【完結】私は本気の恋だった

キムラましゅろう

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1 まずは生い立ちから語りましょうか

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私が生まれたのは、王立の研究機関や魔法薬学者の養成学校のある地方の学術都市だったわ。

魔法薬学の講師だった両親は不運な事故で帰らぬ人となり、まだ幼かった私は父方の祖父母に育てられたの。

祖父は元々は男爵家の三男坊で、優秀な魔法薬の術式師として家を出て自立したそうよ。
そして祖母と出会い、二人は結ばれた。

善良な祖母に厳格で寡黙な祖父。
そんな二人に、私は亡くなった両親の分まで過不足ない愛情を与えられて育った。

だけど私が十三歳のときに祖父が病死してから人生が急転したの。

治療魔術を行うに必要な、処方箋ともいえる術式の構築を専門としていた祖父。
生前は数々の怪我や病に有効な術式を生み出し、その功績を称えられたと聞いているわ。
その祖父が、西と東の両大陸で等しく禁忌とされる術式を構築し、完成させてそれを隠匿しているという容疑をかけられたの。

祖父が隠匿しているという禁忌の術式……それは、
“死者を甦らせる”という決して人間が手を出してはいけない領域のものだったの。

長年秘密裏に構想を練っていたらしい祖父は、当然そのことを友人や同僚はおろか、祖母にだって打ち明けてはいなかったわ。
それがなぜ祖父の死後に明らかとなったか。なんでも祖父が所有していた魔導書が生前の勤め先であった研究所に残されていたらしく、そこに挟んであったメモを見た研究員が『これは禁忌の術式の一部に違いない!』と上に報告したらしいのよ。

そして残された祖母と私で暮らしていた家に、強制捜査が入った。

国王陛下の命を受けた王国魔術師団と騎士団の人たちが一斉に家の中に踏み込んで来て、祖父の遺品だけでなく疑わしいと判断した物を根こそぎ持って行ってしまったわ。

結局それらしい証拠は見つからず嫌疑不十分とされたけど、王国から容疑を掛けられた私たちを街の人たちは嫌厭するようになってしまったの。
家は荒らされ、近隣の住人からは非難の目を向けられる。
それに耐えられなかった祖母と私は住み慣れた家と街を捨て、逃げるように王都へと移り住んだのよ。
人口過多で様々な人間が暮らす王都のほうが、誰も私たちを気にかけないと踏んでの決断だった。
それが功を奏して、私と祖母は再び慎ましくも穏やかな生活を送れるようになったの。

だけど自分の夫が容疑者扱いされ、その夫との大切な思い出の詰まった家の中を土足で踏み荒らされたことに強いショックを受けた祖母は、度々塞ぎ込むようになってしまった……。

嫌疑不十分とされても、疑いが晴れたわけではない。
こうしている今も、夫が禁忌に手を出した犯罪者として国に睨まれているのではないかと祖母は怯えた。

私はとりあえずは中等学校レベルの教養を身につけるために私塾に通い、そしてそれ以外は祖母に寄り添って、祖父が遺してくれたお金をやり繰りしながら生活を続けたの。

そしてそれから数年が経ち、私が十八歳の成人になるのを見届けるようにして、祖母は祖父の元へと旅立った。

私は喪失感と孤独感を抱きながら、祖母が荼毘に付される空を見上げた。
雲ひとつない澄み切った空だったけれど、それがとても空虚に感じたわ。

『私は……本当にひとりになってしまった……父も母も、祖父も祖母も……もう誰もいない』

広い王都の街にただひとりきり。
誰にも頼れない。頼れる人など誰もいない。
寄る辺ない自分自身かひどく惨めに感じた。

だけど、それでも、私は生きてゆかねばならない。
今生きている私という存在が、両親や祖父母が生きた証なのだからと自分を奮い立たせて、私は職を見つけて自立したのよ。

そしてそんな生活にも慣れてきた頃に、彼と出会ったの……。






「うっ……うっ……ミルチアさんっ……ご苦労なさったんですねぇ……!でもなんておばあちゃん孝行なっ……孫の鏡ですっ……ぐすっ」

食堂ツバメ亭にてミルチアの話に耳を傾けていたコリーンが大粒の涙を零しながらそう言った。

ミルチアはエプロンのポケットからハンカチを取り出してコリーンに手渡す。

「序盤から泣いてどうするの。これからどんどん話は重くなるのに……」

「だってっ……だってぇぇ……」

「ほらほらもう泣かないの」

「はいぃっ……」

コリーンはミルチアから借りたハンカチで目元を押さえ涙を拭う。
そしてハンカチから目線を上げてミルチアを見た。

「……あの人と出会ったって……もしかしてその人がミルチアさんの言う、最初で最後の恋のお相手ですか……?」

「まぁ……そうなるわね」

「わわわっ……ドキドキしてきました、早く続きが聞きたいです!」

泣き顔から一転、好奇心に満ちた目を向けてくるコリーンにミルチアは肩を竦めながら言う。

「ごめんなさい。時間が来たから今日はここまでね」

ミルチアの言葉を聞き、コリーンは腕時計に目を落とす。

「あ、そうか。ミルチアさんのシフトは朝から夕方までだと言ってましたもんね。夕方からは別の給仕さんが入るって」

食器を片付けながらミルチアが答えた。

「そうなの。お迎えがあるからごめんなさい、話の続きはまた今度」

「大丈夫です!明日も伺います!私はこれで失礼しますから、早くお迎えに行ってあげてください」

コリーンはそう言ってランチ代を支払って店を出て行った。
キャロットケーキはミルチアの奢りだ。

ミルチアは皿洗いと店内の掃除を済ませ、店主と女将に声をかけて退勤した。

そしてツバメ亭からほど近い場所にある託児所へと向かう。
地域の商工会が運営する託児所のドアを開けると、元気な声がミルチアの耳に届いた。

「まま!おちゅかれたま!」

母親が迎えに来る時間を体で覚えているのだろう。
もうすぐ三歳になるひとり息子であるフィンリーが、嬉しそうにドアの前で待ち構え出迎えてくれた。

最愛の、自分の命よりも大切な息子の笑顔を見て、ミルチアは自然と笑みを零す。

「ありがとうフィン。いい子にしてた?」

息子のフィンリーを、ミルチアはフィンと愛称で呼ぶ。
そのフィンリーの前にしゃがみこみ、ミルチアは視線を合わせた。
フィンリーは弾けるような笑顔で大きく頷く。

「うん!」

自慢げにキラキラとした瞳を母親に向けるフィンリーの、父親譲りの瞳をミルチアは見つめる。

青と黒をあわせ持つ、虹彩異色ヘテロクロミアの瞳を。





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