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しおりを挟むエドナとロートスの交渉初日。
ロートス国王は極度の衰弱により出席が叶わず、国王の意向を汲んだエウレカが、代行も兼ねて話し合いに臨んだ。
エドナ側の代表は、イゴルを中心とした四名。
彼らはロートスに対し、停戦し、シャロン王女を引き渡す条件として、婚姻の取り決めに対する違約金に加え、エウレカから被害を受けた分の補償を要求した。
しかしロートス側からすれば、一方的な婚約破棄については自分たちに非があるものの、国王がそう決断するに至ったのはエドナ側への不信感からである。
よって、二つ返事など到底できるはずもない。
交渉は平行線を辿った。
「てっきりエドナ側は、セシル王子が出て来るものだとばかり思っていましたが……交渉相手があのような小物では、正直拍子抜けですね」
マヌエルの側近──レノは毒づいた。
「そんなこと言うものじゃないよ。小物で結構。こちらとしてはやりやすくてなによりじゃないか」
マヌエルから窘められ、レノは口を尖らせた。
「だってどんな奴か見てみたいじゃないですか。嫉妬に狂って侵略戦争を起こし、挙げ句婚約者を拉致監禁して凌辱だなんて。人間のすることじゃない。ただの屑ですよ」
「おまえ、私と二人きりの時はいいが、外ではなにがあっても口を滑らすなよ。それと私の前でシャロン王女について言及する時は言葉を選べ」
マヌエルの目が鋭く光り、レノは口を閉ざして肩を竦ませた。
マヌエルは、エドナがロートスへ侵攻したという報告を受け、すぐさま国王及び重臣たちを説得にかかった。
その際に提出されたのは、エドナが侵攻に至った経緯についての詳細な情報と、エウレカが参戦することの意義と損益についての入念な試算。
マヌエルの用意周到さときたら、まるでこの時を待ちわびていたかのようだった。
いや、実際そうなのかもしれない。
レノが見る限りだが、ロートス国王との極秘の話し合いでシャロンとの婚約が結ばれるまで、マヌエルには無理矢理シャロンをどうこうしようという気はまったくなかった。
島国であるエウレカからすれば、地政学的に見てもロートスとの同盟は大変魅力的なのは事実だ。
それも書面だけの同盟でなく、婚姻によって結ばれる同盟は、より強固で信頼がおけるもの。
しかし想い合っている婚約者同士を引き裂こうなんて無粋な真似は、マヌエルのプライドが許さなかった。
レノはそういうマヌエルの性格をもどかしく思うこともあるが、相手の幸せを第一に考え、自制心を貫く彼の高潔さを誇らしくも思っていた。
だからこそ、褒められた形ではないが、マヌエルがシャロンと婚約を結んだと聞いた時は心から祝福した。
マヌエルは必死で平静を装っていたが、湧き上がる喜びを隠しきれないのか、時折口元が緩んでいるのがなんとも微笑ましかった。
しかし間諜からもたらされる情報は日に日にきな臭くなっていき、マヌエルの表情も険しくなっていった。
そしてその日は来てしまう。
急ぎ海軍を引き連れ上陸したマヌエルとレノが見たのは、目を覆いたくなるような城内の惨状。
そして、シャロンが拐われたと知ったマヌエルの怒りは凄まじかった。
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