嘘コクのゆくえ

キムラましゅろう

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わたしじゃない

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「おーいアニー、ツキシマ教授に頼まれてる薬剤の調達にいこうぜ~」

午後からの講義のない日、同じく奨学生で同じくツキシマ研究室でバイトをしているマック=ロナルドがわたしにそう言ってきた。

「え~、制服が汚れちゃう、この一着しかないのに~。マック一人で行って来てよ~」

わたしが口を尖らせてそう言うと、マックは用意周到な事に運動着を差し出した。

「俺の運動着貸してやるって。じゃないと俺一人だとまたヨモギと間違えてトリカブトを採って来ちまうからさ」

「も~、いい加減見分け方くらい覚えなさいよ。葉の切り込みが深くて産毛が無くて香りがしないのがトリカブトだから」

「それでも間違えて少し混じってしまいそうだろ?また教授に叱られるじゃんか」

「東方魔法薬の薬剤師になりたいのなら、そのくらい完璧にできるようにならないと」

「目下修行中だよ。ほら、どうせ余分にヨモギを採って晩メシにするんだろ?行こうぜ!」

「仕方ないなぁ~。今夜はヨモギの天婦羅にしよ~っと」

マックとそんな会話を繰り広げ、結局わたしは彼の体操着に着替えてヨモギ採取に行くのであった。

まぁこれも研究室の仕事なので時給が発生するし、ついでに夕食の食材もゲット出来る。
一石二鳥だ、良しとしよう。

ヨモギが自生する学校裏手の川原にむかうべく校内を歩いていると、なにやらきゃぴきゃぴした声が聞こえてきた。

そのきゃぴきゃぴの方へと視線を向けると、そこに数名の女子生徒に囲まれたロンドの姿があった。

女子生徒たちはみんな少し頬を赤らめ、うるうるした目でロンドを見上げている。
あぁみんなロンドの事が好きなんだなぁとわかる、コイスルオトメの表情だ。

歩きながらそれを見ている私にマックが言う。

「あれ、ほっといていいの?」

「ほっとくって?」

彼の言っている意味が分からず訊き返すと、マックは肩を竦めながら答えた。

「お前の彼ピに群がるライバル共を蹴散らして来なくていいのかってハナシ」

「ライバル……」

なんかピンとこない様子のわたしに若干呆れた視線を向けてマックが言う。

「何、関係ないみたいな顔してんだよ。お前、ロンド=ハミルトンの彼女だろ?誰よりもあそこに割り入る権利がある人間じゃんか」

「彼女……権利……」

ちがう。
わたしじゃない。

あそこに割り入って所有権を行使できるのはわたしじゃない。

わたしはニセモノ。

賭けの対象として嘘コクされて、きっとそのまま直ぐに別れるなんて申し訳ないと考えてるロンドが暫定的に付き合ってるフリをしているだけの存在。

だからわたしに、あそこに入る資格も権利もないのだ。

「そんな事より早く採取に行きましょ、戻ったらヨモギに洗浄魔法と乾燥魔法をかけるまでの作業はしておきたいわ。残業代が出るならいいけどタダ働きなんて死んでも嫌よ!」

「お前、相変わらず気持ちいいくらいの守銭奴だな」

「生きていくにはお金がいるのよ。マックならわかるでしょ?」

「まあな。多少ウチの家の方が経済状況はマシなようだけど」

「わたしの家計は火の車よ、あ、火が着くような車もないか」

「自虐ネタ過ぎだなオイ」

「ふふふ♪」

わたしは遠く離れた場所にいるロンドとうるうる女子たちを意識外に放り出し、マックと共に川原へと向かった。

川原での作業は2時間弱に及び、
持参したカゴが一杯になるくらいにヨモギを採取した。
もちろん、その中にはわたしの今晩のオカズの分も含まれている。

カゴはマックが持ってくれるのでわたしは小さなスコップを手に持ち学校へと戻る。

「あーやっぱり汚れたぁ。運動着を借りて良かったわ、洗って帰すからね」

「いやいいよ。押し付けたのはこっちだし」

「え、脱いだのをそのまま返すなんてなんかイヤ。マナーというより変なコトに使用それそう」

「するか!」

二人でそんな事を話ながら歩いていると、ツキシマ研究室の前で立つ人影に気づく。

なぜ彼がわざわざここに?

「ロンド……」

わたしが彼の名を呼ぶとロンドはわたしとマックを見据えてこう言った。

「……薬材の採取?」

「う、うんそう。ヨモギを採りに川原まで」

わたしがそう答えるとロンドはわたしが着ているマックの運動着をじっと見つめた。

「その運動着は?」

「あぁコレ?制服が汚れたら困るからマックに借りたのよ」

「そう……」

一瞬空気がヒヤリと冷たくなったように感じたけど気の所為だろうか。

でもその途端、マックは慌ててわたしの手からスコップを奪った。

「あ、じゃあ俺中で作業しておくわ!元は俺が仰せつかった作業だし。アニーはもう上がっていいぞ!」

マックはそう言って、そそくさと部屋に入って行った。

マックったらあんなに慌ててどうしたのかしら?
あ、わたしの分のヨモギは撥ねておいてね。

そんな事を考えるわたしにロンドは言う。

「運動着なら俺のを貸したのに」

「わざわざロンドのクラスまで借りに行くなんて大変だもの。それに悪いし」

「他のやつの運動着なんて着てほしくない」

はぅわっ?何?なんでそんな少し拗ねたような顔をしてるのっ?
は、初めて見る顔!
可愛い!ゴチですゴチです。心のメモリアルに入力インプット
魔法学校での良き思い出がまたひとつ……。

内なるアニーが越に浸っていると、ロンドは呟いた。

「異性と一緒にいる姿を見るのって、こんな気分になるのか……よしわかった」

「え?何か言った?」

「いや、何でもない。それよりもう上がっていいなら着替えておいでよ。一緒に帰ろう、馬車で送るから」

「今日は遠慮しておくわ。運動着のおかげで制服は無事だけど結局靴が泥だらけになっちゃったし馬車を汚してしまうもの」

わたしがそう答えるとロンドは徐にしゃがみ込み、わたしの靴に清浄魔法をかけた。
するとあら素敵、汚れる前よりも靴が綺麗になっちゃった。

「すごい。ロンドの清浄魔法は精度が高いのね」

「西方魔法薬の薬材も浄化が必要な物が多いからね。必要に迫られてさ」

「でも靴は綺麗になったけどやっぱり遠慮しておくわ。昨日も送ってもらったし……」

そう。昨日は伝説を奢って貰った上、夜バシャまでご一緒しちゃったのだ。

「でも外は今にでも雨が降り出しそうだよ?制服が濡れたら困るんじゃないか?」

「か、傘が…あるわ……」

先日強風に煽られて傘の骨が二本折れたけど……。

「時は金なりっていうし?徒歩で帰るより早く家に着いて、その分家事なり勉強なりする時間が増えるだろうな」

「うっ……」

ロンドの奴。
わたしの攻略法をどこで学んだんだ!
時間をお金に換算するわたしがそんな事を言われて拒否る事などできやしない。

「じゃあ……お願い、します」

わたしがそう告げるとロンドは嬉しそうに小さく微笑んだ。

「うん」

ぐはっ!

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