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王宮内の噂
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婚約者のハルトが第二王女レティシアに求婚しているのを王女宮の侍女が見たという話を聞いたが、
アミシュは真実を確かめられずにいた。
真実を知るのが怖いという気持ちと、
ハルトを信じたい気持ちがない交ぜになって
アミシュの心の中でぐるぐる回る。
〈うっ……ハルト……嘘だと言って……〉
アミシュは食堂で同僚の騎士と昼食を摂っている
ハルトを覗き見していた。
王太子付きの護衛騎士になってからというもの、
まだその行動パターンが掴めず、ハルトウォッチングがし難くなっているのだ。
今日はもしやと張り込んでいた食堂でハルトの姿を
見つけた時は小さくガッツポーズをしてしまったほどに。
〈って、そんな事をやってる場合じゃない〉
見たところ、ハルトはいつもと変わらない様子だけど。
しかし今や王宮内はその噂で持ちきりである。
「コルベール卿が王太子殿下の専属騎士になったのは王女殿下との婚約発表が秒読み段階に入ったからだそうだぞ」
ーーわたしの婚約者なんですけどね!
「美男美女でお似合いだと思っていたもの!」
ーーわたしの婚約者なんですけどね!
「王女殿下が今までご婚約もご結婚もされなかったのは運命の相手を待っていたからなのね、そしてコルベール様がその運命のお相手だったという事ね!」
ーーわたしの婚約者なんですけど!!!
その他にもこれからは公的には王太子を、
ベッドの中では王女を守る騎士になるのだとか、
いかにも侍女連中が好きそうな下世話な噂話も
流れている。
それらを耳にする度にアミシュはまるで血の涙を流しているような心地になるのだ。
〈みんな酷い……ハルトはわたしの婚約者なのに……!でもそのわたしとの婚約がハルトを苦しめていたらどうしよう……〉
じっ……と、視線で穴が空きそうなほど婚約者を
見つめていると、突然後ろからポピーの大きな声がした。
「あ、いたいたアミシュ!」
「ちょっ……ポピーっ」
「ふがっ!?」
名を呼ばれ、アミシュは慌ててポピーの口を抑えて食堂を飛び出した。
食堂から少し離れた所でポピーを解放する。
「も~、何?どうしたのよアミシュ!」
「ご、ごめん……
これにはちょっと深いワケがあって……」
「ワケって何よ?」
「ちょっと今は言えなくて……」
「何よソレ、まぁ言いたくないならいいけどさ、
それより班長が集まれって」
「え?今日って何かあったっけ?」
「明日の班会議を前倒しでやっておきたいんだって」
「わかったすぐに行く」
そう言ってアミシュはポピーと共に魔術師団の
詰め所へと戻った。
少々、いやかなり後ろ髪を引かれる思いだったが。
◇◇◇◇◇◇
その時、食堂にいたハルトはため息を吐いていた。
今さっき、誰かが「アミシュ」と言ったのが聞こえたような気がしたのだ。
聞こえた瞬間に声がした方を見やったが、昼時の
食堂は人が多く誰が言ったのかは分からなかった。
そもそも「アミシュ」と聞こえたのは幻聴だったのかもしれない。
会いたいとそればかり思っている所為でそう聞こえてしまったのだろう。
だって彼女がこんな所にいるはずはないのだから。
ハルトはもう一度ため息を吐いた。
そんなハルトを見て、一緒に昼食を食べていた同僚のジランが言う。
「そういえばハルト、お前が王女殿下に求婚したと聞いたんだけどホントか?」
それを聞き、ハルトは今度こそ耳がおかしくなったのかと思った。
「は?何を言ってるんだ?」
「え?違うの?結構な噂になってるぞ。
王女宮の侍女が、お前がレティシア殿下に求婚してるのを見たって」
その瞬間、ハルトがバンっと机を叩いて大声で怒鳴った。
「そんなわけないだろっ!!
俺には婚約者がいるというのに!!」
普段一定のテンションを保つハルトが声を荒げて
怒鳴った事で、食堂が一気に鎮まり返った。
ジランが慌てて宥める。
「お、落ち着けって、単なる噂って言っただろ?
お前のその様子を見ればそれが事実でないとわかったからっ……」
ハルトが乱暴な仕草で椅子に座るのを見て、
ジランが言った。
「悪かったって。でも王宮内がそういう噂で持ちきりなのはホントだぜ」
「くだらない……」
ハルトは思った。
本当にくだらないと。
何が面白くてそんなデマを流すのか。
何か目的があっての事なのか……。
いずれにせよ王宮にアミシュがいなくて本当に良かった。
もしアミシュがこんな噂を耳にすれば、もしかしたら本気にしたかもしれない。
素直であまり人の悪意に晒された事のない彼女の事だ。
噂を真実だと思い込み、身を引こうと考えるかもしれない。
ハルトは再び、いや本日三度めの大きなため息を吐いた。
その時、唐突に一人の侍女に声をかけられる。
「コルベール卿」
見るとそれは何度か顔を合わした事のある王女宮の
侍女だった。
「……何か?」
ハルトが尋ねると、王女宮の侍女は端的に告げた。
「レティシア殿下がお呼びです」
「もう王女宮の騎士ではないのだが」
「至急来るようにとの命でございます」
「……わかった」
ハルトが王女宮に向かうために立ち上がると、
ジランが「お前も大変だな……」と呟いた。
まったくだ。
ハルトが王女宮の侍女に伴われて食堂を出ると、
食堂内は途端に騒がしくなり、
やはり噂は本当だったとか、
これから逢瀬に向かうのだとか、
あの野郎上手いことやりやがってとか、様々な声が飛び交った。
数日ぶりに王女宮へ着くと、
サンルームや応接間ではなく王女の自室へ行くようにと告げられた。
「………」
ハルトが仕方なく王女の部屋へ行くと、
ノックをする前に扉が開く。
「ハルト!待ってたのよ!!」
そう言って王女がいきなりハルトに縋り付いて来た。
ハルトは冷静な面持ちで自身の袖を両手で掴む王女の手を丁重に外し、一歩下がって騎士の礼を執った。
「お呼びと伺い、参上いたしました。
ご用件は何でしょう」
ハルトがそう言うと、王女レティシアは甘えた声を出しながら再びハルトの手を握ってきた。
「んもう、相変わらず堅苦しい喋り方なのね。私と貴方の仲なのだから、そんなに改まらないでほしいわ」
どんな仲だ、と問い正したくなったが、
余計に長くなって時間を取られそうなのでやめておいた。
「で、ご用件とは?」
「それがね……ハルト、ちょっと困った事になっちゃって……助けてほしいのよ」
「困った事?」
「私の侍女がね、勝手に変な噂をばら撒いてしまったの……ホラ、貴方の耳にも入ってない?あの……」
「……私が殿下に求婚したというデマですか?」
「そう、それよ!まったくあの侍女にも困ったものよね。もう王宮中に噂が広まって本気で信じてる者が多いらしいじゃない?その……私と貴方がお似合いだとか……」
「……それがどうかされましたか?」
ハルトはなんだかイヤな予感がした。
「その噂が本当かどうか、とある令嬢に聞かれたのよ……それで私……本当よ、って言ってしまったの!」
レティシアがはにかみながら元気よく言った。
「……何故そのような嘘を……」
ハルトは内心、頭を抱えたくなる。
「だから嘘にしなければいいと思わない?
噂を本当にすればいいのよ!お願いよハルト、
私を助けて!嘘つきにさせないで!」
「殿下の専属になる時に申し上げたはずです、
私には婚約者がいると」
「その婚約者との婚約は破棄したらいいじゃない!どう考えても、私が降嫁する方がコルベール家のためになるはずよ?」
「申し訳ございませんが、そうではありません」
「どうしてよ?」
「私の婚約者も精霊に愛されたコルベールの血筋の者です。王家の尊き血筋とはまた別のものであります。我が家に取りましては、血筋を濃く、力が衰えないようにするためには大切な縁組なのです。
しかしそんな事を差し引いても、私は婚約者の事を誰よりも愛しく思っております。彼女以外との結婚は考えられません」
「わ、わ、私よりもその女と結婚したいというの!?それじゃあ噂はどうするのよ!私に恥をかかせるつもり!?」
「噂なんて放っておけばそのうち消えます。殿下がその令嬢に本当の事を仰れば嘘吐きにもなりませんし、恥もおかきにならないかと……」
ハルトは淡々と告げた。
心底どうでもよい事だった。
「貴方を不敬罪で罰するようにお父様に言うわよ?」
「何故でございましょう?罰せられるべきは嘘の噂を流した殿下の侍女であって然るべきです。私ではない」
「いいえ!私ではなく他の女を選ぶなんて許せないもの!厳しい罰を与えて貰うから!」
一体どういう思考をすれば
そういう結論に至るのか……。
面倒くさい事になったと
ハルトは心の中で舌打ちした。
さて、この場をどう切り抜けるか……と考えた
その時、聞き覚えのある声がした。
「そこまでだ、レティシア。見苦しいぞ」
「……お兄様っ!?」
王太子シルヴァンがレティシアの部屋の入り口に
立っていた。
ハルトは部屋の扉を閉めなかったので、おそらく今の会話は聞かれていただろう。
「殿下」
ハルトが胸に手を当て礼を執ると、
シルヴァンは言った。
「コルベール、
愚妹がバカな事を言ってすまなかったな。
お前はもう下がれ」
「はい、では御前を失礼いたします」
「ちょっと待ってハルト!まだ話は終わってないわ!」
レティシアが尚も食い下がろうしていたが、
王太子の言葉の方に従うのが道理だ。
しかもハルトは既に王太子の騎士である。
レティシアがギャアギャアと何やら喚いていたが、
全て無視してハルトは王女宮を後にした。
王女レティシアが涼しい顔の裏側で結婚を焦っているのは知っていたが、
まさかこんな手に出てくるとは思わなかった。
「……バカバカしい」
なんだかどっと疲れを感じたハルトは
本日4度目のため息を盛大に吐いた。
アミシュは真実を確かめられずにいた。
真実を知るのが怖いという気持ちと、
ハルトを信じたい気持ちがない交ぜになって
アミシュの心の中でぐるぐる回る。
〈うっ……ハルト……嘘だと言って……〉
アミシュは食堂で同僚の騎士と昼食を摂っている
ハルトを覗き見していた。
王太子付きの護衛騎士になってからというもの、
まだその行動パターンが掴めず、ハルトウォッチングがし難くなっているのだ。
今日はもしやと張り込んでいた食堂でハルトの姿を
見つけた時は小さくガッツポーズをしてしまったほどに。
〈って、そんな事をやってる場合じゃない〉
見たところ、ハルトはいつもと変わらない様子だけど。
しかし今や王宮内はその噂で持ちきりである。
「コルベール卿が王太子殿下の専属騎士になったのは王女殿下との婚約発表が秒読み段階に入ったからだそうだぞ」
ーーわたしの婚約者なんですけどね!
「美男美女でお似合いだと思っていたもの!」
ーーわたしの婚約者なんですけどね!
「王女殿下が今までご婚約もご結婚もされなかったのは運命の相手を待っていたからなのね、そしてコルベール様がその運命のお相手だったという事ね!」
ーーわたしの婚約者なんですけど!!!
その他にもこれからは公的には王太子を、
ベッドの中では王女を守る騎士になるのだとか、
いかにも侍女連中が好きそうな下世話な噂話も
流れている。
それらを耳にする度にアミシュはまるで血の涙を流しているような心地になるのだ。
〈みんな酷い……ハルトはわたしの婚約者なのに……!でもそのわたしとの婚約がハルトを苦しめていたらどうしよう……〉
じっ……と、視線で穴が空きそうなほど婚約者を
見つめていると、突然後ろからポピーの大きな声がした。
「あ、いたいたアミシュ!」
「ちょっ……ポピーっ」
「ふがっ!?」
名を呼ばれ、アミシュは慌ててポピーの口を抑えて食堂を飛び出した。
食堂から少し離れた所でポピーを解放する。
「も~、何?どうしたのよアミシュ!」
「ご、ごめん……
これにはちょっと深いワケがあって……」
「ワケって何よ?」
「ちょっと今は言えなくて……」
「何よソレ、まぁ言いたくないならいいけどさ、
それより班長が集まれって」
「え?今日って何かあったっけ?」
「明日の班会議を前倒しでやっておきたいんだって」
「わかったすぐに行く」
そう言ってアミシュはポピーと共に魔術師団の
詰め所へと戻った。
少々、いやかなり後ろ髪を引かれる思いだったが。
◇◇◇◇◇◇
その時、食堂にいたハルトはため息を吐いていた。
今さっき、誰かが「アミシュ」と言ったのが聞こえたような気がしたのだ。
聞こえた瞬間に声がした方を見やったが、昼時の
食堂は人が多く誰が言ったのかは分からなかった。
そもそも「アミシュ」と聞こえたのは幻聴だったのかもしれない。
会いたいとそればかり思っている所為でそう聞こえてしまったのだろう。
だって彼女がこんな所にいるはずはないのだから。
ハルトはもう一度ため息を吐いた。
そんなハルトを見て、一緒に昼食を食べていた同僚のジランが言う。
「そういえばハルト、お前が王女殿下に求婚したと聞いたんだけどホントか?」
それを聞き、ハルトは今度こそ耳がおかしくなったのかと思った。
「は?何を言ってるんだ?」
「え?違うの?結構な噂になってるぞ。
王女宮の侍女が、お前がレティシア殿下に求婚してるのを見たって」
その瞬間、ハルトがバンっと机を叩いて大声で怒鳴った。
「そんなわけないだろっ!!
俺には婚約者がいるというのに!!」
普段一定のテンションを保つハルトが声を荒げて
怒鳴った事で、食堂が一気に鎮まり返った。
ジランが慌てて宥める。
「お、落ち着けって、単なる噂って言っただろ?
お前のその様子を見ればそれが事実でないとわかったからっ……」
ハルトが乱暴な仕草で椅子に座るのを見て、
ジランが言った。
「悪かったって。でも王宮内がそういう噂で持ちきりなのはホントだぜ」
「くだらない……」
ハルトは思った。
本当にくだらないと。
何が面白くてそんなデマを流すのか。
何か目的があっての事なのか……。
いずれにせよ王宮にアミシュがいなくて本当に良かった。
もしアミシュがこんな噂を耳にすれば、もしかしたら本気にしたかもしれない。
素直であまり人の悪意に晒された事のない彼女の事だ。
噂を真実だと思い込み、身を引こうと考えるかもしれない。
ハルトは再び、いや本日三度めの大きなため息を吐いた。
その時、唐突に一人の侍女に声をかけられる。
「コルベール卿」
見るとそれは何度か顔を合わした事のある王女宮の
侍女だった。
「……何か?」
ハルトが尋ねると、王女宮の侍女は端的に告げた。
「レティシア殿下がお呼びです」
「もう王女宮の騎士ではないのだが」
「至急来るようにとの命でございます」
「……わかった」
ハルトが王女宮に向かうために立ち上がると、
ジランが「お前も大変だな……」と呟いた。
まったくだ。
ハルトが王女宮の侍女に伴われて食堂を出ると、
食堂内は途端に騒がしくなり、
やはり噂は本当だったとか、
これから逢瀬に向かうのだとか、
あの野郎上手いことやりやがってとか、様々な声が飛び交った。
数日ぶりに王女宮へ着くと、
サンルームや応接間ではなく王女の自室へ行くようにと告げられた。
「………」
ハルトが仕方なく王女の部屋へ行くと、
ノックをする前に扉が開く。
「ハルト!待ってたのよ!!」
そう言って王女がいきなりハルトに縋り付いて来た。
ハルトは冷静な面持ちで自身の袖を両手で掴む王女の手を丁重に外し、一歩下がって騎士の礼を執った。
「お呼びと伺い、参上いたしました。
ご用件は何でしょう」
ハルトがそう言うと、王女レティシアは甘えた声を出しながら再びハルトの手を握ってきた。
「んもう、相変わらず堅苦しい喋り方なのね。私と貴方の仲なのだから、そんなに改まらないでほしいわ」
どんな仲だ、と問い正したくなったが、
余計に長くなって時間を取られそうなのでやめておいた。
「で、ご用件とは?」
「それがね……ハルト、ちょっと困った事になっちゃって……助けてほしいのよ」
「困った事?」
「私の侍女がね、勝手に変な噂をばら撒いてしまったの……ホラ、貴方の耳にも入ってない?あの……」
「……私が殿下に求婚したというデマですか?」
「そう、それよ!まったくあの侍女にも困ったものよね。もう王宮中に噂が広まって本気で信じてる者が多いらしいじゃない?その……私と貴方がお似合いだとか……」
「……それがどうかされましたか?」
ハルトはなんだかイヤな予感がした。
「その噂が本当かどうか、とある令嬢に聞かれたのよ……それで私……本当よ、って言ってしまったの!」
レティシアがはにかみながら元気よく言った。
「……何故そのような嘘を……」
ハルトは内心、頭を抱えたくなる。
「だから嘘にしなければいいと思わない?
噂を本当にすればいいのよ!お願いよハルト、
私を助けて!嘘つきにさせないで!」
「殿下の専属になる時に申し上げたはずです、
私には婚約者がいると」
「その婚約者との婚約は破棄したらいいじゃない!どう考えても、私が降嫁する方がコルベール家のためになるはずよ?」
「申し訳ございませんが、そうではありません」
「どうしてよ?」
「私の婚約者も精霊に愛されたコルベールの血筋の者です。王家の尊き血筋とはまた別のものであります。我が家に取りましては、血筋を濃く、力が衰えないようにするためには大切な縁組なのです。
しかしそんな事を差し引いても、私は婚約者の事を誰よりも愛しく思っております。彼女以外との結婚は考えられません」
「わ、わ、私よりもその女と結婚したいというの!?それじゃあ噂はどうするのよ!私に恥をかかせるつもり!?」
「噂なんて放っておけばそのうち消えます。殿下がその令嬢に本当の事を仰れば嘘吐きにもなりませんし、恥もおかきにならないかと……」
ハルトは淡々と告げた。
心底どうでもよい事だった。
「貴方を不敬罪で罰するようにお父様に言うわよ?」
「何故でございましょう?罰せられるべきは嘘の噂を流した殿下の侍女であって然るべきです。私ではない」
「いいえ!私ではなく他の女を選ぶなんて許せないもの!厳しい罰を与えて貰うから!」
一体どういう思考をすれば
そういう結論に至るのか……。
面倒くさい事になったと
ハルトは心の中で舌打ちした。
さて、この場をどう切り抜けるか……と考えた
その時、聞き覚えのある声がした。
「そこまでだ、レティシア。見苦しいぞ」
「……お兄様っ!?」
王太子シルヴァンがレティシアの部屋の入り口に
立っていた。
ハルトは部屋の扉を閉めなかったので、おそらく今の会話は聞かれていただろう。
「殿下」
ハルトが胸に手を当て礼を執ると、
シルヴァンは言った。
「コルベール、
愚妹がバカな事を言ってすまなかったな。
お前はもう下がれ」
「はい、では御前を失礼いたします」
「ちょっと待ってハルト!まだ話は終わってないわ!」
レティシアが尚も食い下がろうしていたが、
王太子の言葉の方に従うのが道理だ。
しかもハルトは既に王太子の騎士である。
レティシアがギャアギャアと何やら喚いていたが、
全て無視してハルトは王女宮を後にした。
王女レティシアが涼しい顔の裏側で結婚を焦っているのは知っていたが、
まさかこんな手に出てくるとは思わなかった。
「……バカバカしい」
なんだかどっと疲れを感じたハルトは
本日4度目のため息を盛大に吐いた。
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