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いきなりの婚約破棄
しおりを挟む「婚約破棄……ですって?」
卒業パーティーで皆がホールに集まり思い思いに過ごしている最中のことだった。
この国の王太子殿下であり卒業生のアーノルドはキラキラと煌く金色の髪をすくい上げ、見下すような視線をしていた。
「ああ。なんならもう一度言おうか?僕は君との婚約を破棄させてもらう」
告げられた言葉に先程までは騒がしいくらいだったホールに静寂が走る。
何事だと皆の視線が集中している。
私こと公爵令嬢アーリア・ディエゴはアーノルド王太子殿下と婚約関係にあった。
勿論貴族の婚姻なんて殆どが政略的なもので私と殿下も勿論例に漏れずそのような関係だ。
一切恋愛感情など伴わない婚約だが、だからこそその意味合いが本来ならわかるべきであろう。
「そうですか。ちなみに、この件は国王陛下は勿論ご存知の上でおっしゃっていると理解しますがよろしくて?」
「なんだ、泣き落としでもするつもりか?何を言われようが僕はこのキャサリンと結婚する!これはもう決定事項なんだ」
「アーノルド様……わたし、嬉しいです!」
キャサリンと呼ばれた娘はアーノルドの後ろに身を隠すようにして立っている。
体は密着し周りが見えていないようでイチャついている。
しかし、通じないな。
疑問形で投げかけたのだから答えが欲しかったのだがそれさえも出来ない馬鹿なのか。
貴族同士、しかも王族との婚姻なんて政治的利益があってこそ。
今回の婚約も陛下の指示、王命なのだ。
王命ということは公爵家に利があるというよりは、この婚姻で王族の方が得るものがあるということだ。
おいそれと撤回など出来ないしそもそもこちらに拒否権などはなかった。
いくらこんな馬鹿に嫁ぐのが嫌でも王命では逆らえば死罪になるだろう。
しかし、
にやりと笑ってしまう口元を扇子で隠す。
学園の卒業パーティーとはいえ大勢の人がいる中での婚約破棄。
しかも王太子自ら。
もう撤回などは出来ないだろう。
「わかりましたわ。その婚約破棄謹んでお受け致します」
まさかこんなにあっさりと引くとは思わなかったのかアーノルドは少しぽかんと口を開けたがすぐに喜びに染まった。
そして何か言おうと口を開けた瞬間に被せて言った。
「本当にありがとうございます。まさか殿下自ら私との婚約を破棄して下さるなんて!とっても、とっても嬉しいですわ!もう卒業パーティーでしょう?本当に毎日憂鬱でしたの……結婚が間近まで迫っておりましたし……まさかキャサリン男爵令嬢と浮気して下さってその上婚約破棄までして頂けるなんて夢のようですわ!あら、私ったらキャサリン様にもお礼を申し上げなければなりませんわね。アーノルド王太子殿下を引き受けて下さり感謝致しますわ」
捲し立てるように言いたいことを言い終えるととても清々しい気持ちになれた。
はぁ、気持ちを溜め込むのって良くないのね。
まさか喜ぶと思っても見なかったのかアーノルドは顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
キャサリンもありえないものを見るような目でこちらを見ている。
ああは言ったが本当はアーノルドとキャサリンの関係は早くから掴んでいた。
男爵家は貴族の中でも下位であることからもしかしたら妾にするとか言い出すのかと思っていたらまさかの正妻に、とは。
本当に馬鹿でありがたい限りだ。
王族といえども婚約中の浮気は勿論御法度。
なんとかこっちから婚約を破棄できるように持っていこうと集めた資料が無駄に終わったが、結果的には万々歳といったところだ。
でも資料集めもそれなりの労力がかかったわけだし、とこのまま捨てるのも勿体なく思えてしまう。
「そうですわ!それでは私からお二人の門出を祝ってこちらを差し上げますわ」
そう言って指を鳴らすと従者が資料を持ってやってきた。
「これは……?」
「私、殿下はキャサリン様のことをもっと知るべきだと思いましてこちらを用意致しましたの」
「お前がキャサリンの何がわかる!こんなもの……は?」
「なっ……」
アーノルドが従者から資料を乱暴にひったくるとバサバサと中身が床に散乱した。
中には写真も多く一目でキャサリンが色んな男との逢瀬を楽しんでいるところが分かってしまった。
本当はアーノルドも色んな女の子と遊んでいる写真があるのだが散らばり方が悪かったのだろう。
目に飛び込むのはキャサリンのゴシップばかりだった。
「なっ、なっ、なによ!!これ!」
キャサリンはすぐさま落ちた写真を拾い集めるが元々注目を浴びてしまっていたのでこのホールの最前列で野次馬していた人たちはばっちり見てしまった。
「あらあら。床に落ちたものをそのように拾い集めるのははしたなくってよ?」
「うるさい!なんてことしてくれるのよ!」
「私が落とした訳ではないのですけど……でもまあ、尻軽同士とてもお似合いだと思いますわ」
にっこり、と笑顔を見せるとカッとなったキャサリンは掴みかかろうと飛びかかる。
しかし従者に取り押さえられアーリアに触れることさえ出来なかった。
「それでは私この辺で失礼致しますわね。お二人とも、どうかお幸せに」
颯爽と立ち去ったアーリアの後ろでは、キャサリンとアーノルドが浮気だなんだと騒いでいた。
数日後、勝手に王命を撤回し更には名誉に泥を塗り付けるような行為をしたため王族に不利益を被らせた罪でアーノルドは王位継承権を剥奪され、キャサリンは男爵家から平民へと落とされた。
風の噂では、すぐに二人は別れてしまったらしい。
「残念ね……とてもお似合いでしたのに」
ぽそりと独り言を呟くと、婚約破棄後から大量に届くお茶会の誘いや婚姻の申し出の手紙の束を見つめた。
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