13 / 15
夢は聖騎士、そして フェイトside
しおりを挟む
こんなに神聖なものを目の当たりにしたのは初めてであった。
「……すげぇ………」
故郷で起きた山崩れで慕っていた従兄を亡くし、慰霊のために訪れた教会で鎮魂歌を歌う聖女を見た。そして心が震えたのだ。
その時まだ五歳であったフェイトに聖女という存在が何なのか、何を背負い何を捧げて生きているのかは分からなかったが、ただこの尊い人を守れる人間になりたい、そう思ったのであった。
「……おれ、しょうらいは、ぱらでぃんになって、せいじょさまをおまもりする……」
と思わずそう呟いた時、引き会わされたばかりだったルゥカが「せいじょさま、よろこぶね!」と言って笑った。
それまで聖女を夢中になって見つめていたフェイトだが、なぜかルゥカのその笑顔の方が印象的に感じたのを今でも覚えている。
「フェイトだいすき!」
「おおきくなったらぜったいにフェイトのおよめさんになる!」
生家の斜向かいに住んでいたルゥカには不思議なくらい昔から懐かれていた。
山崩れで両親を一度に亡くした寂しさもあったのだろう。
祖母に引き取られ新しい区域に移った不安もあったのだろう。
とにかく子供ながらに依存されているとわかるほどに、ルゥカはフェイトにベッタリであった。
フェイトの両親は領主の屋敷に奉公していて共働きであったし、その為にルゥカの祖母に預けられる事もしばしばあった。
だから否が応なしに一緒にいる事になったのも、その要因であったと思う。
ルゥカはとにかく寝ても覚めてもフェイトの側に居たがった。
「まぁ今だけさ。ルゥカも大きくなったら世界が広がって同性の友達が出来るよになったら、自然とアンタから離れていくよ」
いつしかルゥカの祖母がそう言った。
フェイトもそうなんだろうな…とぼんやり思ったが、その時一抹の寂しさを感じた気がした。
その感情が何なのか分からず終いでその日を意識していたが、結局そんな日は訪れなかったのだった。
顔の良さからか昔から女の子によく付き纏われた。
だがその度にルゥカがどこに居ても直ぐに飛んで来てその女の子たちと舌戦を繰り広げた。
フェイトを取られまいと必死になるルゥカに腹を立てて殴ろうとする相手もたまにいて、その度にフェイトはルゥカを庇ったりもしたものだ。
しかしルゥカを殴ろとした女の子に対し酷く嫌悪と苛立ちを感じている自分に気が付いた時、それが恋心を自覚した瞬間だった。
その頃には逆にルゥカにちょっかいを出してくる男子が増え出して、いつしかその行動は逆になっていた。
ルゥカは可愛い。
明るい艶々の栗毛に澄んだグリーンアイズ。
穏やかで柔らかい、ぽやぽやした雰囲気は男子の庇護欲を刺激した。
今までつるペタだった胸が日に日にブラウスを押し上げて行く様を周囲の男子どもが羨望の眼差しで見つめていたのを、当の本人は知らない。
ルゥカの気を引きたいのか恥ずかしがるルゥカを見たいのか、バカな奴らがルゥカにスケベな話をわざと聞かせようとする度にフェイトはルゥカの耳を塞いできた。
どうしてそんなバカの口から出た汚い言葉でルゥカの鼓膜を汚さなくてはならないのだ。
そう思ったフェイトは極力、ルゥカの耳に変な言葉が入らないように気を配って来たのであった。
その為にバカな奴と度々喧嘩になる。
幼い頃から聖騎士を目指して鍛錬してきたフェイトの敵ではなかったが、おかげで荒事にもすっかり慣れた。
そうして十六歳の時に準騎士の試験に合格し、同時に王都の聖女教会の聖騎士候補にも任じられた。
夢がかなった瞬間であった、が、同時に故郷を離れてルゥカとも離れるという事が確定した瞬間であった。
昔から嫁にしてくれと言い続けてきたルゥカ。
フェイトもまた、いつのまにかルゥカ以外の娘を嫁に貰うつもりはなかったのだ。
いっそルゥカも連れていくか?
そんな考えがフェイトの頭を過ぎる。
しかし互いにまだ十六。成人していない身で、しかも内定している聖女付きの聖騎士ともなると五年間は結婚は愚か交際も、強いては恋愛もご法度となる。
そんなルゥカに対しなんの責任も持てない自分が彼女を王都へと連れて行くなどと、あまりに無責任だ。
加えてあのぽやぽやなポンコツが都会で暮らし、自分の目の届かない場所で勝手にピンチになられては非常に困る。
───必ず迎えにくるから田舎で大人しく待っててくれ……と、プロポーズを告げるだけなら許されるだろうか。
そんな事を真剣に考えていたフェイトに、次に会ったルゥカがとんでもない事を口にした。
「私も王都に行くから!」
しまった。どこで王都に行く事を知られたのだろう。
そしてポンコツのくせに無駄に行動力があるということを忘れていた。
聞けばルゥカの祖母も王都行きを許したというではないか。
ルゥカが王都で暮らす事に不安は感じないのかと、フェイトが彼女の祖母に抗議すると、
「あんたが一緒なんだ。何を不安に感じる事がある?これまで通り、全力でルゥカを守ってくれるんだろ?」
としたり顔で返された。
さすがは昔聖女教会で長年メイド長を務めていただけの事はある人だ。
山崩れの慰霊での聖女の訪問もルゥカの祖母が一役買ったと聞いている。
とにかくルゥカが聖女教会でメイドとして働くのは既に決まった事で、今更覆すなんて信用問題に関わると言われしまった。
まぁ本当はルゥカと離れずに済むと、どこかほっとした自分がいる事をわかっているフェイトであったが。
しかし一緒に王都に行くとなると、フェイトの行動に迷いはなかった。
ルゥカの住むアパートは当然自分のすぐ側に決め、メイドとして働き出したルゥカにちょっかいを出そうとする騎士や下男や周辺の男共を片っ端から牽制、または腕力にものを言わせ追い払ってきた。
それこそルゥカの友人となったメイドのドリーに呆れられるくらいに。
だがルゥカを守る事に、文句を言われる筋合いはない。
騎士として真面目に務め、王都に来て一年で正聖騎士に叙任された。
同じく聖女付きの先輩騎士たちに、五年間の恋愛ご法度でも隠れてのたまの息抜きは必要だぞと言われ、何度も娼館に誘われたがその度に断った。
先輩たちは、規則は規則だが騎士とて人間だ。しかも若い盛りの男子に教会側も見て見ぬふりをしてくれると諭されても、頷く気持ちにはなれなかった。
規則を破る事を簡単に許してしまう自分になりたくなかったし、
自分へと一心に心を寄せてくれるルゥカを裏切りたくもなかった。
それに、触れたいのはルゥカだけだ。
今だって結構必死に堪えている自分がいる。
あのポンコツは何度くっ付くなと制しても無防備に体を寄せてくる。
その度に自制して己を律してきたのだ。
五年間の縛りがある自分とは違い、ルゥカは自由だ。
王都に来てますます綺麗になり、世界も広がったルゥカを縛りつけてはいけない。
五年間待ってろ、なんて言葉を簡単に言ってはいけないとフェイトは思っていた。
自分でもくそ真面目過ぎるとは思うが、簡単な口約束やいずれ結婚するするといい続ける詐欺のような状態も良くないと思ったのだ。
だが、その思いと裏腹にルゥカを束縛する気持ちは抑えられない。
それなのに聖女の騎士である限り、ルゥカを優先する事が出来ない自分がもどかしかった。
ルゥカの身に何か起こった時、何も知らずに駆けつけてやれない状態になるのも恐ろしかった。
聖女を守る聖騎士である誇りとルゥカを一番に出来ない自分との間で葛藤した。
だからフェイトは、
倫理的な批判は承知の上で、一度だけルゥカに触れた。
教会に勤める者たちで呑み会があった日、初めて呑んだ酒に酔いつぶれたルゥカにキスをした。
そして、自分の魔力でマーキングをしたのだ。
ルゥカの中に自分の魔力を入れ、その消える事なく残った残滓が目印となるマーキング。
これがあればルゥカが何処にいようが必ず駆けつけられる。
そんなに魔力量が多いわけではないから転移魔法は使えないが、それでもルゥカの居場所さえ分かれば、もしくは自分から距離が離れて行ってるとわかれば対処の仕様がある。
そうやってその時々で対処しながらなんの約束も出来ないまま、ルゥカを守り、ルゥカの側で生きてきた。
あともう少し、あともう少しで五年の縛りから抜け出せる。
やっとルゥカに、思いを告げてプロポーズが出来る、そう思っていた矢先に晴天の霹靂が訪れた。
ドリーはよほど急いで走って来たのだろう、肩で息をしてフェイトに告げた。
「フェイトっ……!ルゥカを止めて!あの子、盛大な勘違いから迷惑を掛けた男の人と何処かに行こうとしているのっ!!」
瞬間、足を踏み出していた。
走りながら理解が追いつくというほど、フェイトは瞬発的に走り出していたのだった。
恐れていた事が現実に起こったのかもしれない。
ルゥカが一心に想ってくれていた事は知っているが、何の約束も出来ない自分より、分かりやすく愛を囁いて触れてくれる相手の方が良くなったとしても彼女を責める事は出来ない。
だからこそそんな相手が現れる事を恐れていたのだが、それがとうとう現実に訪れたのかと思うと焦りと共に身勝手な怒りもわいてくる。
心惹かれる相手なのかもしれないが、どうしてそんな簡単によく知らない男に着いて行けるのかという怒りが。
どうしてそんな危機感のない行動が出来るのかと。
結局は間に合い、ルゥカを止めた上で相手を見る事が出来たのだが。
そしてドリーに勧められ、二人きりで話しをし始めた時にフェイトはルゥカの口からとんでもない言葉を聞かされる。
「フェイトのコダネを!コダネを私に頂戴っ!!」
───ルゥカは、こいつは今、なんと言った?
コダネ?コダ…まさか子種の事ではないよな?
そんな事を考えたフェイトが、ようやく押し出せた言葉はこれであった。
「……………………………………………………は?」
その後のルゥカの反応では、残念な事にコダネはやり子種で間違いないようだ。
だけどルゥカは子種がなんたるかはわかっていない様子だった。
しかもそれを他の男に聞かせたという。
フェイトは思わず頭を抱えたくなった。
いや気がつけば実際に頭を抱えていた。
それなのにルゥカはただ訳も話さず子種だけをくれという。
───子種が何かもわかってない様子で何を言う!!
フェイトは子種が何たるかを説明しようとしたが上手い言葉が見つからない。
困り果てている時にドリーがやって来た。
そして自分がルゥカに性教育を叩き込むと言う。
若干不安になるが、ここは同性であるドリーに任せた方がいいだろう。
どうせ自分じゃ上手く説明出来ない。
ドリーに釘を刺された通り、実地になってしまうのは間違いない。
そうしてフェイトはルゥカをドリーに託した。
それから仕事を終え、夜番の仲間と交代してアパートへと帰る。
簡単なものしか作れないが夕食も用意してルゥカの帰りを待った。
が、待てど暮らせど帰って来ない。
心配になって魔力を辿ると方向的に王都の繁華街にいる事が分かる。
そろそろ迎えに行くかと考えた時に、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると……ルゥカを連れて行く時にドリーが言った通り、茹でダコになったルゥカがそこにいた。
涙目になり、フェイトと目が合った途端に俯いてしまう。
───一体何を聞かされたんだ。いや見たのか?
と思ったフェイトに、ルゥカを連れ帰ったドリーが言った。
「ちゃぁぁんと、子作りがどういったものが叩き込んで、オトナの階段をマッハで登らせたからね♪あとはあんたの仕事。この茹でダコちゃんの処理を頼むわね~」
と、ルゥカの背中をドンと軽く押した。
そんなに強い力ではないと思うが、今のルゥカは茹でダコでフニャフニャだ。
あれよあれよとフェイトの胸に飛び込む形となった。
フェイトは難なくルゥカを抱きとめる。
それをニヤリと見届けて、ドリーは「じゃあね~」と言って去って行った。
後に残されたフェイトと茹でダコ。
「まぁとりあえず部屋に入ろう」
フェイトがそういうと、ルゥカは顔が上げられないのか俯いままで頷く。
そうしてフェイトはフニャフニャの体を支えながら、部屋の扉をバタンと閉めた。
───────────────────────
次回、ようやく二人で向き合います。
聖女様を辛そうに見ていたフェイトの心情もわかりますよ。
あと2~3話(曖昧)で最終話です。
「……すげぇ………」
故郷で起きた山崩れで慕っていた従兄を亡くし、慰霊のために訪れた教会で鎮魂歌を歌う聖女を見た。そして心が震えたのだ。
その時まだ五歳であったフェイトに聖女という存在が何なのか、何を背負い何を捧げて生きているのかは分からなかったが、ただこの尊い人を守れる人間になりたい、そう思ったのであった。
「……おれ、しょうらいは、ぱらでぃんになって、せいじょさまをおまもりする……」
と思わずそう呟いた時、引き会わされたばかりだったルゥカが「せいじょさま、よろこぶね!」と言って笑った。
それまで聖女を夢中になって見つめていたフェイトだが、なぜかルゥカのその笑顔の方が印象的に感じたのを今でも覚えている。
「フェイトだいすき!」
「おおきくなったらぜったいにフェイトのおよめさんになる!」
生家の斜向かいに住んでいたルゥカには不思議なくらい昔から懐かれていた。
山崩れで両親を一度に亡くした寂しさもあったのだろう。
祖母に引き取られ新しい区域に移った不安もあったのだろう。
とにかく子供ながらに依存されているとわかるほどに、ルゥカはフェイトにベッタリであった。
フェイトの両親は領主の屋敷に奉公していて共働きであったし、その為にルゥカの祖母に預けられる事もしばしばあった。
だから否が応なしに一緒にいる事になったのも、その要因であったと思う。
ルゥカはとにかく寝ても覚めてもフェイトの側に居たがった。
「まぁ今だけさ。ルゥカも大きくなったら世界が広がって同性の友達が出来るよになったら、自然とアンタから離れていくよ」
いつしかルゥカの祖母がそう言った。
フェイトもそうなんだろうな…とぼんやり思ったが、その時一抹の寂しさを感じた気がした。
その感情が何なのか分からず終いでその日を意識していたが、結局そんな日は訪れなかったのだった。
顔の良さからか昔から女の子によく付き纏われた。
だがその度にルゥカがどこに居ても直ぐに飛んで来てその女の子たちと舌戦を繰り広げた。
フェイトを取られまいと必死になるルゥカに腹を立てて殴ろうとする相手もたまにいて、その度にフェイトはルゥカを庇ったりもしたものだ。
しかしルゥカを殴ろとした女の子に対し酷く嫌悪と苛立ちを感じている自分に気が付いた時、それが恋心を自覚した瞬間だった。
その頃には逆にルゥカにちょっかいを出してくる男子が増え出して、いつしかその行動は逆になっていた。
ルゥカは可愛い。
明るい艶々の栗毛に澄んだグリーンアイズ。
穏やかで柔らかい、ぽやぽやした雰囲気は男子の庇護欲を刺激した。
今までつるペタだった胸が日に日にブラウスを押し上げて行く様を周囲の男子どもが羨望の眼差しで見つめていたのを、当の本人は知らない。
ルゥカの気を引きたいのか恥ずかしがるルゥカを見たいのか、バカな奴らがルゥカにスケベな話をわざと聞かせようとする度にフェイトはルゥカの耳を塞いできた。
どうしてそんなバカの口から出た汚い言葉でルゥカの鼓膜を汚さなくてはならないのだ。
そう思ったフェイトは極力、ルゥカの耳に変な言葉が入らないように気を配って来たのであった。
その為にバカな奴と度々喧嘩になる。
幼い頃から聖騎士を目指して鍛錬してきたフェイトの敵ではなかったが、おかげで荒事にもすっかり慣れた。
そうして十六歳の時に準騎士の試験に合格し、同時に王都の聖女教会の聖騎士候補にも任じられた。
夢がかなった瞬間であった、が、同時に故郷を離れてルゥカとも離れるという事が確定した瞬間であった。
昔から嫁にしてくれと言い続けてきたルゥカ。
フェイトもまた、いつのまにかルゥカ以外の娘を嫁に貰うつもりはなかったのだ。
いっそルゥカも連れていくか?
そんな考えがフェイトの頭を過ぎる。
しかし互いにまだ十六。成人していない身で、しかも内定している聖女付きの聖騎士ともなると五年間は結婚は愚か交際も、強いては恋愛もご法度となる。
そんなルゥカに対しなんの責任も持てない自分が彼女を王都へと連れて行くなどと、あまりに無責任だ。
加えてあのぽやぽやなポンコツが都会で暮らし、自分の目の届かない場所で勝手にピンチになられては非常に困る。
───必ず迎えにくるから田舎で大人しく待っててくれ……と、プロポーズを告げるだけなら許されるだろうか。
そんな事を真剣に考えていたフェイトに、次に会ったルゥカがとんでもない事を口にした。
「私も王都に行くから!」
しまった。どこで王都に行く事を知られたのだろう。
そしてポンコツのくせに無駄に行動力があるということを忘れていた。
聞けばルゥカの祖母も王都行きを許したというではないか。
ルゥカが王都で暮らす事に不安は感じないのかと、フェイトが彼女の祖母に抗議すると、
「あんたが一緒なんだ。何を不安に感じる事がある?これまで通り、全力でルゥカを守ってくれるんだろ?」
としたり顔で返された。
さすがは昔聖女教会で長年メイド長を務めていただけの事はある人だ。
山崩れの慰霊での聖女の訪問もルゥカの祖母が一役買ったと聞いている。
とにかくルゥカが聖女教会でメイドとして働くのは既に決まった事で、今更覆すなんて信用問題に関わると言われしまった。
まぁ本当はルゥカと離れずに済むと、どこかほっとした自分がいる事をわかっているフェイトであったが。
しかし一緒に王都に行くとなると、フェイトの行動に迷いはなかった。
ルゥカの住むアパートは当然自分のすぐ側に決め、メイドとして働き出したルゥカにちょっかいを出そうとする騎士や下男や周辺の男共を片っ端から牽制、または腕力にものを言わせ追い払ってきた。
それこそルゥカの友人となったメイドのドリーに呆れられるくらいに。
だがルゥカを守る事に、文句を言われる筋合いはない。
騎士として真面目に務め、王都に来て一年で正聖騎士に叙任された。
同じく聖女付きの先輩騎士たちに、五年間の恋愛ご法度でも隠れてのたまの息抜きは必要だぞと言われ、何度も娼館に誘われたがその度に断った。
先輩たちは、規則は規則だが騎士とて人間だ。しかも若い盛りの男子に教会側も見て見ぬふりをしてくれると諭されても、頷く気持ちにはなれなかった。
規則を破る事を簡単に許してしまう自分になりたくなかったし、
自分へと一心に心を寄せてくれるルゥカを裏切りたくもなかった。
それに、触れたいのはルゥカだけだ。
今だって結構必死に堪えている自分がいる。
あのポンコツは何度くっ付くなと制しても無防備に体を寄せてくる。
その度に自制して己を律してきたのだ。
五年間の縛りがある自分とは違い、ルゥカは自由だ。
王都に来てますます綺麗になり、世界も広がったルゥカを縛りつけてはいけない。
五年間待ってろ、なんて言葉を簡単に言ってはいけないとフェイトは思っていた。
自分でもくそ真面目過ぎるとは思うが、簡単な口約束やいずれ結婚するするといい続ける詐欺のような状態も良くないと思ったのだ。
だが、その思いと裏腹にルゥカを束縛する気持ちは抑えられない。
それなのに聖女の騎士である限り、ルゥカを優先する事が出来ない自分がもどかしかった。
ルゥカの身に何か起こった時、何も知らずに駆けつけてやれない状態になるのも恐ろしかった。
聖女を守る聖騎士である誇りとルゥカを一番に出来ない自分との間で葛藤した。
だからフェイトは、
倫理的な批判は承知の上で、一度だけルゥカに触れた。
教会に勤める者たちで呑み会があった日、初めて呑んだ酒に酔いつぶれたルゥカにキスをした。
そして、自分の魔力でマーキングをしたのだ。
ルゥカの中に自分の魔力を入れ、その消える事なく残った残滓が目印となるマーキング。
これがあればルゥカが何処にいようが必ず駆けつけられる。
そんなに魔力量が多いわけではないから転移魔法は使えないが、それでもルゥカの居場所さえ分かれば、もしくは自分から距離が離れて行ってるとわかれば対処の仕様がある。
そうやってその時々で対処しながらなんの約束も出来ないまま、ルゥカを守り、ルゥカの側で生きてきた。
あともう少し、あともう少しで五年の縛りから抜け出せる。
やっとルゥカに、思いを告げてプロポーズが出来る、そう思っていた矢先に晴天の霹靂が訪れた。
ドリーはよほど急いで走って来たのだろう、肩で息をしてフェイトに告げた。
「フェイトっ……!ルゥカを止めて!あの子、盛大な勘違いから迷惑を掛けた男の人と何処かに行こうとしているのっ!!」
瞬間、足を踏み出していた。
走りながら理解が追いつくというほど、フェイトは瞬発的に走り出していたのだった。
恐れていた事が現実に起こったのかもしれない。
ルゥカが一心に想ってくれていた事は知っているが、何の約束も出来ない自分より、分かりやすく愛を囁いて触れてくれる相手の方が良くなったとしても彼女を責める事は出来ない。
だからこそそんな相手が現れる事を恐れていたのだが、それがとうとう現実に訪れたのかと思うと焦りと共に身勝手な怒りもわいてくる。
心惹かれる相手なのかもしれないが、どうしてそんな簡単によく知らない男に着いて行けるのかという怒りが。
どうしてそんな危機感のない行動が出来るのかと。
結局は間に合い、ルゥカを止めた上で相手を見る事が出来たのだが。
そしてドリーに勧められ、二人きりで話しをし始めた時にフェイトはルゥカの口からとんでもない言葉を聞かされる。
「フェイトのコダネを!コダネを私に頂戴っ!!」
───ルゥカは、こいつは今、なんと言った?
コダネ?コダ…まさか子種の事ではないよな?
そんな事を考えたフェイトが、ようやく押し出せた言葉はこれであった。
「……………………………………………………は?」
その後のルゥカの反応では、残念な事にコダネはやり子種で間違いないようだ。
だけどルゥカは子種がなんたるかはわかっていない様子だった。
しかもそれを他の男に聞かせたという。
フェイトは思わず頭を抱えたくなった。
いや気がつけば実際に頭を抱えていた。
それなのにルゥカはただ訳も話さず子種だけをくれという。
───子種が何かもわかってない様子で何を言う!!
フェイトは子種が何たるかを説明しようとしたが上手い言葉が見つからない。
困り果てている時にドリーがやって来た。
そして自分がルゥカに性教育を叩き込むと言う。
若干不安になるが、ここは同性であるドリーに任せた方がいいだろう。
どうせ自分じゃ上手く説明出来ない。
ドリーに釘を刺された通り、実地になってしまうのは間違いない。
そうしてフェイトはルゥカをドリーに託した。
それから仕事を終え、夜番の仲間と交代してアパートへと帰る。
簡単なものしか作れないが夕食も用意してルゥカの帰りを待った。
が、待てど暮らせど帰って来ない。
心配になって魔力を辿ると方向的に王都の繁華街にいる事が分かる。
そろそろ迎えに行くかと考えた時に、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると……ルゥカを連れて行く時にドリーが言った通り、茹でダコになったルゥカがそこにいた。
涙目になり、フェイトと目が合った途端に俯いてしまう。
───一体何を聞かされたんだ。いや見たのか?
と思ったフェイトに、ルゥカを連れ帰ったドリーが言った。
「ちゃぁぁんと、子作りがどういったものが叩き込んで、オトナの階段をマッハで登らせたからね♪あとはあんたの仕事。この茹でダコちゃんの処理を頼むわね~」
と、ルゥカの背中をドンと軽く押した。
そんなに強い力ではないと思うが、今のルゥカは茹でダコでフニャフニャだ。
あれよあれよとフェイトの胸に飛び込む形となった。
フェイトは難なくルゥカを抱きとめる。
それをニヤリと見届けて、ドリーは「じゃあね~」と言って去って行った。
後に残されたフェイトと茹でダコ。
「まぁとりあえず部屋に入ろう」
フェイトがそういうと、ルゥカは顔が上げられないのか俯いままで頷く。
そうしてフェイトはフニャフニャの体を支えながら、部屋の扉をバタンと閉めた。
───────────────────────
次回、ようやく二人で向き合います。
聖女様を辛そうに見ていたフェイトの心情もわかりますよ。
あと2~3話(曖昧)で最終話です。
174
あなたにおすすめの小説
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ
しゃーりん
恋愛
聖女が代替わりするとき、魔力の多い年頃の令嬢十人の中から一人選ばれる。
選ばれる基準は定かではなく、伝聞もない。
ひと月の間、毎日のように聖堂に通い、祈りを捧げたり、奉仕活動をしたり。
十人の中の一人に選ばれたラヴェンナは聖女になりたくなかった。
不真面目に見えるラヴェンナに腹を立てる聖女候補がいたり、聖女にならなければ婚約解消だと言われる聖女候補がいたり。
「聖女になりたいならどうぞ?」と言いたいけれど聖女を決めるのは聖女様。
そしていよいよ次期聖女が決まったが、ラヴェンナは自分ではなくてホッとする。
ラヴェンナは聖堂を去る前に、聖女様からこの国に聖女が誕生した秘話を聞かされるというお話です。
聖女の妹、『灰色女』の私
ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。
『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。
一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる