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ミニ番外編
ルシアンの帰還
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三年前から最北の国境警備に当たっていたルシアン・ワイズが突如ミシェルと彼女に嫌がらせをしていた子爵令息たちの前に現れた。
「……ルシアン様?え?いつ王都に戻られたのですか?」
驚きの表情を隠せない様子でルシアンの方へと向き直るミシェルに、ルシアンは僅かに口の端が上がる程度の軽い笑みを返す。
「さっき王都へ着いたばかりなんだ」
そう端的に告げたルシアンの詰襟の徽章を見て、ミシェルは理解する。
次にルシアンは子爵令息たちへと視線を向けた。
ただ視線を向けられただけなのに令息たちは肩をビクリと震わせる。
そんな彼らと積まれた箱を一瞥し、ルシアンが問い質す。
「その積荷を運ぶのは上からの指示か?」
「い、いえ、あのそのっ……」
首肯できるはずもない。
ミシェルに対する嫌がらせをするための小細工なのだから。
しかもいくら短慮な彼らでもルシアンの襟元の徽章を見れば直ぐにわかる、目の前の男が自分たちよりも遥かに上官であることを。
ミシェルも一目見て理解した。
北方騎士団へ赴く前の彼の隊服の詰襟にその徽章は付いてはいなかったのだから。
ルシアンは北方騎士団での任期を終え、次に近衛の中隊長クラスに昇格し戻ってきたのだと。しかも王家の専属護衛騎士を拝命したらしい。
詰襟の左右に光る二種種類の徽章がそれを雄弁に物語っていた。
そんな上官である年長者に問われ、疚しさ満載の令息たちには答えようはない。
ルシアンは父親譲りの、温度を感じさせない声色で令息たちに言う。
「騎士たちには任務に関わりのない力仕事や雑用をさせてはならないと団規に記されている。剣を握る大切な手指を傷めないためにだ。現場では小さな傷さえ違和感へ繋がり、それが命の危険に陥る可能性がある。そのために団は充当な使用人を雇っているはずだが、団則を理解していないのか?」
団規……王国騎士団規範、平素は団則と呼ばれている云わば騎士の掟を理解していないと上から判断されれば、厳重注意という名の罰則が待っている。
それを恐れた令息たちが慌てて否定した。
「も、もちろん団則は全部頭に入っておりますっ!こ、これはたまたまっ……」
「たまたま?では彼女に運ばせる必要はないな?」
「は、はいっ……!」
令息たちが背筋を伸ばしカクカクと頷く。
それを見てルシアンが積荷の方へと近付いた。
「しかし、お前たちにはこの積荷を片付ける必要がある。まさか、この期に及んで自分たちがこの積荷とは無関係であるとは言わないだろうな?」
「ヒッ……は、はい……」
睨まれているわけでもないのに冷たく刺さる怜悧な眼差しを向けられ、令息たちが竦み上がる。
「では直ちにこの積荷を片付けろ。もちろん自分たちでだ。この件だけは、従者や下男たち使用人に運ばせる事を禁ずる、いいな?」
「は、はぃぃ……」
だんだんと尻窄みとなる令息たちの返事を聞き、ルシアンは徐ろに箱を持ち上げた。
令息たちがミシェルに運ばせようとした大きな石がゴロゴロ詰まった激重な箱だ。
それをいとも簡単に持ち上げたルシアンを、ミシェルと令息たちは驚愕の眼差しで見つめる。
「では早速、この箱から片付けろ」
ルシアンはそう言って、件の箱を嫌がらせの主犯格である子爵令息へと手渡した。
「え、あ、うわあっ!」
上官から手渡された箱を受け取らないわけにはいかず、その箱を手にした令息が箱の重さに驚きの声を上げた。
なんとか箱を落とすという失態だけは免れたようだが、あまりの重たさに腕と足がぷるぷると震えている。
今ここにかの姐御がいれば、腕をツンツンされ秘技・千年殺しをされていただろう。
箱を持つのが精一杯で子爵令息はそこから一歩も動けない。
仲間の令息たちがオロオロと狼狽えるのを視界の端に捉え、ルシアンはミシェルに告げた。
「行こう、ミシェル」
「は、はい」
ルシアンに移動を促され、ミシェルは返事をして素直に従った。
ミシェルを伴い歩きながらルシアンは思う。
今日のところはこの位で済ませるが、もし再びミシェルに嫌がらせなどしようものなら騎士団で彼らの居場所はない、と。
別の場所へと移動しながらミシェルがルシアンに尋ねる。
「近衛に復帰されたのですね」
ミシェルの言葉に、今度は柔らかな笑みを浮かべてルシアンが頷いた。
「うん。元々三年の任期と決まっていたからね。北の地で多くを学び、戻ってきたよ」
甥っ子であるルシアンを激励して送り出した後、寂しくて密かに目を潤ませる父ファビアンの姿が想像できる。
ミシェルはそんな可愛い父を思い、心の中で微笑む。
「そして、シルヴェスト殿下の専属護衛騎士を拝命したよ」
「まぁ、そうなんですね。適任だと思います!」
デイビッドとポレットの第一子シルヴェスト。
王位継承権第三位であり、次々々代の国王となる甥っ子の身辺の警護と教育係の一人として側に置かれる事となったのだ。
ゆくゆくは外戚としてシルヴェストの御代を支える事も踏まえての人事であろう。
身内贔屓とやっかむ声も上がるだろう。
だが王家の意向としては、とくにデイビッドは信の置ける人間にしか妻子を任せられないと考えている。
そしてそんな些細なやっかみなど、ワイズ家なら実力で説き伏せるだろうとも考え、ルシアンをシルヴェストの側へと配置したのだ。
無論、近衛の長であるフェリックスもそれを認めている。
ミシェルは隣に並び歩くルシアンをそっと見上げた。
以前に会った時よりも体格が逞しくなっている。
忍耐強く、しかし一度抜剣すればどの騎士団に在する騎士たちよりも荒々しい北の騎士たちに揉まれて身も心もひと回り大きくなって戻ってきたようだ。
背は元々高かったが、痩躯に見えて隊服の中は筋骨隆々となっているであろうルシアンと並ぶと自分なんて女ゴリラの称号を返上しなければならない……。
久々に会うルシアンに気恥しさを感じ、そんなとりとめもない事を考えるミシェルがふいにはっとする。
大切な事を忘れていた。
ミシェルはふいに立ち止まり、ルシアンを呼ぶ。
「ルシアン様」
名を呼ばれたルシアンも立ち止まり、「ん?」と言ってミシェルの方へと向き直った。
銀の髪が風にさらさらとたなびく。
ミシェルは自分の頬がほんのり熱を帯びるのを感じながら笑みを浮かべ、そしてルシアンへと告げる。
「ルシアン様、おかえりなさい」
ミシェルから掛けられたその言葉に、ルシアンは破顔して頷いた。
「うん、ただいま。ミシェル」
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆
ω·)ボソッ
秘技・千年殺しはNARUT●に出てくる技名だよ♡
「……ルシアン様?え?いつ王都に戻られたのですか?」
驚きの表情を隠せない様子でルシアンの方へと向き直るミシェルに、ルシアンは僅かに口の端が上がる程度の軽い笑みを返す。
「さっき王都へ着いたばかりなんだ」
そう端的に告げたルシアンの詰襟の徽章を見て、ミシェルは理解する。
次にルシアンは子爵令息たちへと視線を向けた。
ただ視線を向けられただけなのに令息たちは肩をビクリと震わせる。
そんな彼らと積まれた箱を一瞥し、ルシアンが問い質す。
「その積荷を運ぶのは上からの指示か?」
「い、いえ、あのそのっ……」
首肯できるはずもない。
ミシェルに対する嫌がらせをするための小細工なのだから。
しかもいくら短慮な彼らでもルシアンの襟元の徽章を見れば直ぐにわかる、目の前の男が自分たちよりも遥かに上官であることを。
ミシェルも一目見て理解した。
北方騎士団へ赴く前の彼の隊服の詰襟にその徽章は付いてはいなかったのだから。
ルシアンは北方騎士団での任期を終え、次に近衛の中隊長クラスに昇格し戻ってきたのだと。しかも王家の専属護衛騎士を拝命したらしい。
詰襟の左右に光る二種種類の徽章がそれを雄弁に物語っていた。
そんな上官である年長者に問われ、疚しさ満載の令息たちには答えようはない。
ルシアンは父親譲りの、温度を感じさせない声色で令息たちに言う。
「騎士たちには任務に関わりのない力仕事や雑用をさせてはならないと団規に記されている。剣を握る大切な手指を傷めないためにだ。現場では小さな傷さえ違和感へ繋がり、それが命の危険に陥る可能性がある。そのために団は充当な使用人を雇っているはずだが、団則を理解していないのか?」
団規……王国騎士団規範、平素は団則と呼ばれている云わば騎士の掟を理解していないと上から判断されれば、厳重注意という名の罰則が待っている。
それを恐れた令息たちが慌てて否定した。
「も、もちろん団則は全部頭に入っておりますっ!こ、これはたまたまっ……」
「たまたま?では彼女に運ばせる必要はないな?」
「は、はいっ……!」
令息たちが背筋を伸ばしカクカクと頷く。
それを見てルシアンが積荷の方へと近付いた。
「しかし、お前たちにはこの積荷を片付ける必要がある。まさか、この期に及んで自分たちがこの積荷とは無関係であるとは言わないだろうな?」
「ヒッ……は、はい……」
睨まれているわけでもないのに冷たく刺さる怜悧な眼差しを向けられ、令息たちが竦み上がる。
「では直ちにこの積荷を片付けろ。もちろん自分たちでだ。この件だけは、従者や下男たち使用人に運ばせる事を禁ずる、いいな?」
「は、はぃぃ……」
だんだんと尻窄みとなる令息たちの返事を聞き、ルシアンは徐ろに箱を持ち上げた。
令息たちがミシェルに運ばせようとした大きな石がゴロゴロ詰まった激重な箱だ。
それをいとも簡単に持ち上げたルシアンを、ミシェルと令息たちは驚愕の眼差しで見つめる。
「では早速、この箱から片付けろ」
ルシアンはそう言って、件の箱を嫌がらせの主犯格である子爵令息へと手渡した。
「え、あ、うわあっ!」
上官から手渡された箱を受け取らないわけにはいかず、その箱を手にした令息が箱の重さに驚きの声を上げた。
なんとか箱を落とすという失態だけは免れたようだが、あまりの重たさに腕と足がぷるぷると震えている。
今ここにかの姐御がいれば、腕をツンツンされ秘技・千年殺しをされていただろう。
箱を持つのが精一杯で子爵令息はそこから一歩も動けない。
仲間の令息たちがオロオロと狼狽えるのを視界の端に捉え、ルシアンはミシェルに告げた。
「行こう、ミシェル」
「は、はい」
ルシアンに移動を促され、ミシェルは返事をして素直に従った。
ミシェルを伴い歩きながらルシアンは思う。
今日のところはこの位で済ませるが、もし再びミシェルに嫌がらせなどしようものなら騎士団で彼らの居場所はない、と。
別の場所へと移動しながらミシェルがルシアンに尋ねる。
「近衛に復帰されたのですね」
ミシェルの言葉に、今度は柔らかな笑みを浮かべてルシアンが頷いた。
「うん。元々三年の任期と決まっていたからね。北の地で多くを学び、戻ってきたよ」
甥っ子であるルシアンを激励して送り出した後、寂しくて密かに目を潤ませる父ファビアンの姿が想像できる。
ミシェルはそんな可愛い父を思い、心の中で微笑む。
「そして、シルヴェスト殿下の専属護衛騎士を拝命したよ」
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王位継承権第三位であり、次々々代の国王となる甥っ子の身辺の警護と教育係の一人として側に置かれる事となったのだ。
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身内贔屓とやっかむ声も上がるだろう。
だが王家の意向としては、とくにデイビッドは信の置ける人間にしか妻子を任せられないと考えている。
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無論、近衛の長であるフェリックスもそれを認めている。
ミシェルは隣に並び歩くルシアンをそっと見上げた。
以前に会った時よりも体格が逞しくなっている。
忍耐強く、しかし一度抜剣すればどの騎士団に在する騎士たちよりも荒々しい北の騎士たちに揉まれて身も心もひと回り大きくなって戻ってきたようだ。
背は元々高かったが、痩躯に見えて隊服の中は筋骨隆々となっているであろうルシアンと並ぶと自分なんて女ゴリラの称号を返上しなければならない……。
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ミシェルはふいに立ち止まり、ルシアンを呼ぶ。
「ルシアン様」
名を呼ばれたルシアンも立ち止まり、「ん?」と言ってミシェルの方へと向き直った。
銀の髪が風にさらさらとたなびく。
ミシェルは自分の頬がほんのり熱を帯びるのを感じながら笑みを浮かべ、そしてルシアンへと告げる。
「ルシアン様、おかえりなさい」
ミシェルから掛けられたその言葉に、ルシアンは破顔して頷いた。
「うん、ただいま。ミシェル」
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆
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