【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人

キムラましゅろう

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二人の休日①

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「いつでも会えたとしても二十四時間ずっと一緒にいられるわけじゃないんですから。今日のメグには今日しか会えないんですよ」

毎日の登校はもちろん、デートの時も必ず家まで迎えに来てくれるレイターがスミス家のリビングに入ってきた。
その姿を見て、メグルカの表情が自然と綻ぶ。

「ごきげんようレイ、今日は少しお迎えが早めね?」

メグルカがレイターの元へと行きそう告げると、彼も柔らかな笑みを浮かべて言った。

「やぁメグ。今日も一段と可愛いね。そのスカートもヘアスタイルもよく似合ってる。早く来たのは……魔術師の勘、かな?今日は早めに来て正解だったよ。まさかロワニー兄さんに誘惑されているだなんて」

その言葉に対し、メグルカはくすくすと笑う。

「ふふふ、誘惑だなんて。でも確かにそうね、東の街や騎士団での面白いお話を餌に誘われていたわ。でももちろん、レイとの約束の方が優先よ?」

「わかってるよ」

メグルカの手を取り優しくそう答えるレイター。
微笑み合って楽しいデートの始まりに少し高揚する二人に、メグルカの従兄であるロワニーが言った。

「相変わらず仲睦まじい様子で何よりだ。すまんすまん、デートの邪魔をするような野暮な真似をした」

「ふふ、ロゥ兄さんたら」
「わかっていただければいいんです」

メグルカとレイターはそれぞれロワニーにそう答えた。
そして「楽しんでおいで。今日は叔父貴おじき(メグルカの父)の家で夕食もお呼ばれする事になってるから、夕食の時に二人ともまた会おう」
と言うロワニーの言葉に見送られながら、メグルカとレイターは家を出た。

デートが終わり、メグルカをきちんと家まで送り届けたレイターがそのままスミス家で夕食を食べる習慣があるのも知っての上での、ロワニーのその発言であった。





二人でよく行く映画館は王都でも最も賑やか界隈の一画にある。

五十年以上の歴史を誇る老舗の映画館で、幼い頃から母たちに連れられてよく映画を観に訪れた。

今日はメグルカが制作発表があった時から封切りを楽しみにしていた純文学が原作の映画作品を見るのだ。
前売りチケットが発売されてすぐにレイターがチケットを手に入れてくれていた。

将来有望な魔術師であるレイターは既に、術式の構築などを魔法取り扱い店などに売って収入を得ている。
だからデートの費用はいつも、レイターが支払ってくれていた。
毎度毎回申し訳ないと、メグルカもお小遣いをやりくりしてデート代を出そうとしているのだが、レイターは「メグと楽しい時間を過ごすために小銭を稼いでいるんだから気にしなくていいんだよ」とやんわりと言いつつも譲らない。

スミスとエルンスト、両家の母親たちは「男に格好をつけさせてあげるのも度量の大きな女の嗜みのひとつよ」などと奥が深い事を言って笑う。
そして「気にすることはないわ。どうせ来年には結婚して財布の中身は一緒になるんだから」とも言って、母たちはいつも生暖かい目で笑みを浮かべるのだった。

昔からそうだ。
メグルカの周りの者はみんなメグルカを甘やかす。
愛されている、大切にされている。
それがちゃんとわかる人間に、感謝できる人間になるように諭し、躾け、育ててくれた。

だからメグルカは自分を大切にし、周りの人間を大切にするのだ。
そして自分を愛してくれている人達を決して裏切らない。
その人たちに誇れる、その人たちに誇って貰える自分になる。

それがメグルカが自身の内面も外見も研鑽する努力を怠らない原動力となっているのだった。

“大切な誰かのために”
人はそれだけで強くなれるし、輝ける。
メグルカはそう思っていた。

その“大切な誰か”の最たる人物がレイターなのだ。



上映前にドリンクを買い、目的の映画のスクリーンホールへと向かう。

その途中でふいに声をかけられた。

「あれ?スミスさん?」

相手が誰だか分からず返事をする前に声の主の方へ視線を向けると、そこにはBクラスのクラスメイト(男子)が同じ歳の頃の女の子と一緒に立ってこちらを見ていた。






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次の更新は明日の夜です。


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