3 / 11
断罪と奈落の出会い
第3話:ゴミ箱と呼ばれた日々
しおりを挟む
神殿から引きずり出されるようにして運ばれた先は、煌びやかな公爵邸ではなく、その地下深くにある冷え切った牢獄だった。
石壁からは湿り気が滴り、不衛生な藁が敷かれただけの空間。右腕の火傷は、適切な処置もされないまま黒く膿み始め、熱に浮かされる私の意識を何度も現実に引き戻す。
「お父様……お母様……助けて……」
暗闇に向かって、届くはずのない救いを求める。だが、牢の格子戸が開く音と共に現れたのは、慈悲深い両親ではなく、着飾った妹のセリナだった。
セリナは鼻を摘まみ、不快そうに私の姿を眺めている。
「お姉様、まだ生きていたの? もう死んでいるかと思ったのに、意外としぶといのね」
「……セリナ。どうして……みんなに、あんな嘘を……っ」
私が弱々しく問いかけると、セリナはまるで可笑しな冗談を聞いたかのように、コロコロと鈴を転がすような声で笑い出した。
「嘘? 何を言っているの。お姉様はずっと、私の光を吸い取って生きる寄生虫だったじゃない。今回のことで、それがようやく公になっただけよ。お父様もお母様も、お姉様のことを『我が家の恥』だって言っているわ。名前も家系図から消すんですって」
胸が、引き裂かれるように痛んだ。肉体の激痛など、比ではない。幼い頃から、セリナの魔力が暴走するたびに、私は彼女の体に触れてその毒を吸い取ってきた。私の体中に刻まれた無数の小さな痣は、すべて妹を守るために得た勲章だと思っていた。両親も「エレナがいてくれて助かるよ」と言ってくれていたはずだった。
「お疲れ様、ゴミ箱さん。でもね、もう新しい『中和剤』が見つかったのよ。教団が開発した聖なる薬があれば、お姉様の不気味な能力なんて必要ないの」
セリナはゆっくりと私に近づくと、牢の格子越しに、私の炭化した右腕を、履き慣れた革靴の先で執拗に踏みつけた。
「……っ! あああああ!」
「ふふ、いい声。その醜い腕、いっそ切り落としてしまえばよかったのに。でも、そんな必要もないわね。明日、お姉様は処分されることが決まったわ」
「処分……?」
恐怖で声が震える。セリナは満悦至極といった様子で、唇を歪めた。
「『死の森』の亀裂に、生贄として放り込まれるのよ。不浄な魔女としてね。あそこなら、お姉様のような汚い生き物にお似合いだわ」
セリナは満足げに背を向けると、牢から去り際に一度だけ振り返った。そこにあったのは、かつて一緒に遊んだ面影など一切ない、狂気と愉悦に満ちた瞳。
「さようなら、お姉様。地獄の底で、自分の無能さを呪いながら死んでね」
バタン、と重い鉄扉が閉まる音が地下室に響き渡る。私は、踏みつけられた右腕を抱きしめ、暗闇の中でただ絶望に震えることしかできなかった。
家族のために尽くしてきた私の人生は、ただの「ゴミ箱」として消費されるだけの、無価値なものだったのだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
石壁からは湿り気が滴り、不衛生な藁が敷かれただけの空間。右腕の火傷は、適切な処置もされないまま黒く膿み始め、熱に浮かされる私の意識を何度も現実に引き戻す。
「お父様……お母様……助けて……」
暗闇に向かって、届くはずのない救いを求める。だが、牢の格子戸が開く音と共に現れたのは、慈悲深い両親ではなく、着飾った妹のセリナだった。
セリナは鼻を摘まみ、不快そうに私の姿を眺めている。
「お姉様、まだ生きていたの? もう死んでいるかと思ったのに、意外としぶといのね」
「……セリナ。どうして……みんなに、あんな嘘を……っ」
私が弱々しく問いかけると、セリナはまるで可笑しな冗談を聞いたかのように、コロコロと鈴を転がすような声で笑い出した。
「嘘? 何を言っているの。お姉様はずっと、私の光を吸い取って生きる寄生虫だったじゃない。今回のことで、それがようやく公になっただけよ。お父様もお母様も、お姉様のことを『我が家の恥』だって言っているわ。名前も家系図から消すんですって」
胸が、引き裂かれるように痛んだ。肉体の激痛など、比ではない。幼い頃から、セリナの魔力が暴走するたびに、私は彼女の体に触れてその毒を吸い取ってきた。私の体中に刻まれた無数の小さな痣は、すべて妹を守るために得た勲章だと思っていた。両親も「エレナがいてくれて助かるよ」と言ってくれていたはずだった。
「お疲れ様、ゴミ箱さん。でもね、もう新しい『中和剤』が見つかったのよ。教団が開発した聖なる薬があれば、お姉様の不気味な能力なんて必要ないの」
セリナはゆっくりと私に近づくと、牢の格子越しに、私の炭化した右腕を、履き慣れた革靴の先で執拗に踏みつけた。
「……っ! あああああ!」
「ふふ、いい声。その醜い腕、いっそ切り落としてしまえばよかったのに。でも、そんな必要もないわね。明日、お姉様は処分されることが決まったわ」
「処分……?」
恐怖で声が震える。セリナは満悦至極といった様子で、唇を歪めた。
「『死の森』の亀裂に、生贄として放り込まれるのよ。不浄な魔女としてね。あそこなら、お姉様のような汚い生き物にお似合いだわ」
セリナは満足げに背を向けると、牢から去り際に一度だけ振り返った。そこにあったのは、かつて一緒に遊んだ面影など一切ない、狂気と愉悦に満ちた瞳。
「さようなら、お姉様。地獄の底で、自分の無能さを呪いながら死んでね」
バタン、と重い鉄扉が閉まる音が地下室に響き渡る。私は、踏みつけられた右腕を抱きしめ、暗闇の中でただ絶望に震えることしかできなかった。
家族のために尽くしてきた私の人生は、ただの「ゴミ箱」として消費されるだけの、無価値なものだったのだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
18
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
短編 跡継ぎを産めない原因は私だと決めつけられていましたが、子ができないのは夫の方でした
朝陽千早
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
子を授からないのは私のせいだと、夫や周囲から責められてきた。
だがある日、夫は使用人が子を身籠ったと告げ、「その子を跡継ぎとして育てろ」と言い出す。
――私は静かに調べた。
夫が知らないまま目を背けてきた“事実”を、ひとつずつ確かめて。
嘘も責任も押しつけられる人生に別れを告げて、私は自分の足で、新たな道を歩き出す。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。
星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」
涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。
だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。
それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。
「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。
必死に耐え続けて、2年。
魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。
「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」
涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる