【完結】私は本気の恋だった

キムラましゅろう

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11 辿り着いた地で

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移住先に目的地があったわけではなかったの。
ただ、海辺の街に住みたい。
そんなぼんやりとしたプランで私は移動を続けた。
旅費に多くは費やせない。
新しい生活の基盤を整えるのに物入りになるだろう。
だから私は最初に辿り着いた海辺のこの街、セントクレアを移住先に決めたの。

ここは地方の鄙びた港町にしては大きく、貿易と観光が盛んなおかげで人の出入りも多い。
他所からきたワケ有りの女がひっそりと生きていくのに都合がいいと思ったのよ。
それに、この街に着いてすぐに体調を崩してしまい、新たな土地を探し求める気力が失せたのもあった。

倦怠感と鈍い下腹部痛。わずかに出血してその後すぐに止まったから、ストレスにより月のものに影響が出たのだと思っていたわ。
だけど貧血と悪心が日に日に強まり、ある日私は職探しの途中でとうとう倒れてしまった。
そして意識を取り戻したときは、見知らぬ場所で寝かされていたの。
目覚めたことに気づいた壮年の女性が、のそりと身を起こした私に声をかけてくれた。

『あんた、そんな急に起きたらダメだよ。ウチの店の前で貧血で倒れたのを覚えてないのかい?』

『店の前で……それはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……。それで、あのここは……?』

自分が今どこに居るのかが気になり尋ねてみると、女性は水差しからグラスに水を注いで渡してくれた。
私はグラスを受けとり、お礼を口にする。
『ありがとうございます……』

『ここはツバメ亭っていうしがない食堂の二階さ。店の前で倒れてるあんたを見つけたのは常連客の医者でね。あんた、運がよかったよ』

『通りがかったのも何かの縁だと、その医者が診察してくれたんだよ。ラッキーだったじゃないか』と言って、女性は屈託なく笑った。

そして女性はベッドサイドに置いてある椅子に腰掛けて、私をじっと見据えた。

『あんた、身ごもってるんだってね』

『えっ……?』

『え、ってあんた、気づいてなかったのかい?』

『は、はい……色々あって……そのせいで体調を崩しているのだと……』

自分の体に起きていた変化は、思いも寄らないものだった。

(ここに赤ちゃんが……?私と、クライブの……?)

だとすればあの夜だ。
あのたった一夜ひとよで授かったんだ。
私は驚きながら下腹部にそっと手を当て、触れた。
じわじわと温もりも感じるのは手の平の温かさかそれとも……。

産まないなんて選択肢はなかった。
たとえ偽りに塗れた相手との間に授かった子どもだとしても、この子が私の身に宿ったのは真実だから。

ひとりでもちゃんと産んで育てる。
天涯孤独だと思っていた自分が再び得た家族を守りたかった。その命を諦めたくはなかった。

となれば早く住むところを見つけて、職を探さなくては……。
私は女性に礼を告げ、行動に移そうとした。
だけど目眩が酷くてとても立ち上がれそうにない。
そんな私を女性は慌ててベッドに押し留めた。

『そんな急に動いちゃいけないよ。貧血で倒れたって言ったろ』

『でもこれ以上ご迷惑をおかけするわけには……』

『ウチの二階で寝てるだけなのに何が迷惑をかけてるって言うのさ。それに、妊娠中は何が起こるかわからないんだよ。お腹の子のためにも無理をしちゃいけない』

優しく諭してくれる女性の優しさが胸に沁みて、その優しさに縋りたくなってしまう。
今だけ、少しだけ……。
私は女性に謝意を伝える。

『……すみません、ごめんなさい……ありがとうございます』

再びベッドに横たわった私に、女性は色々と話してくれた。
女性は食堂ツバメ亭の店主夫人で、旦那さんは風変わりだけど腕前と人の良い料理人であること。
娘が一人いたけれど流行り病で若くして亡くなったこと、その娘さんの面影に私がどことなく似ていてどうしても放っとけなかったこと、ツバメ亭の歴史や納屋に住み着いた猫のこと等、そんな話を色々としてくれた。

だから私も、つい自分の身の上話をしてしまったの。
両親を早くに亡くしたこと、祖父母のこと、子どもの父親とはワケあって別れ、定住先を求めて旅をしていること。それら全てを女性に話した。
私の話を黙って聞いていた女性が徐に言う。

『それならあんた、ここで働きなよ』

『えっ……だけど……』

『食堂の給仕なんてイヤかい?』

そんなわけはないと私は首を横に振る。

『それならいいじゃないか。ちょうど誰か雇おうと思ってたんだ。妊婦に無理はさせないつもりだし、賄いも出すよ。それに、アパートの部屋も世話してあげる』

気っ風きっぷのいい笑顔を見せ、そう言った女性。
その破格の待遇に私は目を見張る。

『ど、どうして……今日会ったばかりの……見ず知らずの私にそんなに良くしてくださるんですか……?』

『言っただろ、あんたが亡くなった娘に似てるって。だから放っとけない、それが理由じゃ不服かい?』

私はまた首を横に振る。
だけど、そう言ってもらえたけれど、それに甘えて良いものか判断がつかない。
そうしたら私のその感情を見透かしてか、女性はパンッと手を叩いてその場を締めてしまった。

『遠慮して断るのは却下だ。あんたをこのまま帰したら、その後どうなったのか気になってアタシの胃に穴が空くかもしれないんだよ?アタシがそんな目に遭うのが気の毒だと思うんなら、素直に甘えておくれ。そして、私に生まれた赤ん坊の世話をさせておくれよ』

『奥様……』

『イヤだね奥様なんてガラじゃないよ!近所まわりには“女将”って呼ばれてるんだ。ツバメ亭ここの女帝ともね』

“女帝”のところで胸に手を当てて得意げになる女性……女将さんを見て、私は自然と笑みになる。
優しさが嬉しくて眩しくて。
全て失ったと思っていた私が、子どもとそして新たな人の縁を手にすることができた喜びに、自然と涙が溢れていた。

『ありがとうございます……。お世話になりますっ……』

私が居住まいを正し頭を下げると、女将さんは満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。

そうして私は、辿り着いたこの地で新たな人生を踏み出した。

国境の紛争は激化の一途を辿る、そんな状況下での出来事だった。





•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆



´Д`)ヤット‥
シクベらしくなってきた……?
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