身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん

文字の大きさ
8 / 12
第二章 幸せな領地生活

第八話 貢ぎ癖は死神の嗜み?

しおりを挟む
 中庭に花を咲かせ、領地に数百年ぶりの豊穣をもたらした翌日。私は、自分の目を疑うような光景に直面していた。

「アレクシス様……これは、一体……?」 「見ての通りだ。君に似合うものを揃えた」

 私の自室――といっても、今や城で一番豪華な寝室に、収まりきらないほどの木箱が並んでいる。アレクシス様が合図を出すと、侍女たちが次々と蓋を開けていった。

 中から現れたのは、目を刺すような輝きの数々。最高級のシルクをふんだんに使った夜会ドレスに、私の瞳の色と同じエメラルドを散りばめた首飾り。さらには、希少な魔獣の革で作られたという、お掃除にはもったいないほど繊細な細工の靴まで。

「あの、私、こんなにたくさんいただけません……。昨日も新しいお洋服をいただいたばかりですし……」 「足りない。これでもまだ、君がこの領地にもたらした奇跡の対価には程遠い」

 アレクシス様は、困惑する私を逃がさないようにそっと壁際に追い詰め、私の首元に指を這わせた。その指先が、エメラルドのペンダントをなぞり、私の肌をかすめる。

「君を蔑んでいた実家が、どれほどの節穴ふしあなだったか、世界中に知らしめてやりたい。……レティシア、君は世界一贅沢をしていい女性なんだ。俺の気が済むまで、飾らせてくれ」

 不器用なほど熱い視線に、私は心臓が跳ねるのを止められない。実家での生活は、姉の着古した雑巾のような服ばかりだった。 「無能に服を与えるなど布の無駄だ」とお父様に嘲笑われていた私が、今、一国の宝物のような扱いを受けている。

「……ありがとうございます、アレクシス様。でも、私……これ、着こなせるでしょうか」 「君は何を着ても美しい。……だが、そうだな。このドレスを着た君を、他の男に見せるのは少し……いや、かなり癪だな」

 アレクシス様は独り言のように呟くと、私の腰を引き寄せ、耳元で低く囁いた。

「今夜、二人だけの夕食会を開こう。そこで、一番気に入ったドレスを見せてくれ」

 アレクシス様の独占欲の強い微笑みに、私は顔が火照るのを隠すように俯くしかなかった。

 ***

 一方その頃。レティシアを捨てたバーンズ伯爵家は、かつてない窮地きゅうちに立たされていた。

「お、お父様! 大変よ! 王家御用達の宝石商から、取引停止の連絡が来たわ!」 「なんだと!? このバーンズ伯爵家がどれだけ金を落としていると思っているんだ!」

 お父様が机を叩いて激昂するが、事態はさらに深刻だった。レティシアがいなくなったことで、屋敷を守っていた浄化の結界が完全に消失。それにより、長年溜まっていた「家中の淀み」が魔物・・を呼び寄せてしまったのだ。

「ひ、ひいぃっ! 地下室から不気味な声が……! ミランダ様のお部屋も、カビだけじゃなくて黒い影が這い回っています!」 「な、何をしているのよ! 早く誰かに掃除させなさいよ!」

 ミランダが叫ぶが、雇っていた使用人たちは「あのお嬢様がいない屋敷なんて、呪いと同じだ」と、次々に荷物をまとめて夜逃げしてしまった。レティシアがいた頃は、彼女が寝る間も惜しんで掃除と浄化を繰り返していたからこそ、彼らは「無能を虐めながら、快適に過ごす」という歪んだ贅沢ができていたのだ。

 守り手を失った家は、内側から腐り、崩れていく。そして。アレクシスが密かに、伯爵家を経済的に追い詰めるための「包囲網・・」を敷き始めたことを、彼らはまだ知らない。

「……レティシアを泣かせた罪だ。地獄すら生温い絶望を味わせてやる」

 アレクシスは、レティシアに見せる甘い顔とは正反対の、本物の『死神』の笑みを浮かべていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

白い結婚をご希望ですか? 良いですよ。私はジャガイモと筋肉を育てますので!

松本雀
恋愛
「……いいか、エルゼ。あらかじめ言っておくが、私は君を愛するつもりはない」 「願ったり叶ったりです! 実は私、国境警備隊に幼馴染の恋人がいまして。この結婚が決まった時、二人で『体は売っても心は売らない』って涙ながらに誓い合ったんです。閣下が愛してくださらないなら、私の貞操も守られます! ありがとうございます、公爵閣下!」 「……こいびと?」 ◆ 「君を愛するつもりはない」 冷徹な公爵ギルベルトが新婚初夜に放った非情な宣告。しかし、新妻エルゼの反応は意外なものだった。 「よかった! 実は私、国境警備隊に恋人がいるんです!」 利害が一致したとばかりに秒速で就寝するエルゼ。彼女の目的は、愛なき結婚生活を隠れ蓑に、恋人への想いを込めた「究極のジャガイモ」を育てることだった! 公爵家の庭園を勝手に耕し、プロテインを肥料にするエルゼに、最初は呆れていたギルベルト。だが、彼女のあまりにフリーダムな振る舞いと、恋人への一途(?)な情熱を目の当たりにするうち、冷徹だった彼の心(と筋肉)に異変が起き始めて……!?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

処理中です...