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episode4
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それから数日して、仕事帰り。パン屋から丸パンと菓子パンを買った。シャロンさんと共に菓子パンを食おうと思ったからだ。そしてご褒美を。へへ。
しかし、夕方にも関わらず、前の路傍の石にローラが座っていたので、手を振って近付いた。しかしローラはまともに俺と目を合わさずに赤い顔を伏せていた。
「何してんだローラ。お前のことを心配して探す使用人がいるんだ。怒られるぞ?」
「あ、あの! ジョエルくんと会いたくて……」
「はあ? お前、お嬢さまのくせしてまた何か貰えると思ってるな?」
「ううん! そうじゃない。そうじゃないの……」
「はは。冗談だ。ねーちゃんの姿が見えないな。家の中か?」
「い、いえ。お姉さまは町に買い物に出てて……」
「ふーん。すれ違っちまったな。そうだ。お前、ジャムサンド好きか?」
「あ、あの。ジャムサンドは中には、イチゴと砂糖が入ってて、はい。パンは小麦でできてまして、はい。大好きで……」
「そっか。お前のねーちゃんも好きかなぁ?」
「は、はい。あの。お姉さまはジャムが好きで、イチゴが大好きで、はい。ジャムサンドも好きで……はい」
「そっか。じゃやるから、ねーちゃんと食えや」
「は、はい。ジョエルくん、いつもありがとうで……はい」
俺は袋からジャムサンドを二つ取り出すとローラへと手渡した。
「またな!」
そう言ってローラとは手を振って別れ、小屋の中に向かっていった。『ごっ褒美、ごっ褒美』と自作の歌を歌いながら。小屋の扉に手を掛けて、ふとローラのほうを見ると、彼女は俺のほうに小さく手を振っていた。
こんな暗くなるまで敷地の外にいては危ないと、俺は大声で屋敷に戻れと言うと、ローラは焦り倒したように敷地内に駆けていった。なんなんだ、アイツ。
仕事の日にはシャロンさんにはなかなか会えない。彼女も仕事をしているので当たり前だ。
数日会えない日が続いたが、ある日ようやく顔を見ることが出来た。俺は急いで薔薇垣へと近付くと、シャロンさんも嬉しそうだったので、俺も嬉しくなった。
「シャロンさん、シャロンさん」
「あーらジョエルじゃない。元気だった?」
「元気ですよ。シャロンさんに会いたい一心で」
「口が上手いわね。ほほほ」
「なんか機嫌が良いですねー。やっぱり俺と会えたからですか?」
「チッ。自惚れんなっつーの。全然違うわよ」
「じゃなんです? ま、まさか、他の男?」
「なに言ってるの。男の嫉妬は醜いよ?」
「ではどうして?」
「実は妹のローラがウチに来ててさ」
「え。はー、ローラがいるのかぁ」
「なによ? 嫌そうな声出しちゃって」
「だってそしたらシャロンさんの家に入れないじゃないですか」
「別に入れないことなくない?」
「いや、入って、そのぉー」
「バカ! あんた、ホントにイヤらしい!」
「いや、キスです。キス! キス出来ないとぉ、思って!」
「は、はぁ? そう思ってたけど……? あんたが勝手に入ってキスしてくるものだと……」
「えぅ!!」
「まさか、お前、それ以上のこと考えてるな?」
「い、いやまさか。んなわけないっしょー、はは。やだなぁ……」
シャロンさんは、そんな俺をジト目で睨んでいた。そして声を落として言う。
「ダメだからね。このドスケベ。結婚するまではダメ」
「いいいい、分かってます。分かってます」
シャロンさんは、俺から目を反らしてから腕組みし、鼻をならして汚いものを見る目で俺を見てきた。しかし俺は拳を握り、天に突き上げながら言う。
「で、でもシャロンさんには結婚してくれる意志があるんですよね! うえーい! やったぁ!」
「は? 何言っちゃってんの、お前!?」
「そーか、そーか、シャロンさんは俺と結婚してから、そーゆーことをいっぱいしたいんだ! いぇーい、いぇーい!」
「コイツ!」
シャロンさんは、顔を真っ赤にして薔薇垣の破れから飛び出すと、俺を追いかけて来たので、俺は慌てて逃げた。しかしシャロンさんの足は早く、背中の服を掴まれて、地面に押し倒され腕を捻られた。
「あたたたたた! ギブ、ギブ、ギブ!」
「お前最近調子に乗ってるな。誰に向かって口聞いてるわけ?」
「痛い、痛い、助けてー」
「女みたいな声出すな!」
二人で戯れていたつもりだったが、シャロンさんの家の中から、ローラが飛び出して来た。そーか、アイツいるんだった。
そして、涙を流しながら叫ぶ。
「止めて、お姉さま! 喧嘩は、喧嘩はダメだよう……」
「あ。ゴメン、ゴメン……」
シャロンさんは急にしおらしくなって、俺の縛めをほどいた。ローラは、顔を赤くして手に持っていたものを慌てて背中に隠して家の中に駆け込んで行った。
「なんだアイツ」
「アイツじゃないでしょ。時期ご領主さま。私たちは将来、あの子の領地に住まわせて貰うんだから敬いなさい」
「あー、そうですね。でもシャロンさんの家で何やってるんですか?」
「それがねぇ、編み物を教えてくれって」
「へー、編み物?」
「そう。好きな人にプレゼントしたいんだってさぁ。嬉しいじゃない。どんな男を好きなのかねぇ」
「はぁー? あんなチビスケが恋ですかぁ?」
「ほーら、あんたは早速」
そう言ってシャロンさんは俺の頭をポカリと叩いた。
「はいはい、ご領主さまでした」
「そ。まあ伯爵の夫になるんだから、それなりの家柄の子だと思うけどね。ローラは私なんかと違って社交界にも行くしね」
「社交界!」
「そーそー。貴族さまが集まる夢のような世界だろうね~」
「へー、あんなのがねぇ」
そしてまたポカリと叩かれた。しかし俺はニヤけてしまっていた。シャロンさんに叩かれてニヤけるなんて、俺って危ない癖があるのかなぁ、なんて思っていた。
明くる日、仕事から帰り薔薇垣の小径を歩いて小屋へと行くと、突然背後から肩を掴まれた。一人じゃない数人いる。後ろから四肢を掴まれ身動きが取れなくなってしまった。ソイツらの顔を見ることが出来ない。
「クソ! 誰だ!」
しかしそいつらは何も言わない。薄暗いし、前に現れた男は太陽を背にしていたので全く誰か分からなかった。ソイツはそのまま俺の腹に拳を叩き込んで来たのだ。
「げふ……」
数度殴られ、俺は気を失いかけた時に聞こえた。鎖がジャラリと音を立てるのを。
「お嬢さまに二度と近付くな」
俺は薄れ行く意識の中で、これはあのローラ付きの使用人、トビーとかいう男だと悟ったのだった。
しかし、夕方にも関わらず、前の路傍の石にローラが座っていたので、手を振って近付いた。しかしローラはまともに俺と目を合わさずに赤い顔を伏せていた。
「何してんだローラ。お前のことを心配して探す使用人がいるんだ。怒られるぞ?」
「あ、あの! ジョエルくんと会いたくて……」
「はあ? お前、お嬢さまのくせしてまた何か貰えると思ってるな?」
「ううん! そうじゃない。そうじゃないの……」
「はは。冗談だ。ねーちゃんの姿が見えないな。家の中か?」
「い、いえ。お姉さまは町に買い物に出てて……」
「ふーん。すれ違っちまったな。そうだ。お前、ジャムサンド好きか?」
「あ、あの。ジャムサンドは中には、イチゴと砂糖が入ってて、はい。パンは小麦でできてまして、はい。大好きで……」
「そっか。お前のねーちゃんも好きかなぁ?」
「は、はい。あの。お姉さまはジャムが好きで、イチゴが大好きで、はい。ジャムサンドも好きで……はい」
「そっか。じゃやるから、ねーちゃんと食えや」
「は、はい。ジョエルくん、いつもありがとうで……はい」
俺は袋からジャムサンドを二つ取り出すとローラへと手渡した。
「またな!」
そう言ってローラとは手を振って別れ、小屋の中に向かっていった。『ごっ褒美、ごっ褒美』と自作の歌を歌いながら。小屋の扉に手を掛けて、ふとローラのほうを見ると、彼女は俺のほうに小さく手を振っていた。
こんな暗くなるまで敷地の外にいては危ないと、俺は大声で屋敷に戻れと言うと、ローラは焦り倒したように敷地内に駆けていった。なんなんだ、アイツ。
仕事の日にはシャロンさんにはなかなか会えない。彼女も仕事をしているので当たり前だ。
数日会えない日が続いたが、ある日ようやく顔を見ることが出来た。俺は急いで薔薇垣へと近付くと、シャロンさんも嬉しそうだったので、俺も嬉しくなった。
「シャロンさん、シャロンさん」
「あーらジョエルじゃない。元気だった?」
「元気ですよ。シャロンさんに会いたい一心で」
「口が上手いわね。ほほほ」
「なんか機嫌が良いですねー。やっぱり俺と会えたからですか?」
「チッ。自惚れんなっつーの。全然違うわよ」
「じゃなんです? ま、まさか、他の男?」
「なに言ってるの。男の嫉妬は醜いよ?」
「ではどうして?」
「実は妹のローラがウチに来ててさ」
「え。はー、ローラがいるのかぁ」
「なによ? 嫌そうな声出しちゃって」
「だってそしたらシャロンさんの家に入れないじゃないですか」
「別に入れないことなくない?」
「いや、入って、そのぉー」
「バカ! あんた、ホントにイヤらしい!」
「いや、キスです。キス! キス出来ないとぉ、思って!」
「は、はぁ? そう思ってたけど……? あんたが勝手に入ってキスしてくるものだと……」
「えぅ!!」
「まさか、お前、それ以上のこと考えてるな?」
「い、いやまさか。んなわけないっしょー、はは。やだなぁ……」
シャロンさんは、そんな俺をジト目で睨んでいた。そして声を落として言う。
「ダメだからね。このドスケベ。結婚するまではダメ」
「いいいい、分かってます。分かってます」
シャロンさんは、俺から目を反らしてから腕組みし、鼻をならして汚いものを見る目で俺を見てきた。しかし俺は拳を握り、天に突き上げながら言う。
「で、でもシャロンさんには結婚してくれる意志があるんですよね! うえーい! やったぁ!」
「は? 何言っちゃってんの、お前!?」
「そーか、そーか、シャロンさんは俺と結婚してから、そーゆーことをいっぱいしたいんだ! いぇーい、いぇーい!」
「コイツ!」
シャロンさんは、顔を真っ赤にして薔薇垣の破れから飛び出すと、俺を追いかけて来たので、俺は慌てて逃げた。しかしシャロンさんの足は早く、背中の服を掴まれて、地面に押し倒され腕を捻られた。
「あたたたたた! ギブ、ギブ、ギブ!」
「お前最近調子に乗ってるな。誰に向かって口聞いてるわけ?」
「痛い、痛い、助けてー」
「女みたいな声出すな!」
二人で戯れていたつもりだったが、シャロンさんの家の中から、ローラが飛び出して来た。そーか、アイツいるんだった。
そして、涙を流しながら叫ぶ。
「止めて、お姉さま! 喧嘩は、喧嘩はダメだよう……」
「あ。ゴメン、ゴメン……」
シャロンさんは急にしおらしくなって、俺の縛めをほどいた。ローラは、顔を赤くして手に持っていたものを慌てて背中に隠して家の中に駆け込んで行った。
「なんだアイツ」
「アイツじゃないでしょ。時期ご領主さま。私たちは将来、あの子の領地に住まわせて貰うんだから敬いなさい」
「あー、そうですね。でもシャロンさんの家で何やってるんですか?」
「それがねぇ、編み物を教えてくれって」
「へー、編み物?」
「そう。好きな人にプレゼントしたいんだってさぁ。嬉しいじゃない。どんな男を好きなのかねぇ」
「はぁー? あんなチビスケが恋ですかぁ?」
「ほーら、あんたは早速」
そう言ってシャロンさんは俺の頭をポカリと叩いた。
「はいはい、ご領主さまでした」
「そ。まあ伯爵の夫になるんだから、それなりの家柄の子だと思うけどね。ローラは私なんかと違って社交界にも行くしね」
「社交界!」
「そーそー。貴族さまが集まる夢のような世界だろうね~」
「へー、あんなのがねぇ」
そしてまたポカリと叩かれた。しかし俺はニヤけてしまっていた。シャロンさんに叩かれてニヤけるなんて、俺って危ない癖があるのかなぁ、なんて思っていた。
明くる日、仕事から帰り薔薇垣の小径を歩いて小屋へと行くと、突然背後から肩を掴まれた。一人じゃない数人いる。後ろから四肢を掴まれ身動きが取れなくなってしまった。ソイツらの顔を見ることが出来ない。
「クソ! 誰だ!」
しかしそいつらは何も言わない。薄暗いし、前に現れた男は太陽を背にしていたので全く誰か分からなかった。ソイツはそのまま俺の腹に拳を叩き込んで来たのだ。
「げふ……」
数度殴られ、俺は気を失いかけた時に聞こえた。鎖がジャラリと音を立てるのを。
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