TRACKER

セラム

文字の大きさ
76 / 172
夏休み後編

第74話 - 皆んなやっとるけん

しおりを挟む
「ほう、動物と話せるっていうのは役に立ちそうやな」

 近藤は中本の話を聞いて頷き、中本はニヤリと笑みを浮かべる。そこに皆藤が口を挟む。

「近藤、ガキで旅行客ってお前が言ってた条件に合致しねーか?」
「何の話だ?」

 皆藤は中本に先ほどの話を順を追って説明した。

「なるほどな。そういうとんでもないサイクス量は2人から感じなかったけどな。後もう1つ面白い話があってよ」
「勿体ぶってねーで最初に全部話せよ」
「お前が話を遮ってきたんだろうがよ」

 中本は皆藤の一言に対して軽く悪態をついた後に近藤の方に向き直る。

「よくわからんジジィが2人から離れた後に少し様子を見てたんだが、あいつらホテルオーキの方に戻って行ったんだ。あのホテルまだオープンしてねーよな?」

 周りの部下たちが「確か10月にオープンっすね」と話している。

「ってことはホテルオーキの関係者ってわけだ。誘拐したらついでに金だって要求出来るはずだぜ」

 それを聞いて後ろの部下たちも「おぉ!」「ラッキー!」と歓声を上げている。それを右手で制しながら近藤が話し始める。

「ホテルオーキは本拠地東京のはずだ。ってことはそのガキ共は東京から来た可能性が高い。そいつらの会話からしてまだ何人か居そうなんよな?」

 中本が頷いたのを確認して近藤は再び話し始める。

「その中に昼間のサイクスの持ち主がいるかもしれねーってことだ。まぁ俺の見立てではまだまだ未熟な超能力者のはずやから警戒を怠らなければ問題ないだろうがな」

 近藤の冷静さに部下たちは感嘆の声を上げている。

「それじゃあ、まずはその動物と話せるっていう巨乳の小っこい方は最優先で捕まえよう。そしてもう1人適当に捕まえるけん」

 近藤の言葉に対して中本が反応する。

「もう1人捕まえんのか? 用心するんじゃねーのかよ」

 近藤はイルカのギフテッドが入れられている水槽の前まで歩き、片手をつきながら話し始める。

「その動物と話せる超能力者、動物との会話内容は他人と共有出来ると?」

 近藤の問いかけに対して答えられる者はいない。

「答えは"分からない"や。出来るにしても誘拐した俺たちに共有すると思うか? 答えはノーやろ? その間にこのイルカとそのガキが何か企んで罠に誘導されたらどうする? そんなの確認しようがないやろ?」

 周りの者たちも「そうか……」と考え込む。

「そこでもう1人誘拐してそいつを痛めつけるとその巨乳ちゃんはどう思うんやろうなぁ? お友達が傷付いてても放っておける程の精神力がガキに備わってると思うか?」

 中本は近藤の狡猾さにゴクリと唾を飲み込む。

「たださっき言ったようにあの大きなサイクスを持ってる奴を捕まえることは避けよう。サイクスを持ってる連中は注意して見らんとよ? 非超能力者は絶対に指示に従い、勝手に行動を起こさないことやんね。誘拐後はホテルオーキも直ぐに対応してくると思うけん、俺たちも急がんとやね。拠点を百道浜の近くに移さんとやね。明日から早速動くけん、皆んなよろしく」

 近藤はそう言うと部屋から出て行く。その後を皆藤と中本が追って声をかける。

「近藤、やっぱ賢いなーお前」

 皆藤が感心している。

「最近、一目置かれるようになったとは言え、俺たちはまだまだ小さい。それに今後は別の勢力や警察からも狙われる。賢く立ち回っていかなきゃ生き残っていけんよ?」
「それにしても高校生くらいのガキに対してエグいな~」

 中本はニヤつきながら近藤に話しかける。

「言うてね、皆んなやっとるけん」

 近藤の一言に対して皆藤と中本は下衆な笑い声を上げ、それに近藤も追随して大声で笑う。3人の笑い声は壁を反響し不気味に深夜の街を包み込んだ。

#####

「……それで何で私が福岡に朝から駆り出されてるのよ!」

 翌日8月18日午前9時を回った頃、サマーベレー帽を被り、白いカットソーにえんじ色のパンツを履いた徳田花とキャップを被り、黒い無地のTシャツにダメージジーンズを履いた霧島和人が福岡県第2地区FDGAからPsychicサイキック・ Air-Carエアー・カーを自動運転で発車させて、グループ通話を行う。

「妹が少し心配なもので」

 愛香が申し訳なさそうに返す。花はその様子を見て少し溜め息をつく。

「大丈夫よ、愛香。花さん、みずのこと大好きなんだから。仕事が忙しい中、瑞希ちゃんのサイクスや体術の訓練に付きっきりだし」

 隣で玲奈が首を突っ込む。

「あんたは何で来ないのよ」
「私は愛香が超能力で得た情報を皆んなに共有しないといけないので」

 玲奈は冷静に返答する。

 前日に瑞希のサイクスの暴発したという知らせを受けて花は内務省からの命令で見守り役兼監視として福岡へと向かうよう命じられた。花は進行中の任務が前日に落ち着いたこともあってそれを切り上げて休む間も無く行動している。
 また、福岡県警からここ最近、海洋生物を違法に捕獲する集団についての報告を受けており、その取り締まりの協力目的でも派遣された。
 
 "TRACKERS"への加入が内定している和人は夏休みに入ってから警視庁の捜査に参加しており、花のサポート役として派遣された。

「ホテルオーキにも話を通して最高VIP部屋にしたんだから良いだろ」

 捜査一課長の藤村がタバコに火を点けながら話す。

「課長が行けば少なくとも問題になってる集団は半日もあれば壊滅でしょうに」
「バーカ、俺はそう簡単に離れられないの」

 現実世界で藤村は口からタバコの煙を吐き出す。東京は朝から風が殆どない真夏日。吐き出された煙は真っ直ぐに上に立ち上り、陽射しの中で細かな粒となって広がっていく。

「まぁとにかく頼んだぜ。お前のことは信頼してんだからよ」

 藤村はそう言い残すと灰皿にタバコを押し付けて火を消し、通信を断った。

#####

 10時が過ぎ、花と和人はそれぞれ42階と41階に荷物を置いた後にロビーで合流する。ホテルはオープンする前である為、人は少なく数人のアンドロイドと数体のロボットが稼働しているのみである。

 数人の招待客が朝食ビュッフェが用意されているレストランへ向かい、談笑している声が聞こえる。その中から特に明るい少女たちの声が聞こえてくる。

 花はその声を聞きつけて少し呆れた様子で腰に手を当てながら和人に合図を送り、レストランを指差す。和人は頷き、2人はレストランへと向かった。

 テレビでも何度か見たことがある実業家や高級ブランドを身に付けた企業の重役たちが各テーブルでコーヒーや綺麗に盛り付けた朝食を摂る中で明らかに場違いな少女たちが騒いでいる。その中で萌がいち早く気付き、

「あれ!? 徳田先生!?」

 と驚きの声を上げ、瑞希も2人に視線を向けて同じく驚きの声を上げる。

「和人君もいる!」

 その音量に驚いた周囲の者たちはその声が女子高生たちから発せられたものだと気付くと少し微笑み、花と和人は少し恥ずかしそうに周囲に頭を下げるのだった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...