わたしの婚約者なんですけどね!

キムラましゅろう

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ショートストーリー お宝オークション

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この日は昼からは非番の日で、
わたしは同僚のポピーに侍女寮のとある談話室へと連れて来られた。

寮の個室3部屋分ほどの広さのその談話室には
王宮勤めの侍女やメイド、魔術師に女性騎士といったあらゆる部署の、あらゆる業種の女たちがひしめき合っていた。

「いい?アミシュ、ここは戦場だからね?お目当ての人の物が掛けられたら直ぐに手を上げるのよ?じゃないとあっという間に掻っ攫われちゃうからね?」

と、ポピーが鼻息を荒くしてわたしに告げる。

一体何?なんの事?ここで何が行われるというの? 

わけが分からず狼狽えるわたしを他所に、
王宮勤めのとある侍女が高らかに宣言した。

「ではこれより、お宝オークションを始めたいと思います!」

お、お宝オークション?

お宝ってどんな?宝石とか骨董品とか?

「ではまず最初の品、王太子殿下の侍従、ジョゼフ氏の使用後の紙ナプキンです!1000エーン(大陸共通の通貨の単位)からでお願いします!」

その侍女が告げた途端に女たちの声が次々に上がる。

「1500エーン!」
「2000エーン!」
「2500エーン!」

な、何!?何が起きてるの!?
ホントにオークションなの!?

もしかしてお宝って、こういう事!?

王太子殿下の侍従のジョゼフさんて、あの二人の子持ちにはとても見えない超美男子の人よね!?

その人が使った物を競売に掛けてるの!?

「5000エーン!!」

その金額が叫ばれた時、女たちから「お~」と
どよめきの声が上がった。

使用済みの紙ナプキンが5000エーン!?

し、信じられない……


わけがわからず呆気に取られるわたしを尻目に
実に様々な品がオークションに掛けられる。

どこそこの貴族の令息が記入した書類だとか、
騎士のなにがしさんが使用したタオルだとか、
とある文官がよく使うペンのインクだとか、
豊富なバリエーションの品々がオークションに掛けられてゆく。

しかもみんな王宮内でファンの多い美男子ばかり。

その彼ら縁の品をどういう経緯かは謎だが入手して、こうやって売り捌いているらしいのだ。

聞けばその侍女は王太子殿下の侍女を長年務めているという……。

凄い、商魂逞しい……!

「では次です、これからは今回の目玉商品が数品出ますよ」

その言葉を聞き、皆がゴクリと唾を飲む。

「こちらの品……なんと!王太子殿下が長年愛用され、この度買い替えのためにお役ご免となった洗面器です!!」

「まぁ!?」「なんですって!?」
という驚愕の声が女たちから続々と上がる。

「こちらの品、5000エーンからでお願いします!!」

「5500!!」
「6000!!」
「7000!!」
と、次々に値を上げていく女たち……。

ちょっと待って、みんなそんなに給金は大差ないわよね?
侍女長やメイド長にもなると変わってくるんだろうけど、貴重なお給料をそんなに注ぎ込んで大丈夫なの?
それにこの売り上げ金は全てあの侍女さんのものになるのだろうか……?

わたしは気になってポピーにこっそり聞いてみた。

するとなんでも、売り上げ金の一部は品物を提供してくれた人へ払われ、一部はその侍女さんが手間賃として取り、残りは救護院に寄付されるのだそうだ。

なるほど、救護院に寄付しながらお目当ての男性の縁の品が手に入る、それなら罪悪感も和らぎ、売り手も買い手もどちらも満足出来るわけだ。

あ、あの侍女さん……デキる!!

結局王太子殿下の洗面器は10000エーンで落札された。

「では最後は今回の目玉商品を3つご紹介します。第二王女殿下の専属騎士、3名の方々のお品です」

どよっ……!という効果音が聞こえてきそうなほど、談話室内がどよめいた。

な、なん…ですって……?
王女殿下の騎士の……ですって?

ま、まさか……


「第二王女殿下専属近衛騎士、
アルマン=ロバーツ様の使用済みフォークと!
タイラー=ヒル様の先月のシフト表と!
そしてハルト=ジ=コルベール様の使用済みグラスです!」

「買ったぁ!!」

次の瞬間、わたしは思わず叫んでいた。

その後の熾烈な争奪戦を勝ち取ったわたしは、

ハルトのグラスを7000エーンで落札したのであった……。

とほほ……今月は節約せねば。

でも悔いはない。


しかし美男子が使用したというだけで
どんな物でも売れるなんて……

ハルト直筆の手紙とか使用済みのハンカチとか
わたしの自慢のハルトコレクション……
競売にかけたら一財産築けるのでは?と思ってしまった。

ま、絶対に売らないけどね!





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