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エターナル・パレード
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そのテーマパークの片隅に、ガイドマップにも載っていない古びたアトラクションがあった。名前は『人形の館』。色褪せた看板には、笑顔のピエロが描かれている。
「ねえ、ここ入ってみようよ。待ち時間ゼロだって」 彼氏の翔太が面白がって言った。私は少し気乗りしなかったが、彼の腕に引かれて中に入った。
ガタガタと揺れる二人乗りのトロッコに乗り込むと、ゆっくりと暗闇の中へと進んでいく。中はカビ臭く、冷んやりとした空気が漂っていた。
最初は、いかにも作り物めいたドレス姿の人形や、兵隊の人形が、ぎこちなく手を振るだけのチープな展示だった。 「なんだ、子供騙しじゃん。全然怖くないな」 翔太が笑い飛ばす。私もつられて笑った。「そうだね、ちょっと期待はずれ」
しかし、奥に進むにつれて、人形たちの様子が変わっていった。 ある部屋では、食卓を囲む人形たちの前に、本物の腐った食べ物が置かれていた。ハエがたかっているのがリアルすぎる。 また別の部屋では、ベッドに横たわる人形の胸が、微かに、しかし規則正しく上下しているように見えた。 「ねえ、翔太。あれ、息してない?」 私が小声で尋ねると、翔太は「まさか。機械の振動だよ」と気にも留めない。
そして、最後の大広間。そこは舞踏会の会場だった。 何十体もの人形がペアになって、優雅にワルツを踊っている。中央のシャンデリアの下、一際豪華な衣装を着た男女の人形が、スポットライトを浴びてくるくると回っていた。
その女性の人形と目が合った瞬間、私の心臓は凍りついた。 その人形は、涙を流していた。 ガラス玉のはずの目から、本物の涙が頬を伝い、床に落ちている。そして、その口元が微かに動いた。
「……た、す、け、て……」
声にならない声が、私の頭の中に直接響いてきた。 私はパニックになり、翔太の腕を掴んだ。 「翔太! ここ、おかしい! 降りよう!」
その時、ガタンッ! と大きな音を立ててトロッコが急停止した。安全バーがガッチリと固定され、動かない。 舞踏会の音楽がピタリと止み、静寂が訪れた。
ギギギ……と音を立てて、踊っていた全ての人形たちが一斉に首を回し、私たちの方を向いた。 その顔は、どれも恐怖と絶望に歪んでいた。そして、関節部分の衣装の隙間から、赤い肉と骨が見えていることに、私は気づいてしまった。
館内に、スピーカーからではなく、すぐ耳元で囁くような低い声が響いた。
「ようこそ。新しいキャストの到着を、ずっと待っていたんだ」
天井から無数のピアノ線がシュルシュルと降りてきて、私の手足に絡みついた。 「痛い! やめて!」 私が叫ぶと同時に、隣で翔太が悲鳴を上げた。見ると、彼の腕にも線が食い込み、肌が裂けて血が滲んでいる。
「君たちには、次の主役を演じてもらおう。最高の笑顔で、永遠に踊り続けるんだ」
私たちの体は、見えない力によって無理やり引き上げられた。関節がありえない方向に曲げられ、激痛が走る。 意識が遠のく中、最後に私が見たのは、入口から入ってきた次のトロッコに乗ったカップルの姿だった。
彼らは、新しく中央に配置された、血まみれのドレスを着て踊る「私」を見て、楽しそうに笑っていた。
「見て、あの人形! すごいリアルじゃない?」
「ねえ、ここ入ってみようよ。待ち時間ゼロだって」 彼氏の翔太が面白がって言った。私は少し気乗りしなかったが、彼の腕に引かれて中に入った。
ガタガタと揺れる二人乗りのトロッコに乗り込むと、ゆっくりと暗闇の中へと進んでいく。中はカビ臭く、冷んやりとした空気が漂っていた。
最初は、いかにも作り物めいたドレス姿の人形や、兵隊の人形が、ぎこちなく手を振るだけのチープな展示だった。 「なんだ、子供騙しじゃん。全然怖くないな」 翔太が笑い飛ばす。私もつられて笑った。「そうだね、ちょっと期待はずれ」
しかし、奥に進むにつれて、人形たちの様子が変わっていった。 ある部屋では、食卓を囲む人形たちの前に、本物の腐った食べ物が置かれていた。ハエがたかっているのがリアルすぎる。 また別の部屋では、ベッドに横たわる人形の胸が、微かに、しかし規則正しく上下しているように見えた。 「ねえ、翔太。あれ、息してない?」 私が小声で尋ねると、翔太は「まさか。機械の振動だよ」と気にも留めない。
そして、最後の大広間。そこは舞踏会の会場だった。 何十体もの人形がペアになって、優雅にワルツを踊っている。中央のシャンデリアの下、一際豪華な衣装を着た男女の人形が、スポットライトを浴びてくるくると回っていた。
その女性の人形と目が合った瞬間、私の心臓は凍りついた。 その人形は、涙を流していた。 ガラス玉のはずの目から、本物の涙が頬を伝い、床に落ちている。そして、その口元が微かに動いた。
「……た、す、け、て……」
声にならない声が、私の頭の中に直接響いてきた。 私はパニックになり、翔太の腕を掴んだ。 「翔太! ここ、おかしい! 降りよう!」
その時、ガタンッ! と大きな音を立ててトロッコが急停止した。安全バーがガッチリと固定され、動かない。 舞踏会の音楽がピタリと止み、静寂が訪れた。
ギギギ……と音を立てて、踊っていた全ての人形たちが一斉に首を回し、私たちの方を向いた。 その顔は、どれも恐怖と絶望に歪んでいた。そして、関節部分の衣装の隙間から、赤い肉と骨が見えていることに、私は気づいてしまった。
館内に、スピーカーからではなく、すぐ耳元で囁くような低い声が響いた。
「ようこそ。新しいキャストの到着を、ずっと待っていたんだ」
天井から無数のピアノ線がシュルシュルと降りてきて、私の手足に絡みついた。 「痛い! やめて!」 私が叫ぶと同時に、隣で翔太が悲鳴を上げた。見ると、彼の腕にも線が食い込み、肌が裂けて血が滲んでいる。
「君たちには、次の主役を演じてもらおう。最高の笑顔で、永遠に踊り続けるんだ」
私たちの体は、見えない力によって無理やり引き上げられた。関節がありえない方向に曲げられ、激痛が走る。 意識が遠のく中、最後に私が見たのは、入口から入ってきた次のトロッコに乗ったカップルの姿だった。
彼らは、新しく中央に配置された、血まみれのドレスを着て踊る「私」を見て、楽しそうに笑っていた。
「見て、あの人形! すごいリアルじゃない?」
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