TRACKER

セラム

文字の大きさ
75 / 172
夏休み後編

第73話 - 覗き屋

しおりを挟む
 萌と志乃は夜の百道浜を散歩している。暑い日差しで汗が吹き出る昼間と打って変わって夜は海からの風も相まって涼しく心地良くなっている。

「風が気持ち良くて涼しいね~」

 萌が伸びをしながら志乃に声をかける。志乃も「そうね」と頷いて賛同する。

「心配? みずちゃんのこと」

 萌が浮かない表情をしている志乃に尋ね、それに対して志乃は「まぁね」と答える。

「志乃ちゃんのお父さん、お母さんにも伝えてみずちゃんのお姉ちゃんにも連絡はしたんでしょ?」
「うん」
「それにホテルにいる医療関係の人たちも異常はなかったって言ってたよ?」

 ホテルオーキには宿泊者の体調に異変が生じた場合に備えて医療従事者と医療従事アンドロイド数名が勤務している。瑞希が眠っている間に診察がされたが、身体に異常は見られなかったという。

「だけどあれ、とんでもなかったよ?」
「確かに……」

 2人の足は自然と昼間に瑞希から教えられた砂浜へと向かう。

「私たちが見といてあげないとね」

 萌はそう呟いて海の方に目をやる。すると何らか影が海から跳ね上がり、小さな波が立つ。

「志乃ちゃん、今の見た!? 何か大きいのが跳んだよ!」
「見間違いじゃない? 結構浅いでしょ、あの辺」
「いや、絶対何かいたよ!」

 萌はそう言うと海の方へと駆けて行く。志乃もやれやれと後ろに付いていく。

「ほら見て!」

 萌が指差した方を見てみると小さなイルカが弱々しく泳いでいた。絶滅危惧種であるイルカが間近で見られたことに2人は驚く。

「何でこんな所にイルカがいるの!?」

 志乃が不思議がりながら呟く。

「まだ小さいっぽいよね。仲間とはぐれちゃったのかな? あの子に直接聞いてみようよ」

 そう言うと萌はサンダルを砂浜の上に置き、ワンピースの裾を持ちながら子イルカの方へと近付いていく。志乃はジャージの裾を折るが海の深さを見て諦めそのまま海の中へと入って行く。

 萌は結局ワンピースを濡らしながら子イルカの側まで寄り、手にサイクスを宿しながら子イルカに触れる。

––––"動物と話す者アニマルズ・アズ・リーダーズ"

 萌は自身の超能力で子イルカに話しかける。

––––こんな所でどうしたの?
––––ママが……皆んなが捕まっちゃったんだ……。

 志乃は後ろで静観している。萌にしか子イルカの言葉は分からない為、「キュー」とイルカが鳴いている声しか聞こえない。

「(このイルカ……サイクスを宿してる!? イルカでしかもギフテッドって珍しいわね……)」

––––僕たちを捕まえようとする悪い人間たちがいるんだ。それに僕とママはこの不思議な光を持ってることで余計に狙われるんだって……。

 萌は子イルカの言う光がサイクスのことだと瞬時に理解する。

––––それでママは僕を庇って……。

 イルカの声が悲痛に満ちている。萌は子イルカをさすりながら落ち着かせる。

––––どうしてまだここにいるの? また悪い人たち来ちゃうよ? パパは?
––––パパはずっと前に捕まってしまったんだ……。残った仲間たちと一緒に別のグループに合流したんだけど、さっきすごく大きな優しい光に包まれて。それを探してたらここに辿り着いたんだ。

 萌は大きな光の正体が瑞希のサイクスだと確信する。子イルカは後ろを振り向くと

––––仲間たちが呼んでる。もう行かなきゃ。
––––うん。その方が安心だよ。

 萌が優しく子イルカに告げる。去り際に子イルカは萌の方を振り返る。

––––お姉ちゃん、ありがとう。また会いに来てもいい?
––––良いけど気を付けるんだよ。
––––うん。

 そう言い残し、子イルカは海深くへと帰っていく。

#####

「そうなんだ! 凄いね……! 痛っ」

 中本は右目の眼帯を取る。上から縦に傷が伸び、その瞳は白く濁っていて明らかに失明している。

「大丈夫ですか!?」

 その場でうずくまる中本に萌が寄り、同じように屈んで背中を支える。

「いやいや、ありがとう。時々目が痛んでしまうことがあるんだ。薬は飲んでいるんだけどね」

 志乃も心配そうにしながら萌と共に中本を海から離れさせる。

「いやー、迷惑をかけてごめんね。僕も今日は帰ろうかな」
「大丈夫ですか? 誰か人呼びますよ?」

 志乃の言葉に手を振りながら中本が答える。

「いやいや、大丈夫だよ。今は治まっているから。君たちも早く帰るんだよ」
「はーい」

 萌は元気良く返事をし、それに対して中本はニコッと笑うと2人に手を振りその場を後にする。

––––"覗き屋ピーク・ピーク"

 視力を失った右目を相手に晒し、それを相手が見ることで発動する。対象者の頭上にサイクスで創られた目が現れて意図的に解除するまで永久的に監視、録画する。
 中本から200m圏外に出ると瞳は自動的に閉ざされ活動を停止する。監視できる人数は7人までで、それを超えると古い順に監視対象から外される。

 中本は16歳で自ら目を傷つけて失明、その狂気さにサイクスが連動し、監視時間という時間的制約を失くさせた。
 既に右目に痛みなどないが、痛がる素振りを見せることで女性に近付き超能力にかけ、着替えなどの現場や痴態、弱みを録画することで脅迫、店で無理やり働かせるといった非人道的な行いを繰り返している。 

「(あの巨乳ちゃんの方には監視を付けといたぜ)」

 中本は萌の動物と話せるという超能力が役立つだろうという見立てとあわよくば彼女の日常を録画し、脅迫して自分たちのものにしようという魂胆で"覗き屋ピーク・ピーク"を発動させた。

「(ありゃあ将来楽しめるぞ)」

 下卑た笑みを浮かべながら中本は近藤たちのいる拠点へと向かう。

#####

「お嬢ちゃんたち、こんな夜にずぶ濡れになって何しとんじゃい」

 半袖のTシャツに薄手の紺色のジャケットを羽織り、ジーンズを膝下まで折り曲げている若々しい老爺が萌と志乃の後ろに立っていた。

「あ、いや、そこにイルカがいたから見に行ってて」

 志乃は突然声をかけられて驚きながら答える。

「ほう、あんな浅い所に……。子イルカかのー?」

 老人は目を細めて遠くの海を眺めている。

「おじいちゃん、オシャレだね。てか若い!」

 萌は明るい声で老人に話しかける。老人は「そうか?」と言いながら自分の服装を見ている。

「おじいちゃんは何でここに来たの?」
「ん? まぁ近くに来たからの。昔、孫とよくここに来とったから懐かしくての」
「みずちゃんもお祖父ちゃんに教えてもらったって言ってたよね」
「うん。そう言ってたね」

 老人はチラっと2人の方に目をやると尋ねた。

「お前たちどこから来たんだい?」
「東京から皆んなで旅行に来たの! 志乃ちゃんあの今度オープンするホテルの娘さんなんだよ!」

 萌がホテルオーキの方を指差し、そちらの方に老人は目をやり「なるほどな」と呟いた。

「親父さんに明日か明後日かに来るって伝えとってくれ。吉塚仁と言えば分かるはずじゃ。お前さんたちもとっとと帰りーよ」

 そう言うと老人は後ろ向き、2人に手を振りながらゆっくりと歩き始めた。

「どこかで聞いた名前だなぁ……」

 萌が呟いた後、2人は同時に「あっ!」と声を発し、急いで老人の方を向くと老人は既に姿を消していた。
                                                                                                                                           


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...