の俺と、重なった。
だから、手を下すのを止めた。
殺すより、生きさせるほうが、彼の罪になると。
“生きろ”と、あの日の自分に言い聞かせるように。
リンには、「マクライアとは気が合った」と伝えてある。
……本当は、ただ、自分に似て見えただけだったけど。
マクライアは知らない。
でも、俺は知ってる。
——彼の恋人、アルデリアがどうなったか。
死んでもなお、彼からもらった指輪を手放せず、
その執着が、怨念に変わりかけていた。
もう少しで、悪霊になるところだった。
でも——
彼女は、本来そんな存在じゃなかった。
執着さえ外せば、まっすぐで、優しくてーー
浄化すらできるほどの“奇跡のような人間”。
そう、今のリンと同じような存在だった。
だから、俺は彼女を——精霊ウンディーネとして、転生させた。
もう、彼と彼女が交わることはない。
……ない、はずだった。
けれど。
もし、彼が赦されるなら。
アルデリアも、トミーも、過去を越えて生きられるのなら。
俺も——
いつか、許される日が来るんじゃないか。
父である魔王を殺した、この罪も。
どこかで、誰かに、許される時が来るのではないかと。
そんな淡い希望を、俺はずっと、抱いていたんだと思う。
そして、時が巡った。
マクライアを通して、俺はリンと出会った。
マクライアは、アルデリアから赦された。
リンは、アルデリアから聖女を継承した。
今、俺はこの手で——
すやすやと眠るリンを、抱きしめている。
願わくば。
それぞれが選び、あがき、積み重ねたすべてが
やがて「これでよかった」と思える未来に繋がりますように。
……って、うおっ!?
「ぐふっ……エルボー……ッ!」
油断した。腹に入った。
完全にリンの寝返りエルボー。
「……もう……今日くらいは、おとなしく寝ててくれよ……」
でもまあ、今日の会議はストレスの塊だっただろう。
最近は大人しく寝ていたもんな。
お疲れさま。リン。
……ありがとう。
ウンディーネが、無事に戻ってきた。
正直、マクライアのことが許せないのではないか?
狂化して敵として現れる未来も、想定していた。
彼女はかつて、魔王討伐の時に人間界から魔界の門を開けに来てしまったパーティの一員だったからな。
だから——
もし敵にやったらどんなにリンに愛想をつかされても、処分しなければならなかった。
無事二人がふたたび和解できて良かった。
リンからその報せを聞いた瞬間、心の底から、ほっとした自分がいたことを再認識する。
マクライアが悪いやつじゃないのは、わかってる。
でも、それだけじゃ、終わらない。
俺は、俺たちは失うものが多すぎた。
ーーー
50年前
「……あの、狐の……子は。あの子は……無事か……?」
全てが終わった後のかすれた声。
マクライアが、生死の淵から戻って、最初に気にしたのは自分のことではなかった。
「……トミーは、生きてる」
そう答えると、
「……すまない……すま……ない……」
何度も、何度も。
涙を落としながら、床に額をつけたまま。
彼がなにかをしたのか?
そう聞かれると、何もしなかったのだ。
ただそれでも、そこにいたことが罪だったといえる。
何もしなかったから愛する人は亡くなった。
出来もしないのに魔族の小狐トミーを狙った。
それが理由でトミーの母は死んだ。
悪き心で暴れ回った彼らのせいで、魔界の門は完全に開いた
俺は父を殺すしかなかった。
あの日、トミーはマクライアを殺したいと暴れた。
俺はそれを許さなかった。
最終的にトミーは、マクライアを許すことに決めた。
最後には自らの手で、母の血に染まった自分の服を怨念の山に投げ込んだ。
「母さんは……オレを、憎しみに染めたくて助けたんじゃない。だから、これは……母さんのためだ」
その言葉を聞いた瞬間、マクライアの背中が、音もなく崩れ落ちたのを覚えている。
それから、魔界を離れるまでのあいだ、
マクライアは俺に何度も、喉を潰すほど叫んだ。
「殺してくれ」って。
殺すのは、簡単だった。
でも——
逃げた“残りの三人”のほうが、よっぽど悪に見えた。
あいつらは反省していない。
仲間を助けようとする気持ちもない。
トミーの母を最後に救おうとして命を落とした聖女アルデリア
トミーを攻撃から最後は守ろうとした勇者マクライア
この二人の方がよっぽど善に見えた。
それに、マクライアにとっては、生きることのほうが何倍も辛そうだった。
魔界の門の前で、
崩れそうな手で、亡き恋人の聖女を探し続ける背中。
瘴気に沈んだ山で、血がにじむ手で土を掘る姿。
それが、父を殺したあと、
意味もなく父を殺害した場で彷徨っていた——あの頃の俺と、重なった。
だから、手を下すのを止めた。
殺すより、生きさせるほうが、彼の罪になると。
“生きろ”と、あの日の自分に言い聞かせるように。
リンには、「マクライアとは気が合った」と伝えてある。
……本当は、ただ、自分に似て見えただけだったけど。
マクライアは知らない。
でも、俺は知ってる。
——彼の恋人、アルデリアがどうなったか。
死んでもなお、彼からもらった指輪を手放せず、
その執着が、怨念に変わりかけていた。
もう少しで、悪霊になるところだった。
でも——
彼女は、本来そんな存在じゃなかった。
執着さえ外せば、まっすぐで、優しくてーー
浄化すらできるほどの“奇跡のような人間”。
そう、今のリンと同じような存在だった。
だから、俺は彼女を——精霊ウンディーネとして、転生させた。
もう、彼と彼女が交わることはない。
……ない、はずだった。
けれど。
もし、彼が赦されるなら。
アルデリアも、トミーも、過去を越えて生きられるのなら。
俺も——
いつか、許される日が来るんじゃないか。
父である魔王を殺した、この罪も。
どこかで、誰かに、許される時が来るのではないかと。
そんな淡い希望を、俺はずっと、抱いていたんだと思う。
そして、時が巡った。
マクライアを通して、俺はリンと出会った。
マクライアは、アルデリアから赦された。
リンは、アルデリアから聖女を継承した。
今、俺はこの手で——
すやすやと眠るリンを、抱きしめている。
願わくば。
それぞれが選び、あがき、積み重ねたすべてが
やがて「これでよかった」と思える未来に繋がりますように。
……って、うおっ!?
「ぐふっ……エルボー……ッ!」
油断した。腹に入った。
完全にリンの寝返りエルボー。
「……もう……今日くらいは、おとなしく寝ててくれよ……」
でもまあ、今日の会議はストレスの塊だっただろう。
最近は大人しく寝ていたもんな。
お疲れさま。リン。
……ありがとう。
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