【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

文字の大きさ
61 / 70

61 【サイド】エアリア3

しおりを挟む
ガブリエルは、今日も金庫の前で札束を撫でていた。

「金がある……金さえあれば、俺は大丈夫だ」

そう、金があれば食いっぱぐれない。
誰も逆らえない。
金で人も情報も買える。
金があれば、どんな罠も裏切りも──逃げられる。

「ふ、ふはは……完璧だ……」

神父室の隠し扉をそっと閉じ、窓の外を見やる。

「あれ、雨?」

重たい雲が、どこからともなく空を覆っていた。
風がざわつき、空気が湿っぽい。

「こりゃ一雨来るな……」

窓辺の木に、大きな黒いカラスが一羽。
ギョロリと、こちらを見ていた。

「ったく……教会にカラスとは縁起でもない。白鳩なら“神は見ておられます”なんて、それっぽいこと言って泣かせられるのに……」

ガブリエルは鼻で笑い、窓を開けて手を振る。

「しっしっ! どけ、貧乏鳥め」

だがカラスは動かない。むしろ、まっすぐこちらに──飛んできた!

「うおっ!?」

慌てて窓を閉めようとした、その瞬間。

ドォン、と地面が揺れた。

「な、なに──!?」

目の前に、突如として巨大な渦が現れる。
風、砂、光、音──すべてが混ざりあった
それはまるで生き物のような“風の獣”。

「た、竜巻だ……!? うわあああッ!」

逃げなければ。頭はそう叫ぶ。
だが、体が追いつかない。渦が速すぎる!
黒い渦はさらに砂を巻き上げ大きくなる

窓ガラスが粉々に砕けると同時に、ガブリエルの体が宙に舞う。

「う、わあああああああッ!!」

風がナイフのように肌を裂く。
血も出ない。切り裂かれた皮膚は、まるで紙細工のように舞い散る。

風の刃が、容赦なく彼を滅多切りにしていった──。

数秒後、すべては終わっていた。
彼は風で舞い上がって切り裂かれた後、墜落した。

そして竜巻は神父室を通過し、その奥にある金庫室に消えていく。
中の札束が、まるで花吹雪のように空に舞っていた。

「ガ、ガブリエル様!?」
「うわー!お金が、お札が飛んでる!」

駆けつけた神官たちが目にしたのは、無残に転がったガブリエルの亡骸と、空に舞う札束。

……そして

誰も、ガブリエルを見なくなった。
誰も、駆け寄らなかった。
むしろ、飛び交う札束に夢中になった。
彼の遺体を──踏みつけてすら、誰一人気にも留めなかった。


その様子を、高い枝にとまったカラスが見ていた。
くちばしには、青白く輝く魔石。
その姿は、ふわりと揺れてエアリアの姿に戻る。

「伝書鳥。ありがとう。……もう、帰りましょう」

エアリアは再び魔石に姿を戻すと、伝書鳥は音もなく飛び立った。

そして──

「おー! よかったよかった! おまえ、急に飛び立つからびっくりしたぜ!」

伝書鳥が戻ってきたのは、伝書鳥の部屋
オーガが笑いながら窓を閉める。

「おっ、こんなとこに魔石、置きっぱなしだな。ちゃんと戻さねぇと」

その魔石は、ウンディーネに
「わたしのじゃないわ」
という確認の元、スネクのもとに。

「これは、エアリア様の魔石でしたか?
リンさんが置いたのかもしれません。
噴水に戻しておきましょう」

そして、静かに、誰にも気づかれぬよう、魔石はスネクの手によって元の場所に戻された。

……すべてが、何事もなかったかのように。

そして、すべては、半日の出来事だった。

そして誰も、それが“処刑”だったとは思わなかった。

リン以外はーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...