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第11話 魔導師の評価 ★デューク SIDE
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ふむ、全属性で隠れスキル持ちか……人材としては悪く無いが、魔力量50だろう?カミル殿下の婚約者の噂は魔力量が極端に少ないという物しか無いし、すぐには判断出来かねるな。何せ他の召喚者は我が儘だと聞いている。王子達が甘やかすせいで、専属侍女達が参っているとニーナが言ってたからな。
魔導師団団長の私は、一般的には強面で眉間の皺が印象深く、初めて言葉を交わす時には誰しも汗を掻くと言われている。団長である私が舐められても困るから、そのまま放置しているのだが、そのせいか女性から近づいて来る事は少ない。
まぁ、嫌々ながらも引き受けてしまったものは仕方ない。我が儘でやる気の無い女だったら、3日間だけ適当に教えてから辞退すれば良い。そう心に決めて、翌日の昼食後、カミル殿下の執務室の扉をノックする。
「やぁ、デューク。待っていたよ」
カミル殿下が笑顔で迎えてくれた。補佐官では無く、カミル殿下が直接招き入れた事に不安を感じる。やはり何かあるのでは……?まぁ、今更引き戻せないが。
カミル殿下に促され、執務室の中へ足を進める。
「初めまして、魔導師団団長様!私、リオと申します!御指導、御鞭撻の程、よろしくお願いします!」
眩しい笑顔で挨拶をして来たこの女性がカミル殿下の婚約者なのだろう。今、この時点では素直そうだと感じた。見た目も細身で美しく、所作も貴族令嬢のようだ。他の召喚者には会った事が無いため、比較しようもないが。
「デュルギス王国魔導師団団長のデュークだ。早速だが、魔導師団の練習場に向かおうと思うが問題無いか」
「はい!特に何も持って行く必要は無いと聞いておりますので、大丈夫です」
ウキウキしているのが表情で分かるが、これから行う練習は何よりも大変だというのに暢気なものだと思いつつ、カミル殿下に頭を下げて執務室を退室した。
⭐︎⭐︎⭐︎
「ここが練習場だ。貴女様は全属性持ちだと聞いている。回復魔法以外は攻撃魔法が多くなる。部屋でやるには限界があるから、攻撃魔法を練習する時にはここを使うように。魔導師団団長として許可する」
「ありがとうございます!団長様!」
何の変哲もない練習場を、キラキラとした瞳でキョロキョロ見渡す殿下の婚約者殿は確かに魅力的だろう。殿下が甘くなるのも理解は出来る。行動は小動物系だな。魔法理論はある程度理解してると聞いているし、時間が限られてるのだからさっさと進めてしまおう。
「大気魔力を集める練習をしたいそうだな。取り敢えずやって見せるから、その後に質問してくれ」
「分かりました!」
両方の手の平を上に向けて揃え、意識を集中して魔力を集める。大気中の魔力は薄い青色なので、手の平いっぱいに薄い青色の魔力が溜まった。
「これが大気魔力……触っても大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……問題無い」
魔力を触りたいだと?これまで何十年も指導して来たが、他の者達は誰1人としてそんな事は言わなかったのだが……体内の魔力量が少ないからだろうか?ここまで高い密度の大気魔力を集めれば薄い青色だと分かるが、体内を巡る魔力は人によって違うから違和感があるのか?イヤ、そこまで魔力を察知する能力があるとは思えないな。察知しているなら、自分の魔力を感知する事も直ぐに出来るのだが……
私の手の平に手を伸ばした彼女は、薄い青色の魔力に指を入れる。その後すくうような仕草をした。
「空気と同じで感触はないのですね」
「そうだ。魔力がある者は体内を巡ってはいるが、その存在を、己の体の中にあると認めるところから始めるのだ」
コクコクと頷き、私を見上げる殿下の婚約者殿は楽しそうに目を輝かせている。この体内の魔力を認めるのが何気に難しく、大気中の魔力を集めるには膨大な集中力が必要になる。気軽に出来るものでは無いのだ。
「では、殿下の婚約者殿。次は私の手に触れてもらい、体内を巡る魔力を感知する練習をします。私の手からゆっくりと魔力を流すので、魔力を感じたと思ったら教えてください」
「はい、分かりました」
殿下の婚約者殿は真面目な顔つきで私の掌に細く白い手を乗せてきた。ドキッとしたが、無理矢理魔力の流れに集中する。そしてゆっくりと魔力を彼女の手に流していく。
「あ!分かりました!」
早過ぎる……本当に分かってるのだろうかと首を傾げるも、確かに流したタイミングで分かったと言ったよな?
「どのように感じますか?」
わざと先程より少し多めに魔力を流す。
「あ!今ドバッと来ました。さっきはスーッて入って来たように感じました」
素晴らしい魔力感知能力だ。普通ならひと月は感知出来るまでに掛かるというのに……
「そうだ。それが私の魔力だ。次は、私の魔力が婚約者殿の中を巡る回路を追いかけてみてくれ。婚約者殿の魔力は微量なので感知しづらいが、魔力が巡る回路は同じなのでご自分の魔力を探りやすくなるだろう」
「はい!分かりました!」
婚約者殿は体に意識を集中させた。凄い集中力だ。私の流している魔力にちゃんと反応出来ていると感じた。これなら婚約者殿の魔力が感じ取り難かったとしても、回路の場所さえ分かっていれば探すのも容易い。
「団長様、3周したと思うのですが、合ってますか?」
指先から放出した魔力が丁度私の指先に3周して戻って来たタイミングで質問される。間違い無く感知出来ているなんて……呆けそうになって慌てて声を出す。
「う、うむ。しっかり感知出来てるようだな。次は、ご自分の魔力を体内に巡らせるイメージを持って、しっかり感知出来るように練習してみようか」
「はい、やってみます」
婚約者殿は目を閉じ集中し始めた。分からなければ聞いてくるだろうと空を見上げて一息ついた。
「団長様、3周巡らせました」
「何っ!」
は、早過ぎる!自分で魔力をコントロールしなければ、こんなに早く3周も出来ないだろう!魔力に敏感な体質なのか?それとも集中力が半端ないのか……
考え込んでしまった私に、「団長様?」と控えめな声がかけられた。
「あ、あぁ、素晴らしいですね。ご自分で魔力を動かす感覚も掴めたようですし、駄目元で大気中の魔力を集める練習までして行かれますか?」
自分の言葉遣いがどんどん丁寧になっている事に気がつきハッとするが、婚約者殿は魔力を集める事に夢中のようでホッとする。
彼女は最初に私がやって見せた通り、掌を上に向けて両手を揃え、手をジッと見つめている。そんなに簡単に出来る事では無いと、長年魔道師団の団長を任されている自分は理解しているのだが、出来てしまうのでは?とも思ってしまっていた。それ程に彼女の能力、集中力は稀有なのだ。
「わわっ!」
ハッとして彼女の掌に目をやる。薄い青色の魔力が薄っすらと集まっていた。
おいおい、マジかよ……カミル殿下が自信満々でいらしたのは、彼女の能力や集中力を見抜いておられたのか?
それからはあっという間に手の平が魔力で満たされる。まだ初級の魔法も教えていないのだから、魔力は散らすしか無いのだが……
「ヒール!」
「なっ!」
彼女の周りをキラキラと魔力が降り注ぐ。初めての魔法がヒールなのも驚きだが、初級魔法も本の知識ならあると殿下が仰っていた。
確かに魔法は想像力と詠唱で使えるが、1発で成功するなんて聞いた事も無い!それもヒールにしたのは攻撃魔法は危ないと判断したからだろう。集中力も判断力も優れているのか……さすがはカミル殿下の婚約者殿だ。
「団長様!私、ちゃんと使えていましたか?」
怪我をしてないのだから、ヒールがちゃんと発動されたのか分からなかったのだろう。彼女はコテンと首を倒し、私を見上げていた。
「えぇ、ちゃんとヒールが発動していました。初級魔法は他にも覚えていらっしゃいますか?」
「はい、座学の方は全属性覚えています」
「では、あの的のある場所へ移動して、初級の攻撃魔法を使ってみますか?」
「はい!頑張ります!」
それから彼女はあっという間に手の平いっぱいの魔力を集め、全ての初級魔法を的に向かって放った。その全てが的に当たり、威力もスピードも魔道師団に入ったばかりの者達よりも素晴らしいものだった。
ただ、本人は気がついていないが、魔法の発動と詠唱のタイミングがズレている。恐らくイメージのみで魔法を使えるタイプだ。無詠唱の方が集中出来るのだろう。
「天才かよ……」
ボソッと呟いてハッとする。彼女は魔力を集める事に集中しており、呟きは拾われなかった様で安心する。
「婚約者殿、お待ちください。詠唱の必要は無さそうですが、詠唱せずに魔法を使えるか試して貰っても?」
「はい、やってみます」
詠唱するより早く魔法を発動出来ている。やはり詠唱が邪魔になるタイプだったか。魔道師は無詠唱で魔法を使う練習をする事で発動速度を上げる。
元から詠唱が必要無い『天才型』は確かにいるのだが、ここまで最初から的確に無詠唱で魔法を扱える人間は初めて見た。
「婚約者殿は無詠唱の方が扱いやすそうですね?今後は無詠唱で大丈夫ですよ」
「!!、その方が楽で助かります!教えてくださり、ありがとうございます!」
そして3時間が経過した。あっという間の3時間だった。全ての初級魔法を放ち終わるまでに1時間も掛からなかったため、2時間以上魔力を集めては放つを繰り返した彼女の魔力量は多少上がっているだろう。
「団長様、ありがとうございました!お約束の3時間が経ってしまいました……お仕事もお忙しい中、本当にありがとうございます」
深々と頭を下げる彼女と離れ難いと感じた。駄目だ、彼女はカミル殿下の婚約者。彼女の才能に惚れたのだと自分を納得させ、彼女の目を真っ直ぐに見る。
「こちらこそ、有意義な時間となりました。回復魔法の中級はご存知ですか?」
「いいえ、初級の本しか読んでおりませんので……」
初級すら本日中に使えるとは思っていなかっただろうから当たり前だが、明日には中級も練習出来そうだ。
「そうでしたか。それではカミル殿下に中級の魔導書を渡しておきますので、是非とも中級の光魔法である、疲労回復魔法を練習なさってください。部屋の中でも出来ますし、身体の疲れも取れますので、カミル殿下にかけて差し上げると喜ばれるかと」
「良いですね!ありがとうございます!本が手元に届きましたら練習してみますね!」
カミル殿下のお役に立てると聞いて嬉しかったのだろう、満面の笑顔で祈るように胸の前で手を組んでいる彼女は女神様に見えた。
「あの、団長様……」
「殿下の婚約者殿、私めの事はデュークと」
「はい、デューク様!私の事はリオと呼んでください」
「では、リオ殿。最後にリオ殿を鑑定してもよろしいでしょうか?魔力量が増えているならば、増えた量を把握しておけばザックリとですが見通しを立てられますので。ステータスを見られる事を嫌がる方もおられますので、一応お伺いを……」
こちらとしても、あまり見たいものでは無い。だが、これから成長する幅を見定める為にも必要だからな。
「あの、私も鑑定スキルを持っているのですが、自分で鑑定してみてもよろしいでしょうか?」
「あぁ!そうでしたね。鑑定スキルは魔導師団の団長になるために必須のスキルなのです。部下のステータスに誤魔化しがあると困りますので」
「なるほど……珍しいスキルなのですか?」
「あぁ……とても珍しい訳ではないですね。リオ殿の『カウンター』の方が滅多に見ません。騎士であれば喉から手が出るくらい欲しいスキルですよ。それに鑑定スキルは何でも鑑定出来る訳でも無いので……一概に鑑定スキルと言ってもピンキリでして」
「そうなんですか?鑑定スキルって全て同じでは無いのですね?私は何を鑑定出来るのでしょうか?」
「えっと……鑑定スキルの最上級は人の鑑定です。私の鑑定スキルがそうですね。ご自分を鑑定して見てください。出来なければ私がリオ殿を鑑定させていただければ、何をどこまで鑑定出来るのか分かりますよ」
「分かりました。スキルは『鑑定』と唱えれば良いのですか?」
「スキルの場合は心の中で『鑑定』と唱えてください。言葉にしても鑑定出来ません。鑑定したいと念じるイメージですね。慣れたら心の中で唱えるだけで発動させる事が出来ます」
リオ殿はコクリと頷くと、フッと顔を上げた。ま、まさか……ステータスボードが見えているのか?これはカミル殿下へ伝えて口外しないようにキツく言い聞かせなければ!
「り、リオ殿!良いですか、絶対に今の出来事を人前で話してはなりません!これからカミル殿下の元へ急いで向かいます!ほら、急いでください!」
慌ててリオ殿の手を引き、練習場を後にする。急いでも結果は変わらないのだが、私1人しか知らない事に何となく不安を感じてしまったのだ。ズンズンと進む私に顔を引き攣らせたリオ殿と会話するために防音膜を張った。
「デューク様!これは防音結界ですか?」
「凄いですね。詠唱もせずに張ったので、ほとんどの人は気が付かない筈なのですが……魔力の察知能力がとても高いのですね」
「私にはこの世界の普通が分からないので何とも言えませんが……それにしても、防音魔法は動いてる人に対しても張れるのですね!?」
「おぉ!良いところに目をつけられました!防音結界は部屋など停止してる時に使う、風の中級魔法です。今私が張ったのは防音膜。時と場合によって大きさを変える事も出来ます。風の上級魔法になりますので、リオ殿は中級の防音結界からの練習となります」
リオ殿は発想力もあり、機転も効きそうだ。新しい魔術を開発するのも魔導師団の務め。明日の練習も楽しみだ……って、私が楽しんでどうするんだ。自分がリオ殿に刺激を受けた事も殿下には言わねばなるまい。ここまで稀有な存在だとは……
「それと、リオ殿。先程の様子から察するに、ご自分を鑑定出来ましたね?人を鑑定出来た事は、カミル殿下以外の方には絶対に他言してはなりません。仲の良い専属侍女であってもです。これから先は分かりませんが、今の時点で言える事は、カミル殿下以外は信じてはならないと言う事です。私もリオ殿の鑑定は控えます。ですので、魔力量がどれくらい増えたかだけ、教えていただけますか?」
「デューク様……魔力量は2914まで増えたのですが、人の鑑定を出来ると危ないのですか?」
不安そうな面持ちで私を見上げられるが、魔力量の増加具合が58倍という事実に声が出ぬままカミル殿下の執務室に到着した。
魔導師団団長の私は、一般的には強面で眉間の皺が印象深く、初めて言葉を交わす時には誰しも汗を掻くと言われている。団長である私が舐められても困るから、そのまま放置しているのだが、そのせいか女性から近づいて来る事は少ない。
まぁ、嫌々ながらも引き受けてしまったものは仕方ない。我が儘でやる気の無い女だったら、3日間だけ適当に教えてから辞退すれば良い。そう心に決めて、翌日の昼食後、カミル殿下の執務室の扉をノックする。
「やぁ、デューク。待っていたよ」
カミル殿下が笑顔で迎えてくれた。補佐官では無く、カミル殿下が直接招き入れた事に不安を感じる。やはり何かあるのでは……?まぁ、今更引き戻せないが。
カミル殿下に促され、執務室の中へ足を進める。
「初めまして、魔導師団団長様!私、リオと申します!御指導、御鞭撻の程、よろしくお願いします!」
眩しい笑顔で挨拶をして来たこの女性がカミル殿下の婚約者なのだろう。今、この時点では素直そうだと感じた。見た目も細身で美しく、所作も貴族令嬢のようだ。他の召喚者には会った事が無いため、比較しようもないが。
「デュルギス王国魔導師団団長のデュークだ。早速だが、魔導師団の練習場に向かおうと思うが問題無いか」
「はい!特に何も持って行く必要は無いと聞いておりますので、大丈夫です」
ウキウキしているのが表情で分かるが、これから行う練習は何よりも大変だというのに暢気なものだと思いつつ、カミル殿下に頭を下げて執務室を退室した。
⭐︎⭐︎⭐︎
「ここが練習場だ。貴女様は全属性持ちだと聞いている。回復魔法以外は攻撃魔法が多くなる。部屋でやるには限界があるから、攻撃魔法を練習する時にはここを使うように。魔導師団団長として許可する」
「ありがとうございます!団長様!」
何の変哲もない練習場を、キラキラとした瞳でキョロキョロ見渡す殿下の婚約者殿は確かに魅力的だろう。殿下が甘くなるのも理解は出来る。行動は小動物系だな。魔法理論はある程度理解してると聞いているし、時間が限られてるのだからさっさと進めてしまおう。
「大気魔力を集める練習をしたいそうだな。取り敢えずやって見せるから、その後に質問してくれ」
「分かりました!」
両方の手の平を上に向けて揃え、意識を集中して魔力を集める。大気中の魔力は薄い青色なので、手の平いっぱいに薄い青色の魔力が溜まった。
「これが大気魔力……触っても大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……問題無い」
魔力を触りたいだと?これまで何十年も指導して来たが、他の者達は誰1人としてそんな事は言わなかったのだが……体内の魔力量が少ないからだろうか?ここまで高い密度の大気魔力を集めれば薄い青色だと分かるが、体内を巡る魔力は人によって違うから違和感があるのか?イヤ、そこまで魔力を察知する能力があるとは思えないな。察知しているなら、自分の魔力を感知する事も直ぐに出来るのだが……
私の手の平に手を伸ばした彼女は、薄い青色の魔力に指を入れる。その後すくうような仕草をした。
「空気と同じで感触はないのですね」
「そうだ。魔力がある者は体内を巡ってはいるが、その存在を、己の体の中にあると認めるところから始めるのだ」
コクコクと頷き、私を見上げる殿下の婚約者殿は楽しそうに目を輝かせている。この体内の魔力を認めるのが何気に難しく、大気中の魔力を集めるには膨大な集中力が必要になる。気軽に出来るものでは無いのだ。
「では、殿下の婚約者殿。次は私の手に触れてもらい、体内を巡る魔力を感知する練習をします。私の手からゆっくりと魔力を流すので、魔力を感じたと思ったら教えてください」
「はい、分かりました」
殿下の婚約者殿は真面目な顔つきで私の掌に細く白い手を乗せてきた。ドキッとしたが、無理矢理魔力の流れに集中する。そしてゆっくりと魔力を彼女の手に流していく。
「あ!分かりました!」
早過ぎる……本当に分かってるのだろうかと首を傾げるも、確かに流したタイミングで分かったと言ったよな?
「どのように感じますか?」
わざと先程より少し多めに魔力を流す。
「あ!今ドバッと来ました。さっきはスーッて入って来たように感じました」
素晴らしい魔力感知能力だ。普通ならひと月は感知出来るまでに掛かるというのに……
「そうだ。それが私の魔力だ。次は、私の魔力が婚約者殿の中を巡る回路を追いかけてみてくれ。婚約者殿の魔力は微量なので感知しづらいが、魔力が巡る回路は同じなのでご自分の魔力を探りやすくなるだろう」
「はい!分かりました!」
婚約者殿は体に意識を集中させた。凄い集中力だ。私の流している魔力にちゃんと反応出来ていると感じた。これなら婚約者殿の魔力が感じ取り難かったとしても、回路の場所さえ分かっていれば探すのも容易い。
「団長様、3周したと思うのですが、合ってますか?」
指先から放出した魔力が丁度私の指先に3周して戻って来たタイミングで質問される。間違い無く感知出来ているなんて……呆けそうになって慌てて声を出す。
「う、うむ。しっかり感知出来てるようだな。次は、ご自分の魔力を体内に巡らせるイメージを持って、しっかり感知出来るように練習してみようか」
「はい、やってみます」
婚約者殿は目を閉じ集中し始めた。分からなければ聞いてくるだろうと空を見上げて一息ついた。
「団長様、3周巡らせました」
「何っ!」
は、早過ぎる!自分で魔力をコントロールしなければ、こんなに早く3周も出来ないだろう!魔力に敏感な体質なのか?それとも集中力が半端ないのか……
考え込んでしまった私に、「団長様?」と控えめな声がかけられた。
「あ、あぁ、素晴らしいですね。ご自分で魔力を動かす感覚も掴めたようですし、駄目元で大気中の魔力を集める練習までして行かれますか?」
自分の言葉遣いがどんどん丁寧になっている事に気がつきハッとするが、婚約者殿は魔力を集める事に夢中のようでホッとする。
彼女は最初に私がやって見せた通り、掌を上に向けて両手を揃え、手をジッと見つめている。そんなに簡単に出来る事では無いと、長年魔道師団の団長を任されている自分は理解しているのだが、出来てしまうのでは?とも思ってしまっていた。それ程に彼女の能力、集中力は稀有なのだ。
「わわっ!」
ハッとして彼女の掌に目をやる。薄い青色の魔力が薄っすらと集まっていた。
おいおい、マジかよ……カミル殿下が自信満々でいらしたのは、彼女の能力や集中力を見抜いておられたのか?
それからはあっという間に手の平が魔力で満たされる。まだ初級の魔法も教えていないのだから、魔力は散らすしか無いのだが……
「ヒール!」
「なっ!」
彼女の周りをキラキラと魔力が降り注ぐ。初めての魔法がヒールなのも驚きだが、初級魔法も本の知識ならあると殿下が仰っていた。
確かに魔法は想像力と詠唱で使えるが、1発で成功するなんて聞いた事も無い!それもヒールにしたのは攻撃魔法は危ないと判断したからだろう。集中力も判断力も優れているのか……さすがはカミル殿下の婚約者殿だ。
「団長様!私、ちゃんと使えていましたか?」
怪我をしてないのだから、ヒールがちゃんと発動されたのか分からなかったのだろう。彼女はコテンと首を倒し、私を見上げていた。
「えぇ、ちゃんとヒールが発動していました。初級魔法は他にも覚えていらっしゃいますか?」
「はい、座学の方は全属性覚えています」
「では、あの的のある場所へ移動して、初級の攻撃魔法を使ってみますか?」
「はい!頑張ります!」
それから彼女はあっという間に手の平いっぱいの魔力を集め、全ての初級魔法を的に向かって放った。その全てが的に当たり、威力もスピードも魔道師団に入ったばかりの者達よりも素晴らしいものだった。
ただ、本人は気がついていないが、魔法の発動と詠唱のタイミングがズレている。恐らくイメージのみで魔法を使えるタイプだ。無詠唱の方が集中出来るのだろう。
「天才かよ……」
ボソッと呟いてハッとする。彼女は魔力を集める事に集中しており、呟きは拾われなかった様で安心する。
「婚約者殿、お待ちください。詠唱の必要は無さそうですが、詠唱せずに魔法を使えるか試して貰っても?」
「はい、やってみます」
詠唱するより早く魔法を発動出来ている。やはり詠唱が邪魔になるタイプだったか。魔道師は無詠唱で魔法を使う練習をする事で発動速度を上げる。
元から詠唱が必要無い『天才型』は確かにいるのだが、ここまで最初から的確に無詠唱で魔法を扱える人間は初めて見た。
「婚約者殿は無詠唱の方が扱いやすそうですね?今後は無詠唱で大丈夫ですよ」
「!!、その方が楽で助かります!教えてくださり、ありがとうございます!」
そして3時間が経過した。あっという間の3時間だった。全ての初級魔法を放ち終わるまでに1時間も掛からなかったため、2時間以上魔力を集めては放つを繰り返した彼女の魔力量は多少上がっているだろう。
「団長様、ありがとうございました!お約束の3時間が経ってしまいました……お仕事もお忙しい中、本当にありがとうございます」
深々と頭を下げる彼女と離れ難いと感じた。駄目だ、彼女はカミル殿下の婚約者。彼女の才能に惚れたのだと自分を納得させ、彼女の目を真っ直ぐに見る。
「こちらこそ、有意義な時間となりました。回復魔法の中級はご存知ですか?」
「いいえ、初級の本しか読んでおりませんので……」
初級すら本日中に使えるとは思っていなかっただろうから当たり前だが、明日には中級も練習出来そうだ。
「そうでしたか。それではカミル殿下に中級の魔導書を渡しておきますので、是非とも中級の光魔法である、疲労回復魔法を練習なさってください。部屋の中でも出来ますし、身体の疲れも取れますので、カミル殿下にかけて差し上げると喜ばれるかと」
「良いですね!ありがとうございます!本が手元に届きましたら練習してみますね!」
カミル殿下のお役に立てると聞いて嬉しかったのだろう、満面の笑顔で祈るように胸の前で手を組んでいる彼女は女神様に見えた。
「あの、団長様……」
「殿下の婚約者殿、私めの事はデュークと」
「はい、デューク様!私の事はリオと呼んでください」
「では、リオ殿。最後にリオ殿を鑑定してもよろしいでしょうか?魔力量が増えているならば、増えた量を把握しておけばザックリとですが見通しを立てられますので。ステータスを見られる事を嫌がる方もおられますので、一応お伺いを……」
こちらとしても、あまり見たいものでは無い。だが、これから成長する幅を見定める為にも必要だからな。
「あの、私も鑑定スキルを持っているのですが、自分で鑑定してみてもよろしいでしょうか?」
「あぁ!そうでしたね。鑑定スキルは魔導師団の団長になるために必須のスキルなのです。部下のステータスに誤魔化しがあると困りますので」
「なるほど……珍しいスキルなのですか?」
「あぁ……とても珍しい訳ではないですね。リオ殿の『カウンター』の方が滅多に見ません。騎士であれば喉から手が出るくらい欲しいスキルですよ。それに鑑定スキルは何でも鑑定出来る訳でも無いので……一概に鑑定スキルと言ってもピンキリでして」
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「えっと……鑑定スキルの最上級は人の鑑定です。私の鑑定スキルがそうですね。ご自分を鑑定して見てください。出来なければ私がリオ殿を鑑定させていただければ、何をどこまで鑑定出来るのか分かりますよ」
「分かりました。スキルは『鑑定』と唱えれば良いのですか?」
「スキルの場合は心の中で『鑑定』と唱えてください。言葉にしても鑑定出来ません。鑑定したいと念じるイメージですね。慣れたら心の中で唱えるだけで発動させる事が出来ます」
リオ殿はコクリと頷くと、フッと顔を上げた。ま、まさか……ステータスボードが見えているのか?これはカミル殿下へ伝えて口外しないようにキツく言い聞かせなければ!
「り、リオ殿!良いですか、絶対に今の出来事を人前で話してはなりません!これからカミル殿下の元へ急いで向かいます!ほら、急いでください!」
慌ててリオ殿の手を引き、練習場を後にする。急いでも結果は変わらないのだが、私1人しか知らない事に何となく不安を感じてしまったのだ。ズンズンと進む私に顔を引き攣らせたリオ殿と会話するために防音膜を張った。
「デューク様!これは防音結界ですか?」
「凄いですね。詠唱もせずに張ったので、ほとんどの人は気が付かない筈なのですが……魔力の察知能力がとても高いのですね」
「私にはこの世界の普通が分からないので何とも言えませんが……それにしても、防音魔法は動いてる人に対しても張れるのですね!?」
「おぉ!良いところに目をつけられました!防音結界は部屋など停止してる時に使う、風の中級魔法です。今私が張ったのは防音膜。時と場合によって大きさを変える事も出来ます。風の上級魔法になりますので、リオ殿は中級の防音結界からの練習となります」
リオ殿は発想力もあり、機転も効きそうだ。新しい魔術を開発するのも魔導師団の務め。明日の練習も楽しみだ……って、私が楽しんでどうするんだ。自分がリオ殿に刺激を受けた事も殿下には言わねばなるまい。ここまで稀有な存在だとは……
「それと、リオ殿。先程の様子から察するに、ご自分を鑑定出来ましたね?人を鑑定出来た事は、カミル殿下以外の方には絶対に他言してはなりません。仲の良い専属侍女であってもです。これから先は分かりませんが、今の時点で言える事は、カミル殿下以外は信じてはならないと言う事です。私もリオ殿の鑑定は控えます。ですので、魔力量がどれくらい増えたかだけ、教えていただけますか?」
「デューク様……魔力量は2914まで増えたのですが、人の鑑定を出来ると危ないのですか?」
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ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!
こはるんるん
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「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」
主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。
しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。
「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」
さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。
そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)
かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!
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