【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人

キムラましゅろう

文字の大きさ
4 / 22

シンボルツリーの側にて

しおりを挟む
「“ジルトニアの木”の天辺に子猫が登って降りられなくなっているんだって……!」

メグルカが在籍するBクラスのクラスメイトが血相を変えて教室に飛び込んで来た。

“ジルトニアの木”というのは、十数代前の王妃の祖国であったジルトニア大公国の大公の城にあったプラタナスの苗木を、その王妃自らが魔法学校創立の記念として植えた学校のシンボルツリーだ。

樹齢三百年を優に超え、おまけに樹高三十メートルも超える巨木である。
そんな木の天辺に子猫がいるなんて……。

メグルカはそのクラスメイトである女子生徒に訊ねた。

「どうして子猫がそんな所に登る羽目になったの?」

クラスメイトは眉尻を下げて答える。

「それはわからないんだけど、その場に居た人に聞いた話だとなんでも虫か小鳥を追いかけているうちに先端部分まで上り詰めてしまったんじゃないかって」

「なるほど……それならそこまで月齢の低い子猫でもないのね?」

「私が下から見上げて見た感じだと多分、生後四ヶ月ほどのオス猫だと思うわ。ウチは家族みんな猫好きで三匹の猫を子猫の時から飼ってるから間違いないと思うんだけど……」

「わかったわ。とにかく子猫を助けないと、先生たちに相談は?」

「それがね、Aクラスの男子たちが子猫を助けるために集まっているの」

「Aクラスの?」

Aクラスといえばレイターのクラスだ。
とにかく見に行ってみようという事になり、メグルカは友人のフィリアやクラスメイトたちと校庭へ出た。

“ジルトニアの木”の側には既に沢山の生徒たちが集まっていた。
Aクラスの男子生徒の声が聞こえてくる。

「子猫は先端に近い枝が細くなっている部分にしがみついているぞ。人の体重を支える事ができる枝まで何とか登ったとしても、そこからは手を伸ばしてもまだ届かなさそうだ」

下から子猫と木の様子を見上げ、眉を顰めながらAクラスの男子生徒の一人がそう言った。
その時、メグルカの耳にレイターの声が届く。

「登る必要はないだろう。術を使って降ろせばいい」

───……レイだわ

やはりレイターも子猫救出作戦に加わっていたのか。
動物好きな彼のこと。きっと我先にと子猫を助けに駆け付けると思っていたがまさしく、であった。

Aクラスの他の男子生徒がレイターに言う。

「だけど遠隔で子猫に害を与える事なく木から引き剥がした上で、落ちないように浮遊させ、細かい枝からも保護しながら降ろすんだぞ?地味なようで緻密な魔力コントロールが必要になる。……レイター、いけるか?」

そう言った級友にレイターは力強く頷いて見せる。

「大丈夫だ。任せてくれ」

そうしてレイターはそこに集まった生徒たちが見守る中、魔術を使って難なく子猫を救い出したのであった。
さすがはその場に集まった生徒たちの中で唯一、魔術師資格を持つだけのことはある。

腕に抱き寄せた子猫に、レイターが優しく言う。

「こら。わんぱくなチビめ。危ないことをしちゃダメだろう?」

そんなレイターと子猫の元に、Aクラスの男子生徒たちが喜び勇んで駆け寄った。

「やったなエルンスト!」
僕はぼかぁレイターくんならやってくれると信じていたよ!」
「おいチビにゃんこ、助かって良かったなぁ!」
「エルンスト様♡男が惚れる漢!」

そしてレイターは頭をガシガシと撫でられたり抱きつかれたりと、クラスメイトたちに揉みくちゃにされる。
Aクラスの男子たちの仲の良さが伺える微笑ましい光景であった。

一方でその様子を眺める女子生徒たち。
Bクラスのクラスメイトたちはメグルカと同じように笑いながら、だけど他のクラスや下級生の中には頬を染めて見る者や興味を失くして去ってい者など様々であった。
そして中には妬み嫉みの眼差しをメグルカに向けて来る者もいた。

だがメグルカはそんな視線を意に介する事もなく平然としてレイターたちの元へと歩み寄る。

「レイ。その子猫のことだけど」

近寄りながらそう言ったメグルカを見て、レイターの友人たちが
「あ、エルンスト。嫁さんが来たぞ」
「スミスちゃんだ」
と言ってレイターを解放した。

レイターは子猫を抱いたままメグルカの方へと数歩駆け寄る。

「メグ、子猫がどうかしたか?」

「その子猫を引き取りたいって、私のクラスメイトが言っているの」

メグルカに子猫の危機を伝えた猫好きのクラスメイトが猫が助かったらウチで飼いたいと申し出てくれたのだ。

「そうよね?」
とメグルカが確認すると、そのクラスメイトはメグルカとレイターの側にきて「もちろん。我が家の四匹目に迎え入れるわ」と頷いた。

それを聞いたレイターが嬉しそうに破顔する。

「良かった……!コイツの引き取り手を探さなくてはと思っていたんだ。ウチは母が猫アレルギーだから飼えないからな。ホントに良かったよ。ありがとう」

そうしてレイターは子猫に「可愛がってもらえよ」と言ってからメグルカのクラスメイトに渡した。
子猫を受け取るクラスメイトの頬が見るまに赤くなってゆく。
それからポツリと「ワタシモ、カワイガッテモライタイ…」とつぶやいた。

そして子猫を引き取るそのクラスメイトに、
「はじめて心の底からメグルカが羨ましいと思ってしまったわ」と言われたのであった。

その言葉に対しすかさずフィリアが、
「人のものに横恋慕なんてみっともない真似はよしなさいよ?」とそのクラスメイトに釘を刺していたのだが、なんとも微妙な空気が流れる。

メグルカはもうすっかり慣れっこになってしまっているのもあり、とくに何も言わずにスルーしたけど。

そういえばあの場に先日レイターに告白したというヴァレリー・ジョンストンも居た。
だけどレイターに近寄ることもなく遠巻きに眺めていたのがメグルカには不思議に思えた。

以前の彼女なら、男子生徒に混ざってレイターの近くで騒いでいたはずである。

どういった心境の変化か。
まぁ多分レイターが告白の返事をきちんとしたのだろう。
返事を聞かなければフラレていないと言っていた彼女だから、断りの返事をされたのならもうそうも言っていられないだろうから。

それにしてもヴァレリー・ジョンストンが少しだけ怯えた目をレイターに向けていたような気がしたけど……
多分気のせいだろう。












しおりを挟む
感想 385

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

処理中です...