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未送信のビデオログ
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それは、三年間使っていなかった古いクラウドストレージを整理していた時のことでした。 容量がいっぱいになったという通知を受け、不要なファイルを削除しようとログインした私は、身に覚えのないフォルダを見つけました。
フォルダ名は「2022_08_31」。 あの日――私が当時の恋人、香織(かおり)を不慮の事故で亡くした日の日付でした。
中には、数本の動画ファイルが収められていました。 サムネイルはどれも真っ暗で、何が映っているのか判別できません。私は恐る恐る、一番古い日付のファイルを再生しました。
1本の目の動画
画面に映ったのは、私の部屋の定点カメラの映像でした。 日付は三年前のあの日。私は仕事に出ていて不在のはずです。 無人の部屋。ただ、静かにエアコンの送風音だけが流れています。 「なんだ、ただの誤作動か……」 そう思って動画を閉じようとした瞬間、画面の端、クローゼットの扉が数ミリだけ、スッと動いた気がしました。
2本目の動画
気味が悪くなりつつも、私は次の動画を再生しました。 時刻は午後三時。やはり部屋には誰もいません。 しかし、今度ははっきりと異変が起きていました。 部屋の中央にあるテーブルの上に置いてあったマグカップが、まるで誰かに押されたかのように、ゆっくりと縁(ふち)まで移動し、床に落ちて割れたのです。 カメラはその様子を冷徹に映し出しています。まるで、誰かがそこにいて、私の帰りを待っているかのような……。
3本目の動画
動画が進むにつれ、その「何か」は大胆になっていきました。 午後六時。外は薄暗くなっています。 画面中央に、ぼんやりとした人影のようなものが現れました。 それは透き通るほど薄く、しかし、はっきりと「女性」の形をしていました。 彼女は、私がいつも座っているソファに腰掛け、テレビの消えた真っ暗な画面をじっと見つめています。 その横顔は、見間違えるはずもありません。亡くなった香織でした。 「香織……?」 思わず声が漏れました。彼女は動画の中で、時折、愛おしそうに私のクッションを撫でています。
しかし、次の動画を再生した時、私の指先は凍りつきました。
4本目の動画
時刻は午後八時。私が帰宅する直前の映像です。 香織の姿は、先ほどまでとは一変していました。 彼女は部屋の鏡の前に立ち、自分の顔を両手で激しくかきむしっていました。 動画からは、聞いたこともないような低い、獣のような唸り声が漏れ聞こえてきます。 鏡の中の彼女の目は、血走ったように赤く、憎悪に満ちていました。 彼女は突然、カメラ――つまり、私の方を向いて叫びました。
「なんで、あんただけ生きてるの」
音声はひどく歪んでいましたが、確かにそう聞こえました。 彼女は事故の直前、私に会いに来る途中でした。私が「仕事が終わらないから」と約束をキャンセルし、彼女が無理に雨の中を急いだ結果の事故でした。 彼女は私を恨んでいる。その事実が、冷たい氷の柱のように私の背筋を貫きました。
最後の動画
震える指で、最後の動画をクリックしました。 ファイル名は「Live_Record」。 再生ボタンを押すと、画面に映し出されたのは、たった今の私の部屋の光景でした。それは、三年間使っていなかった古いクラウドストレージを整理していた時のことでした。 容量がいっぱいになったという通知を受け、不要なファイルを削除しようとログインした私は、身に覚えのないフォルダを見つけました。
フォルダ名は「2022_08_31」。 あの日――私が当時の恋人、香織(かおり)を不慮の事故で亡くした日の日付でした。
中には、数本の動画ファイルが収められていました。 サムネイルはどれも真っ暗で、何が映っているのか判別できません。私は恐る恐る、一番古い日付のファイルを再生しました。
1本の目の動画
画面に映ったのは、私の部屋の定点カメラの映像でした。 日付は三年前のあの日。私は仕事に出ていて不在のはずです。 無人の部屋。ただ、静かにエアコンの送風音だけが流れています。 「なんだ、ただの誤作動か……」 そう思って動画を閉じようとした瞬間、画面の端、クローゼットの扉が数ミリだけ、スッと動いた気がしました。
2本目の動画
気味が悪くなりつつも、私は次の動画を再生しました。 時刻は午後三時。やはり部屋には誰もいません。 しかし、今度ははっきりと異変が起きていました。 部屋の中央にあるテーブルの上に置いてあったマグカップが、まるで誰かに押されたかのように、ゆっくりと縁(ふち)まで移動し、床に落ちて割れたのです。 カメラはその様子を冷徹に映し出しています。まるで、誰かがそこにいて、私の帰りを待っているかのような……。
3本目の動画
動画が進むにつれ、その「何か」は大胆になっていきました。 午後六時。外は薄暗くなっています。 画面中央に、ぼんやりとした人影のようなものが現れました。 それは透き通るほど薄く、しかし、はっきりと「女性」の形をしていました。 彼女は、私がいつも座っているソファに腰掛け、テレビの消えた真っ暗な画面をじっと見つめています。 その横顔は、見間違えるはずもありません。亡くなった香織でした。 「香織……?」 思わず声が漏れました。彼女は動画の中で、時折、愛おしそうに私のクッションを撫でています。
しかし、次の動画を再生した時、私の指先は凍りつきました。
4本目の動画
時刻は午後八時。私が帰宅する直前の映像です。 香織の姿は、先ほどまでとは一変していました。 彼女は部屋の鏡の前に立ち、自分の顔を両手で激しくかきむしっていました。 動画からは、聞いたこともないような低い、獣のような唸り声が漏れ聞こえてきます。 鏡の中の彼女の目は、血走ったように赤く、憎悪に満ちていました。 彼女は突然、カメラ――つまり、私の方を向いて叫びました。
「なんで、あんただけ生きてるの」
音声はひどく歪んでいましたが、確かにそう聞こえました。 彼女は事故の直前、私に会いに来る途中でした。私が「仕事が終わらないから」と約束をキャンセルし、彼女が無理に雨の中を急いだ結果の事故でした。 彼女は私を恨んでいる。その事実が、冷たい氷の柱のように私の背筋を貫きました。
最後の動画
震える指で、最後の動画をクリックしました。 ファイル名は「Live_Record」。 再生ボタンを押すと、画面に映し出されたのは、たった今の私の部屋の光景でした。それは、三年間使っていなかった古いクラウドストレージを整理していた時のことでした。 容量がいっぱいになったという通知を受け、不要なファイルを削除しようとログインした私は、身に覚えのないフォルダを見つけました。
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