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第118話 魔物殲滅より疲れる出来事 ★ジャン SIDE
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帝国で起こるスタンピードの当日となった。これが無事に終わっても、スタンピードは後1回あるのだから気は抜けないはずなんだが、王国の助っ人が強力過ぎて負ける気がしないんだよな……
「せ、聖女様!もう一度、お手本を見せて頂けませんでしょうか?」
我が国の魔導師達は、王国から貸し出された『練習装置』に夢中だ。この装置を使っている彼女を見て、それでも挑もうと思える人間がいたなら、俺は心から尊敬するぞ……
「良いけど、魔法で?双剣で?」
「剣も扱えるのですか!?」
「えぇ、魔剣としても、普通の双剣としても扱えるわ」
「では、上級の最速で双剣のお手本を見せて頂けますかな?」
うわ……騎士団のトップ、総長である嫌味なオッサンと、硬派な近衛騎士の副団長が見学に来たらしい。カミル殿下の練習を見ていた時には一切関与して来なかったくせにな。まぁ、カミル殿下の剣術にはケチの付けようが無いからだろうけどね。
「アレは誰?」
カミル殿下が小声で俺に聞いて来られた。
「帝国騎士団のトップと近衛騎士の副団長です。副団長は硬派で、実力は素晴らしいと聞いております」
「ふぅん。まぁ、リオに直接的に何かしそうになったら、ちょっと手が出ちゃうかもだけど、そしたらごめんね?」
素晴らしい笑顔で謝って来られるのも怖いんだな……まぁ、ブレ無いのはいつもの事だから頷いておこう。
「カミル、ちょっと練習して来るわね!」
「あぁ、やり過ぎない様にね。ふふっ」
聖女様も、毎回ちゃんと婚約者としてお伺いを立てるんだよなぁ。だからこそ、カミル殿下も許可をなさるのだろう。殿下の目の届く範囲ならフォロー出来るしな。
「「「おぉ――――!!!」」」
始まったな。凄い歓声なのも、前回初めて見た時の衝撃を覚えているから気持ちは良く分かる。剣術の試合を観るより興奮したのは初めてだったからな。手に汗握る感覚は、何度見ても興奮出来てしまうんだよなぁ。
「なんなんだ?あの女は。化け物なのか?」
うわぁ、面倒な事になりそうだ。騎士団トップのオッサンが聖女様の悪口を言い始めたぞ。
「おい、聖女様に失礼だろう!」
庇っているのは魔導師団の団長であるテオドールか。
「女は黙って見てりゃ良いんだよ!」
「実力を認めない貴方には、絶対に聖女様は超えられませんね」
「何だと!?お前達魔導師は、王国に魔力で一度も勝てないんだから、口を挟むな!」
魔力の強さは仕方ない。何故だかは知らないが、生まれた瞬間に決まっていて変えられない優劣をとやかく言うのは酷いだろう。
「みっともないので辞めて貰えますかね?」
間に入ったのは近衛騎士の副団長で、魔導師団の副団長も前に出て来たな。元々、トップの2人は仲が悪い。その代わり、副団長達はお互いに上手く宥めてフォローして来たから仲が良いのだ。
「どうかなさったのですか?」
あー、聖女様までいらっしゃってしまった……
「聖女様、お気になさらずとも問題ありませんよ。あちらにお茶を用意致しますので、スタンピードが始まるまで、カミル殿下と休まれては如何でしょうか?」
「ありがとう、テオ。じゃあ、少し休憩して来るわね。カミル、お言葉に甘えて休みましょう?」
「そうだね、リオ。さっきお菓子を買って来たんだけど、それも一緒に食べよう?」
「まぁ!帝国のお菓子かしら?楽しみだわ」
相変わらず仲良く肩を並べて四阿に向かう2人を見送ると、犬猿の仲の2人が言い合っていた。面倒だからテオを連れて戻ろうかなぁ。
「皇太子殿下!殿下も何か仰ってくださいよ。帝国でのスタンピードは魔導師団が取り仕切ると言うのです!」
「あぁ、それは王国との取り決めでそうなったのだ。聖女様が上級魔法で殲滅なさるので、魔物が城下に降りない様に魔導師達が防御壁を張り巡らせるとな」
「大体何故、王国の聖女様が手伝いにいらっしゃるのですか?帝国の魔導師団と騎士団で協力すれば、魔物の数万匹程度は倒せるでしょう!何故わざわざ王国に借りを作る様な事をなさるのですか!」
「お前は前回のスタンピードを見ていなかったのか?それとも、あのでっぷりとしたヤツの仲間か?」
ビクッ!とオッサンの体が跳ねたのがハッキリ分かったのだが、これは黒と考えて良いのだろうか?
「な、何を仰っておられるのか存じ上げませんが……」
「マジかよ?お前、騎士団総長だろう?近衛達は大丈夫なのか?」
「大丈夫です、殿下。私が確認しておりますので」
幼馴染の元補佐官が後ろからこっそりと耳打ちして来る。カミル殿下の助言に従って、幼馴染の彼を側近にしたのが正解だった様だ。ある程度だが、自由に動ける権限も与えたからな。
「はぁ……カミル殿下達にみっともない姿を見せる事にならなくて良かったが、帝国はまだまだやる事が山積みだなぁ。おい、副団長……じゃマズいか?誰か、騎士団総長を捕らえて尋問しておいてくれ」
「殿下、こちらで手配致します」
側近の幼馴染が手際良く手配し始めたので、軽く頷いた。仕事の出来る人間を、急ぎ増やさなきゃ駄目だな。彼が居てくれるだけでも安心して任せられる。
「あぁ、任せた。帝国の膿を出す事から始めないとね。後は頼んだよ」
「御意」
「殿下、そろそろお時間です」
テオが気合の入った顔で近付いて来る。圧がちょっとウザいが、魔導師達には頑張って貰わなければならないからな。
「位置はズレて無いって~」
緊張感の走る中、のほほんとした声がする。ドリーとソラ殿が位置と数を教えてくれる事になっているのだ。精霊達には出て来る場所や、魔物の数も分かるらしい。信用ならない部下達に比べると、何倍も、何十倍も頼りになるよな。
「準備は良いかしら?」
「リオ~、今回は100万匹超えそうだって~」
「あら。じゃあ、容赦しない方が良さそうね?」
「リオ、手加減するつもりだったの?」
カミル殿下の頬が引き攣っている。
「あー、防御壁に余裕を持たせたくてね?アハハ……」
「今回はデューク達がサポートで来ているのだから、容赦しなくて大丈夫だからね?」
カミル殿下が有無を言わせない笑顔でニッコリと微笑んでいて、これまた怖いな……聖女様は平然としていらっしゃるし、聖女様の魔法を受けられるらしいデューク殿も只者では無いもんなぁ……
「はーい」
聖女様はペロッと舌を出して返事をしている。
「デューク、頼んだよ?」
「あぁ。リオ殿には上級じゃツマラナイんだろうけどなぁ。魔導師の数からすると、あのスピードじゃ、上級を受けるのが限界だろうからなぁ?」
「リオのスピードで殲滅出来なかったら、僕達では太刀打ち出来ないレベルって事になるからね。魔力量も強さも、リオに敵う人間なんて居ないのだから」
「そうだな。出来るだけ『狭間』近くに撃ち込んでもらって、結界には負担が掛からない様に頑張って貰えるだろうか?」
「えぇ、その予定だから大丈夫よ。今回は人災の可能性も考慮しておいた方が良いんじゃ無い?スタンピードばかりに集中してしまって、後ろを疎かにしないでね」
さすが聖女様だ。自分のやるべき事だけでは無く、周りもしっかり把握しておられる。見習わなければだな。
「は、はっ!了解致しました!騎士団副団長、聞いていたな?任せたぞ」
「はっ!かしこまりました!」
「リオ~、来るよ~」
「魔導師団、防御壁を張れ!」
「「「はっ!!!」」」
「準備出来ました!」
テオが準備完了の合図を出したから、魔物殲滅が始まった。
「『狭間』を刺激するわよー!集中してねー」
「「「はっ!!!」」」
打ち合わせでは、上級魔法が一瞬で100発程撃ち込まれると言っていたがマジで凄いな……これは上級の威力じゃ無いだろう?魔法は初級でも上級の威力を出せる可能性があると習ったが、上級で超級を超える威力を出せる事が判明した瞬間だな……
「連発、倍は耐えられると思われます」
こっちも凄いな。デューク殿が上級魔法を超えた威力の魔法を200発までなら耐えると言っている。
「オッケー!200行くわよー!」
うん、先程より激しく魔法が撃ち込まれたな。あれは……デューク殿もテオも、楽しんでるのか?2人とも良い笑顔で楽しそうに話しながら耐えてるぞ……
「ソラ、残りはどれくらいだろうか?」
「現時点で倒した数が40万匹、まだ100万匹は来る気配があるよ~」
「リオ、魔力残量と体力は?」
「全く減って無いわ。『練習装置』上級を3回程度よ」
「リオ~、普通は最速3回もやったら魔力尽きるよ~」
「え?そうなの?私ヤバくない?怪物扱いは嫌ね……」
「大丈夫だよ、リオ。僕はどんなリオでも愛してるよ」
「カミルはブレ無いね~。スタンピード中に口説かなくても良いとは思うけど~」
…………全く緊張感の無いスタンピードだな。いつも通りの穏やかな会話なのに魔物殲滅中とか常軌を逸してるよな……
⭐︎⭐︎⭐︎
「ソラ殿、どうでしょうか?」
あれから15分経過した。物凄い勢いで殲滅される魔物達が不憫に思えるレベルだ。
「今の沸きで最後だったみたいだね~。撃ち漏らしが無いか、騎士達で確認すれば終わりかな~」
「あ、私もやるわ」
「リオはもう、おしまいだよ。次回もあるんだから、今回の報告書とかを先に終わらせようね?」
「はぁーい……」
「ジャン、僕達は騎士達の確認が終わったら、予定通り報告に帰るからね」
「はい、ありがとうございました」
「今回のスタンピードは30分ぐらいだったかな?リオ、魔力と体力はどうだい?」
「ちょっと運動したかしら?ってぐらいしか体力も消耗していないわ。魔力は自然回復で満タンだし」
「聖女様!尊敬致しております!あぁ、今回も聖女様の勇姿あるお姿をこんなに近くで見られるなんて、私は幸せ者です!」
聖女様がお帰りになる前にどうしても話したかったのであろうテオが全力で彼女を褒め称えている。女神様や精霊よりも聖女様を信仰する者が増えそうだな……
「あら、今回も御協力ありがとうテオ。次回のスタンピードまでには、もう少し上級の威力を上げて来るわね」
「はい!我々も、もっと丈夫な結界を張れる様に精進致します!」
「ふふっ、あまり無理はしないでね?」
「はいっ!ありがとうございます!」
嬉しそうなテオと聖女様の間にスッとカミル殿下が入り込んだ。聖女様が絡むと狭量だと豪語しているだけあって、素早く近付いたな。
「さて、リオ。そろそろ帰ろうか」
テオを牽制しつつ、優しげな笑顔を聖女様に向ける姿は流石としか言えないな。聖女様には重いと感じられるレベルだろうが、こう言うタイプに好かれると逃れられないらしいからな。
「えぇ、帰りましょうか。皆さんお疲れ様でした。次回もよろしくお願いしますね」
それは我々のセリフなのだが……手伝って貰ってるのは帝国側だ。カミル殿下がいらっしゃるから心配していないが、守ってくれる方が居なかったら大変な人生になっただろうな。
「聖女様、本日はありがとうございました。初めて聖女様が魔法を使われている所を拝見させて頂きましたが、確かに聖女様が居なければ、殲滅するのは難しかったでしょう。時間が掛かれば城下へ魔物が氾濫する。民への被害が無かった事、心より感謝致します」
近衛騎士の副団長はしっかり現実を捉えられる人間らしいな。味方か敵か……味方に出来たらと思う。
「いえいえ。背後を守って頂き、ありがとうございました。近衛騎士の副団長様」
「覚えて頂けていましたか。私は近衛騎士副団長、エドワード=パーカーと申します。エドとお呼びください」
「ご丁寧にありがとうございます。私は王国の王太子カミル殿下の婚約者でリオ=カミキと申します。リオとお呼びくださいね」
「はっ!ありがたき幸せ。リオ様、次回もよろしくお願い致します」
聖女様と近衛騎士副団長のエドワードが仲良くなったと思って良いのだろうか?聖女様の後から殺気が漏れているが、エドワードは何処吹く風だ。
「カミル殿下、それではまたご連絡させて頂きます。本日はありがとうございました」
ちょっとハラハラしたのは内緒だ。俺は皇太子だが、基本的に長い物には巻かれるタイプだ。特にカミル殿下の様な絶対王者に立ち向かう様な愚か者では無い。なので、さっさと帰って貰う事にした。
「あぁ、ジャン。次回は6日後の8日だったね。前日に連絡を入れるから、最終確認をしよう。急ぎの時はドリーからソラに連絡してね。それじゃあまた」
「かしこまりました。それでは失礼します」
ソラ殿を抱いた聖女様と、聖女様の腰を抱いたカミル殿下がフッと転移していなくなった。ふぅ――――っと長い溜め息を吐いて、この後の書類仕事を思ってうんざりするのであった。
「せ、聖女様!もう一度、お手本を見せて頂けませんでしょうか?」
我が国の魔導師達は、王国から貸し出された『練習装置』に夢中だ。この装置を使っている彼女を見て、それでも挑もうと思える人間がいたなら、俺は心から尊敬するぞ……
「良いけど、魔法で?双剣で?」
「剣も扱えるのですか!?」
「えぇ、魔剣としても、普通の双剣としても扱えるわ」
「では、上級の最速で双剣のお手本を見せて頂けますかな?」
うわ……騎士団のトップ、総長である嫌味なオッサンと、硬派な近衛騎士の副団長が見学に来たらしい。カミル殿下の練習を見ていた時には一切関与して来なかったくせにな。まぁ、カミル殿下の剣術にはケチの付けようが無いからだろうけどね。
「アレは誰?」
カミル殿下が小声で俺に聞いて来られた。
「帝国騎士団のトップと近衛騎士の副団長です。副団長は硬派で、実力は素晴らしいと聞いております」
「ふぅん。まぁ、リオに直接的に何かしそうになったら、ちょっと手が出ちゃうかもだけど、そしたらごめんね?」
素晴らしい笑顔で謝って来られるのも怖いんだな……まぁ、ブレ無いのはいつもの事だから頷いておこう。
「カミル、ちょっと練習して来るわね!」
「あぁ、やり過ぎない様にね。ふふっ」
聖女様も、毎回ちゃんと婚約者としてお伺いを立てるんだよなぁ。だからこそ、カミル殿下も許可をなさるのだろう。殿下の目の届く範囲ならフォロー出来るしな。
「「「おぉ――――!!!」」」
始まったな。凄い歓声なのも、前回初めて見た時の衝撃を覚えているから気持ちは良く分かる。剣術の試合を観るより興奮したのは初めてだったからな。手に汗握る感覚は、何度見ても興奮出来てしまうんだよなぁ。
「なんなんだ?あの女は。化け物なのか?」
うわぁ、面倒な事になりそうだ。騎士団トップのオッサンが聖女様の悪口を言い始めたぞ。
「おい、聖女様に失礼だろう!」
庇っているのは魔導師団の団長であるテオドールか。
「女は黙って見てりゃ良いんだよ!」
「実力を認めない貴方には、絶対に聖女様は超えられませんね」
「何だと!?お前達魔導師は、王国に魔力で一度も勝てないんだから、口を挟むな!」
魔力の強さは仕方ない。何故だかは知らないが、生まれた瞬間に決まっていて変えられない優劣をとやかく言うのは酷いだろう。
「みっともないので辞めて貰えますかね?」
間に入ったのは近衛騎士の副団長で、魔導師団の副団長も前に出て来たな。元々、トップの2人は仲が悪い。その代わり、副団長達はお互いに上手く宥めてフォローして来たから仲が良いのだ。
「どうかなさったのですか?」
あー、聖女様までいらっしゃってしまった……
「聖女様、お気になさらずとも問題ありませんよ。あちらにお茶を用意致しますので、スタンピードが始まるまで、カミル殿下と休まれては如何でしょうか?」
「ありがとう、テオ。じゃあ、少し休憩して来るわね。カミル、お言葉に甘えて休みましょう?」
「そうだね、リオ。さっきお菓子を買って来たんだけど、それも一緒に食べよう?」
「まぁ!帝国のお菓子かしら?楽しみだわ」
相変わらず仲良く肩を並べて四阿に向かう2人を見送ると、犬猿の仲の2人が言い合っていた。面倒だからテオを連れて戻ろうかなぁ。
「皇太子殿下!殿下も何か仰ってくださいよ。帝国でのスタンピードは魔導師団が取り仕切ると言うのです!」
「あぁ、それは王国との取り決めでそうなったのだ。聖女様が上級魔法で殲滅なさるので、魔物が城下に降りない様に魔導師達が防御壁を張り巡らせるとな」
「大体何故、王国の聖女様が手伝いにいらっしゃるのですか?帝国の魔導師団と騎士団で協力すれば、魔物の数万匹程度は倒せるでしょう!何故わざわざ王国に借りを作る様な事をなさるのですか!」
「お前は前回のスタンピードを見ていなかったのか?それとも、あのでっぷりとしたヤツの仲間か?」
ビクッ!とオッサンの体が跳ねたのがハッキリ分かったのだが、これは黒と考えて良いのだろうか?
「な、何を仰っておられるのか存じ上げませんが……」
「マジかよ?お前、騎士団総長だろう?近衛達は大丈夫なのか?」
「大丈夫です、殿下。私が確認しておりますので」
幼馴染の元補佐官が後ろからこっそりと耳打ちして来る。カミル殿下の助言に従って、幼馴染の彼を側近にしたのが正解だった様だ。ある程度だが、自由に動ける権限も与えたからな。
「はぁ……カミル殿下達にみっともない姿を見せる事にならなくて良かったが、帝国はまだまだやる事が山積みだなぁ。おい、副団長……じゃマズいか?誰か、騎士団総長を捕らえて尋問しておいてくれ」
「殿下、こちらで手配致します」
側近の幼馴染が手際良く手配し始めたので、軽く頷いた。仕事の出来る人間を、急ぎ増やさなきゃ駄目だな。彼が居てくれるだけでも安心して任せられる。
「あぁ、任せた。帝国の膿を出す事から始めないとね。後は頼んだよ」
「御意」
「殿下、そろそろお時間です」
テオが気合の入った顔で近付いて来る。圧がちょっとウザいが、魔導師達には頑張って貰わなければならないからな。
「位置はズレて無いって~」
緊張感の走る中、のほほんとした声がする。ドリーとソラ殿が位置と数を教えてくれる事になっているのだ。精霊達には出て来る場所や、魔物の数も分かるらしい。信用ならない部下達に比べると、何倍も、何十倍も頼りになるよな。
「準備は良いかしら?」
「リオ~、今回は100万匹超えそうだって~」
「あら。じゃあ、容赦しない方が良さそうね?」
「リオ、手加減するつもりだったの?」
カミル殿下の頬が引き攣っている。
「あー、防御壁に余裕を持たせたくてね?アハハ……」
「今回はデューク達がサポートで来ているのだから、容赦しなくて大丈夫だからね?」
カミル殿下が有無を言わせない笑顔でニッコリと微笑んでいて、これまた怖いな……聖女様は平然としていらっしゃるし、聖女様の魔法を受けられるらしいデューク殿も只者では無いもんなぁ……
「はーい」
聖女様はペロッと舌を出して返事をしている。
「デューク、頼んだよ?」
「あぁ。リオ殿には上級じゃツマラナイんだろうけどなぁ。魔導師の数からすると、あのスピードじゃ、上級を受けるのが限界だろうからなぁ?」
「リオのスピードで殲滅出来なかったら、僕達では太刀打ち出来ないレベルって事になるからね。魔力量も強さも、リオに敵う人間なんて居ないのだから」
「そうだな。出来るだけ『狭間』近くに撃ち込んでもらって、結界には負担が掛からない様に頑張って貰えるだろうか?」
「えぇ、その予定だから大丈夫よ。今回は人災の可能性も考慮しておいた方が良いんじゃ無い?スタンピードばかりに集中してしまって、後ろを疎かにしないでね」
さすが聖女様だ。自分のやるべき事だけでは無く、周りもしっかり把握しておられる。見習わなければだな。
「は、はっ!了解致しました!騎士団副団長、聞いていたな?任せたぞ」
「はっ!かしこまりました!」
「リオ~、来るよ~」
「魔導師団、防御壁を張れ!」
「「「はっ!!!」」」
「準備出来ました!」
テオが準備完了の合図を出したから、魔物殲滅が始まった。
「『狭間』を刺激するわよー!集中してねー」
「「「はっ!!!」」」
打ち合わせでは、上級魔法が一瞬で100発程撃ち込まれると言っていたがマジで凄いな……これは上級の威力じゃ無いだろう?魔法は初級でも上級の威力を出せる可能性があると習ったが、上級で超級を超える威力を出せる事が判明した瞬間だな……
「連発、倍は耐えられると思われます」
こっちも凄いな。デューク殿が上級魔法を超えた威力の魔法を200発までなら耐えると言っている。
「オッケー!200行くわよー!」
うん、先程より激しく魔法が撃ち込まれたな。あれは……デューク殿もテオも、楽しんでるのか?2人とも良い笑顔で楽しそうに話しながら耐えてるぞ……
「ソラ、残りはどれくらいだろうか?」
「現時点で倒した数が40万匹、まだ100万匹は来る気配があるよ~」
「リオ、魔力残量と体力は?」
「全く減って無いわ。『練習装置』上級を3回程度よ」
「リオ~、普通は最速3回もやったら魔力尽きるよ~」
「え?そうなの?私ヤバくない?怪物扱いは嫌ね……」
「大丈夫だよ、リオ。僕はどんなリオでも愛してるよ」
「カミルはブレ無いね~。スタンピード中に口説かなくても良いとは思うけど~」
…………全く緊張感の無いスタンピードだな。いつも通りの穏やかな会話なのに魔物殲滅中とか常軌を逸してるよな……
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「ソラ殿、どうでしょうか?」
あれから15分経過した。物凄い勢いで殲滅される魔物達が不憫に思えるレベルだ。
「今の沸きで最後だったみたいだね~。撃ち漏らしが無いか、騎士達で確認すれば終わりかな~」
「あ、私もやるわ」
「リオはもう、おしまいだよ。次回もあるんだから、今回の報告書とかを先に終わらせようね?」
「はぁーい……」
「ジャン、僕達は騎士達の確認が終わったら、予定通り報告に帰るからね」
「はい、ありがとうございました」
「今回のスタンピードは30分ぐらいだったかな?リオ、魔力と体力はどうだい?」
「ちょっと運動したかしら?ってぐらいしか体力も消耗していないわ。魔力は自然回復で満タンだし」
「聖女様!尊敬致しております!あぁ、今回も聖女様の勇姿あるお姿をこんなに近くで見られるなんて、私は幸せ者です!」
聖女様がお帰りになる前にどうしても話したかったのであろうテオが全力で彼女を褒め称えている。女神様や精霊よりも聖女様を信仰する者が増えそうだな……
「あら、今回も御協力ありがとうテオ。次回のスタンピードまでには、もう少し上級の威力を上げて来るわね」
「はい!我々も、もっと丈夫な結界を張れる様に精進致します!」
「ふふっ、あまり無理はしないでね?」
「はいっ!ありがとうございます!」
嬉しそうなテオと聖女様の間にスッとカミル殿下が入り込んだ。聖女様が絡むと狭量だと豪語しているだけあって、素早く近付いたな。
「さて、リオ。そろそろ帰ろうか」
テオを牽制しつつ、優しげな笑顔を聖女様に向ける姿は流石としか言えないな。聖女様には重いと感じられるレベルだろうが、こう言うタイプに好かれると逃れられないらしいからな。
「えぇ、帰りましょうか。皆さんお疲れ様でした。次回もよろしくお願いしますね」
それは我々のセリフなのだが……手伝って貰ってるのは帝国側だ。カミル殿下がいらっしゃるから心配していないが、守ってくれる方が居なかったら大変な人生になっただろうな。
「聖女様、本日はありがとうございました。初めて聖女様が魔法を使われている所を拝見させて頂きましたが、確かに聖女様が居なければ、殲滅するのは難しかったでしょう。時間が掛かれば城下へ魔物が氾濫する。民への被害が無かった事、心より感謝致します」
近衛騎士の副団長はしっかり現実を捉えられる人間らしいな。味方か敵か……味方に出来たらと思う。
「いえいえ。背後を守って頂き、ありがとうございました。近衛騎士の副団長様」
「覚えて頂けていましたか。私は近衛騎士副団長、エドワード=パーカーと申します。エドとお呼びください」
「ご丁寧にありがとうございます。私は王国の王太子カミル殿下の婚約者でリオ=カミキと申します。リオとお呼びくださいね」
「はっ!ありがたき幸せ。リオ様、次回もよろしくお願い致します」
聖女様と近衛騎士副団長のエドワードが仲良くなったと思って良いのだろうか?聖女様の後から殺気が漏れているが、エドワードは何処吹く風だ。
「カミル殿下、それではまたご連絡させて頂きます。本日はありがとうございました」
ちょっとハラハラしたのは内緒だ。俺は皇太子だが、基本的に長い物には巻かれるタイプだ。特にカミル殿下の様な絶対王者に立ち向かう様な愚か者では無い。なので、さっさと帰って貰う事にした。
「あぁ、ジャン。次回は6日後の8日だったね。前日に連絡を入れるから、最終確認をしよう。急ぎの時はドリーからソラに連絡してね。それじゃあまた」
「かしこまりました。それでは失礼します」
ソラ殿を抱いた聖女様と、聖女様の腰を抱いたカミル殿下がフッと転移していなくなった。ふぅ――――っと長い溜め息を吐いて、この後の書類仕事を思ってうんざりするのであった。
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しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。
「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」
さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。
そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)
かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!
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