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しおりを挟む激情に駆られるマヌエルは、自身も剣を手にし、瞬く間にロートス城を奪還した。
マヌエルは当初、エドナとの全面戦争も辞さない構えだった。
しかし地の利は明らかにエドナにあるのに加え、エウレカは大陸での戦闘経験がない。
マヌエルは既のところで冷静さを取り戻し、交渉の場を設けることにした。
「セシル王子がシャロン王女を無理矢理自国に連れ去ってから、まだそれほど経っていませんよね。それなのにこんなにあっさりと手放すなんて……それほどエウレカと事を構えるのが嫌なのか、それとも他になにか考えがあるんでしょうか」
それはマヌエルも思っていたことだった。
今回の、誹りを恐れない大胆なエドナの行動は、大陸を震撼させたといっても過言ではない。
そこまでして手に入れたシャロンをいとも簡単に手放すなんて、しでかした事の大きさからしても考えにくい。
「私はセシル王子がこのまま黙っているとは思えない。あのイゴルという男もなんだか臭うしね」
エドナの重臣ヘイルズ公爵と縁戚関係にあるというイゴル。
マヌエルは以前より、シャロンの悪評を流したのはヘイルズ公爵なのではないかと疑いを抱いていた。
「情報によるとヘイルズ公爵は、自分の娘をセシル王子に嫁がせるために、あの手この手と必死だったみたいですからね」
「ああ……それに加え、ロートス側には不可解なことも起こっている」
セシルとシャロンの間には、贈り物はおろか手紙を介した交流もなかったという。
しかし実際は違った。
健気にもシャロンは返事もよこさぬ婚約者に宛てて、贈り物や手紙を欠かさなかったというではないか。
悪評ならいくらでも流すことは可能だが、シャロン──一国の王女が正式な手順を踏んで、婚約者である他国の王子に贈ったものを、秘密裏に処分するのはどう考えても不可能だ。
届けるのはロートス国王から正式に任命された使者であり、相手が受け取ったことを確認しなければ帰国することは許されない。
しかし、もしもその使者がヘイルズ公爵の手に落ちていたとしたら?
「ロートス側にもヘイルズの手が及んでいたとするなら……今回エドナが起こしたこの戦争、あちらの大義名分は一切通用しなくなる」
そうなればすべてはひっくり返り、今度こそエドナは大陸中から非難され、長きに渡り大変な損害を被ることになるだろう。
いや、損害くらいで済めばいいが。
「さて、どうやって切り崩してやろうかな。まったく骨が折れるね」
「殿下、言ってる内容と表情が合ってませんよ」
例えるなら捕食者の顔とでも言おうか。
「そう?嫌だな、これからシャロン王女と食事だというのに」
「余計なお世話ですけど……シャロン王女は殿下の気持ちを受け入れてくれそうですか?」
「どうかな。だがそれよりも今は、彼女が自尊心を取り戻すことのほうが最優先だ」
──それはあなたが取り戻させるつもりでいるんでしょ
レノは思わず出かかった言葉を飲み込み、部屋を出て行くマヌエルの背中を見送った。
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