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夫が死んでせいせいした。
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夫が死んで、私は心の底からせいせいしていた。だが、葬式でニヤニヤ笑うわけにもいかず、夫を亡くした悲劇の妻を演じて葬儀に参列して下さった方々を悲しみを堪えるような表情で出迎えた。本心を隠した完璧な演技だったと思う。実は、葬式に、夫の不倫相手の女が素知らぬ顔で参列していたが、こちらも、不倫相手がいると気づいていないように葬儀中、振舞っていた。
そうなのだ、夫は不倫していて、ここ数年夫婦仲は冷え切っていた。だから、夫が死んでも、本気で悲しくなかったし、離婚のために浮気の証拠を集めるという面倒なことをしなくても、夫と別れられたのは、幸運だと思っていた。葬式が終わったら、死んだ夫名義の預貯金等を私にする手続きをしなければならないようだが、夫婦共同の預金に当座の生活費は残っていたから焦ることはなかった。演技で悲しいふりをするのは思ったよりも疲れるようで、火葬が終わって、夫の骨壺を持って家に帰ると、喪服がしわになるなと思いつつ、着替えずにベットに横になった。
「!」
息苦しくて、口を開けた。だが、口の中に入って来たのは空気ではなく水だった。
「ごぼっ! な、な!?」
私は自分が水の中に顔を突っ込まれていると気づいて、慌てて顔を上げようとして暴れた。
「暴れるな、大人しく、彼の元に逝きなさいよ」
だ、誰!?
私の頭を掴んで水の中に突っ込んでいる相手の声が聞こえた。人間、死に物狂いになるとバカ力がでるものだ。私は力づくで水から顔を上げて、私の頭を掴んでいた相手の腕をつかみそれを引っ張って逆に私が馬乗りになって相手を組み伏せていた。格闘技の経験はない。夢中だった。死にたくないという本能的反撃が形勢逆転につながった。
そこは、うちの浴室だった。葬儀で疲れた私をここまで運んで、浴槽に水を張って溺死させようとしたようだ。犯人は、夫の浮気相手の女だった。
「なに、あんたなの?」
私は馬乗りになって押さえつけた犯人を見て、興奮が一気に冷めた。
「なに? まさか、あの人が死んだのは私のせいだと思っているの? あれは、事故よ」
「・・・あの人が死んだのに、なんであんたが生きてるのよ」
「は?」
「あのひと、あなたと別れられないってずっと悩んでいた。あなたがいなけでば、私があの人と一緒になって幸せになれたのよ」
「ちょっと、彼は死んだのよ、いまさらなに?」
「あんた彼と結婚したんでしょ。だったら、あんたも死んで彼について行きなさいよ」
「あんた、どうやって家の中に入ったの?」
「彼から、合鍵をもらったからじゃない。知ってる? この家で、何度も彼と愛し合ったの。それに、あれだけ悲しそうにしてたなら、あんたも彼についていけばいいじゃない」
「あら、そんなに悲劇の未亡人演技が上手かった? 私と彼の関係は、もう何年も冷めてたわよ。彼が死んでせいせいしていたくらいよ」
「せいせい?」
「だから、私は彼に会いたいと思ってないから、あんたが彼に会いに行きなさいよ」
私は、不倫女の首を絞めた。彼女は抵抗しなかった。警察には、夫の不倫女が私を殺そうとしたので、つい抵抗して、首を絞めてしまったと説明した。正当防衛ではなく過剰防衛に問われたが、私が襲われたのは事実なので、執行猶予がついて私は自由になった。
そうなのだ、夫は不倫していて、ここ数年夫婦仲は冷え切っていた。だから、夫が死んでも、本気で悲しくなかったし、離婚のために浮気の証拠を集めるという面倒なことをしなくても、夫と別れられたのは、幸運だと思っていた。葬式が終わったら、死んだ夫名義の預貯金等を私にする手続きをしなければならないようだが、夫婦共同の預金に当座の生活費は残っていたから焦ることはなかった。演技で悲しいふりをするのは思ったよりも疲れるようで、火葬が終わって、夫の骨壺を持って家に帰ると、喪服がしわになるなと思いつつ、着替えずにベットに横になった。
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「なに、あんたなの?」
私は馬乗りになって押さえつけた犯人を見て、興奮が一気に冷めた。
「なに? まさか、あの人が死んだのは私のせいだと思っているの? あれは、事故よ」
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