47 / 70
47 皇后の間
しおりを挟む
わたしは、あの“聖女兼・魔王の妻お披露目会”から数日間、ずっと部屋でごろごろしていた。
目眩と吐き気はすぐ治まったけど、魔王さまが「もう絶対安静」って言い張って、部屋からの外出を完全禁止にされたのだ。
レッスンもなし。浄化対象もなし。
スネク先生からも逃げ放題だけど、することもない。
遊び相手はエアリアさんか、ご飯を運んでくるネズミイくらい。
(暇すぎる……)
この「皇后の間」って名前のお部屋は、魔王さまのお母さんが使ってた場所らしい。
やたら豪華で、床も壁も大理石みたいなマーブル模様、真っ赤なふかふか絨毯、天井高っ!
神父さまの部屋の何倍ゴージャスなんだろう。
なんとなく、落ち着かない。
私は今日も、部屋のすみっこで体育座りしていた。
「ねえリンちゃん、なんでそんな隅っこいるの?」
エアリアさんが笑いながら声をかけてくる。
「……空間が痛いんです」
「へ?」
もうこの部屋のゴージャスさが、精神にダメージくるのよ!
むしろ、エアリアさんのほうが、すっかり慣れ親しんでて、ここに面白い本があるよ。とかここに隠し部屋からあるの。とか知ってて驚いちゃう。
「ねえ、エアリアさん。魔王さまのお母さんって、どんな方だったんですか?」
「うーん、私が来たのはウンディーネよりちょっと前だけどね。皇后さまが亡くなった後だったんだよね」
「亡くなってたんですか……」
魔王さまの家族の話って、聞いたことがない。
言わない理由があるのかなって、なんとなく聞かずにいた。
「噂ではね、病弱だったみたい。魔王さまが生まれてすぐに亡くなったって」
「そっか……寂しかったでしょうね」
「そうだね。スネク先生の帝王学も厳しかったし。でも、前の魔王さま――魔王さまのお父さんが優しい人だったから、救われたかも」
「へぇ……」
てっきり、交流のない親子かと思ってた。
でも、写真とか絵姿もまったく残ってないってどうなんだろ。
「魔界では、写真とかより魔族の方が長生きしちゃうから。保存文化、あんまりないの」
エアリアさんは肩をすくめて、微笑んだ。
「そういえば、魔王さまって昔ね、庭の噴水で水遊びしてたのよ」
「えっ、あの庭ですか? 私が最初に来たときにエアリアさんとあったところ…」
「そうそう。あそこに連れていって、びちゃびちゃになりながら遊ぶ魔王さまを、前の魔王さまが笑って見てたの。あのときだけは“魔王”じゃなくて“お父さん”の顔してたなぁ」
……ほんとだ。想像つかないけど、ちょっとだけ見てみたかったかも。
「でもね、魔王さまには“つらいこと”があって。それ以来、前の魔王さまの話は……禁句になったの」
「……禁句」
「うん。だいたい、人間界でいうと50年くらい前の話だったかな」
50年前――?
その数字に、私は思わずまばたきをした。
ウンディーネさんが、好きだった人と別れて精霊になった時期と、たしか……同じ頃――。
偶然……なのかな。
「リンちゃんって、魔王さまに遠慮してるの?」
「……本人が言いたくなさそうなことを、無理に聞くのはダメかなって」
「ふふ、いい子ね。でも知りたくなったら、私に聞いて。風の精霊はね、いろんな場所でいろんな声を聞くから。情報収集力、魔界トップクラスなのよ?」
えっへん!と胸を張るエアリアさんは、どこか誇らしげだった。
でもその時――
バタン、と部屋の扉が開いて、魔王さまが暗い顔で戻ってきた。
「魔王さま……?」
「伝書鳥から、SOSがあった。マクライアのギルドに向かったんだ」
魔王さまが人間界にいくと、この間みたいに魔王復活とか言われちゃうから、ほぼ行くことはない。トミーさんが有給休暇でいないし、それだけ緊急のことなんだね。
「……彼は、殺されていた」
え!
――嘘、でしょ。
あんなに、あんなに優しい顔でウンディーネさんが話してたのに……。
言葉が出てこなくて、ただただ、空気だけが重くなっていった。
目眩と吐き気はすぐ治まったけど、魔王さまが「もう絶対安静」って言い張って、部屋からの外出を完全禁止にされたのだ。
レッスンもなし。浄化対象もなし。
スネク先生からも逃げ放題だけど、することもない。
遊び相手はエアリアさんか、ご飯を運んでくるネズミイくらい。
(暇すぎる……)
この「皇后の間」って名前のお部屋は、魔王さまのお母さんが使ってた場所らしい。
やたら豪華で、床も壁も大理石みたいなマーブル模様、真っ赤なふかふか絨毯、天井高っ!
神父さまの部屋の何倍ゴージャスなんだろう。
なんとなく、落ち着かない。
私は今日も、部屋のすみっこで体育座りしていた。
「ねえリンちゃん、なんでそんな隅っこいるの?」
エアリアさんが笑いながら声をかけてくる。
「……空間が痛いんです」
「へ?」
もうこの部屋のゴージャスさが、精神にダメージくるのよ!
むしろ、エアリアさんのほうが、すっかり慣れ親しんでて、ここに面白い本があるよ。とかここに隠し部屋からあるの。とか知ってて驚いちゃう。
「ねえ、エアリアさん。魔王さまのお母さんって、どんな方だったんですか?」
「うーん、私が来たのはウンディーネよりちょっと前だけどね。皇后さまが亡くなった後だったんだよね」
「亡くなってたんですか……」
魔王さまの家族の話って、聞いたことがない。
言わない理由があるのかなって、なんとなく聞かずにいた。
「噂ではね、病弱だったみたい。魔王さまが生まれてすぐに亡くなったって」
「そっか……寂しかったでしょうね」
「そうだね。スネク先生の帝王学も厳しかったし。でも、前の魔王さま――魔王さまのお父さんが優しい人だったから、救われたかも」
「へぇ……」
てっきり、交流のない親子かと思ってた。
でも、写真とか絵姿もまったく残ってないってどうなんだろ。
「魔界では、写真とかより魔族の方が長生きしちゃうから。保存文化、あんまりないの」
エアリアさんは肩をすくめて、微笑んだ。
「そういえば、魔王さまって昔ね、庭の噴水で水遊びしてたのよ」
「えっ、あの庭ですか? 私が最初に来たときにエアリアさんとあったところ…」
「そうそう。あそこに連れていって、びちゃびちゃになりながら遊ぶ魔王さまを、前の魔王さまが笑って見てたの。あのときだけは“魔王”じゃなくて“お父さん”の顔してたなぁ」
……ほんとだ。想像つかないけど、ちょっとだけ見てみたかったかも。
「でもね、魔王さまには“つらいこと”があって。それ以来、前の魔王さまの話は……禁句になったの」
「……禁句」
「うん。だいたい、人間界でいうと50年くらい前の話だったかな」
50年前――?
その数字に、私は思わずまばたきをした。
ウンディーネさんが、好きだった人と別れて精霊になった時期と、たしか……同じ頃――。
偶然……なのかな。
「リンちゃんって、魔王さまに遠慮してるの?」
「……本人が言いたくなさそうなことを、無理に聞くのはダメかなって」
「ふふ、いい子ね。でも知りたくなったら、私に聞いて。風の精霊はね、いろんな場所でいろんな声を聞くから。情報収集力、魔界トップクラスなのよ?」
えっへん!と胸を張るエアリアさんは、どこか誇らしげだった。
でもその時――
バタン、と部屋の扉が開いて、魔王さまが暗い顔で戻ってきた。
「魔王さま……?」
「伝書鳥から、SOSがあった。マクライアのギルドに向かったんだ」
魔王さまが人間界にいくと、この間みたいに魔王復活とか言われちゃうから、ほぼ行くことはない。トミーさんが有給休暇でいないし、それだけ緊急のことなんだね。
「……彼は、殺されていた」
え!
――嘘、でしょ。
あんなに、あんなに優しい顔でウンディーネさんが話してたのに……。
言葉が出てこなくて、ただただ、空気だけが重くなっていった。
10
あなたにおすすめの小説
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる