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まわるもの。
しおりを挟む深夜二時。連日の雨で洗濯物が溜まり、私は仕方なく近所のコインランドリーに来ていた。
店内には私一人。雨音が屋根を叩く音と、乾燥機がゴーッと回る低い音だけが響いている。
私はベンチに座り、スマホをいじりながら時間が過ぎるのを待っていた。
ふと、耳障りな音が混じっていることに気づいた。
……ゴロン、ガン。……ゴロン、ガン。
回っている乾燥機のドラムの中で、何か重たくて硬いものが暴れているような音だ。
「小銭でも入れっぱなしだったかな?」
私は自分の使っている乾燥機――「4番」の機体へ近づき、ガラス越しに中を覗き込んだ。
洗濯物が激しく回転している。
その中に、一瞬だけ「黒い塊」が見えた気がした。
私の服に黒いものはないはずだ。
……ガンッ!
一度、その塊がガラス面に激しくぶつかった。
私は思わず「うわっ」と声を上げて後ずさった。
今、ぶつかったもの。それは明らかに「人の頭」に見えた。
濡れた長い髪、充血した目、半開きの口。
それが洗濯物と一緒に、ものすごい勢いで撹拌(かくはん)されている。
「う、嘘だろ……!?」
心臓が早鐘を打つ。幻覚か? 疲れすぎているのか?
しかし、音は続いている。ゴロン、ガン。
私は震える手で、乾燥機の「停止ボタン」を押そうとした。
その瞬間、ガラス越しに、中で回っている「それ」と目が合った。
それは、ニタリと笑い、口をパクパクと動かした。
『あ・け・て』
私は悲鳴を上げて、荷物もそのままに店を飛び出した。
雨の中を無我夢中で走り、自分のアパートに逃げ帰った。
鍵をかけ、チェーンをかけ、布団をかぶって震えた。
「あそこの店、もう絶対に行かない……服なんてどうでもいい……」
しばらくして、呼吸が整ってきた頃だった。
静まり返った部屋の中に、「あの音」が聞こえてきた。
……ウィーン……
モーターの回る音だ。
私の部屋の、洗面所の方から聞こえてくる。
私は一人暮らしだ。洗濯機なんて回していない。
恐る恐る、洗面所のドアを開けた。
私の全自動洗濯機が、勝手に動いている。
中は水で満たされ、激しく水流が渦巻いていた。
そして、その渦の中心に、あの「黒い塊」があった。
さっきの生首だ。
そいつは高速で回転しながら、私の方を向き、楽しそうに叫んだ。
「次は、脱水だねええええええ!!」
バチンッ! と音を立てて洗濯機の蓋がロックされた。
同時に、私の体が目に見えない力で引き寄せられた。
蓋の上ではなく、洗濯機の中へと。
視界が反転する。
冷たい水。洗剤の苦い味。そして、隣で回っている「それ」の笑顔。
「あ、が……っ!」
遠のく意識の中で、私は自分の体がねじ切れ、あのアパートの部屋で聞いていた音と同じ音を立てているのを聞いた。
……ゴロン、ガン。……ゴロン、ガン。
いかがでしたか。
日常的に使う洗濯機ですが、もし「中」と「外」が入れ替わってしまったら……と考えると、回る水流を見るのが少し怖くなるかもしれません。
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