嘘つきな獣

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 セシルが去ったあと、数名の年若い女たちが部屋にやってきた。
 女たちはシャロンの前で一礼する。

 「本日より私たちが身の回りのお世話を担当いたします。なんなりとお申し付けください」

 「私の……世話?」

 「はい。そのように言われております」

 戦利品に世話など……しかもこんなに何人もの侍女をつける必要などどこにある。
 そこでシャロンはある考えに思い至る。
 (監視してるんだわ)
 せっかく連れ帰ったはいいが、自害や、逃げられでもしたらいい笑い者だ。
 そして捕虜を丁重に扱うのは対外的なイメージもいい。
 同盟国に対し今回のような侵略行為を行ったエドナにとっては、諸国からの批判を躱すため、今後の振る舞い方が重要となってくる。
 それを踏まえてのことなのだろう。
 女たちは水差しや茶の用意などを終えると再び一礼し、部屋を出て行った。
 ひとりになったシャロンはバルコニーへと足を向けた。

 太陽は陰り始め、海面を赤く染め上げていた。
 ロートスは、エドナに落とされてしまったのだろうか。
 シャロンの生まれ育ったあの城は今、この海のように赤い血で染まってしまったのか。
 これまでのシャロンの人生は、あの城の中がすべてだった。
 目の前の大海原を見ていると、自分の世界がどんなに小さかったかを思い知る。
 そして心の中は意外なほど静かで空虚だった。
 あまりにも色んな事が起こりすぎて、感情を司る器官がおかしくなってしまったのかもしれない。
 水平線の彼方に夕日が沈む頃、さっき部屋を整えてくれた侍女のひとりがやってきて、明かりを灯して行った。
 テーブルにはハムやチーズ、果物にパンなどといった軽食も用意されていたが、とても食べる気にはなれなかった。
 シャロンは奥の寝室へと足を運び、寝台に身体を沈めた。
 その途端、身体がまるで鉛のように重くなる。
 (すべてが、目が覚めたら終わる悪夢だったらいいのに)
 沈みゆく意識の片隅で思った。


 夢と現の間を彷徨っていたシャロンの耳に、僅かに離れた場所から音が聞こえた。
 そしてゆっくりと近付いてくる足音に、重たい瞼を必死で持ち上げる。
 寝台の軋む音と共に視界に映ったのは、自分を見下ろす青灰色の瞳。

 「ここでなにを……」

 「自分の城で何をしようが俺の勝手だろう」
 
 その言葉にシャロンは、自分の置かれた状況を思い出した。
 ロートスが落とされたかどうかもわからない状況ではあるが、ここでの立場は王女ではなく捕虜だ。
 例えどのように扱われたとしても耐えるしかない。
 恐怖に身体が震えた。
 捕らえられた女たちがどのような目に遭わされるのかくらい、シャロンだって知っている。
 窓から差し込む月の光を浴びるセシルの瞳はギラギラとして獰猛さを孕んでいた。
 騎士特有のゴツゴツとした手のひらがシャロンの頬を擦ったと思ったら、長い指が首筋を伝い、柔らかな膨らみへ下りた。

 「……痛っ!」

 握り潰されたかと思うほどの力で、セシルはシャロンの乳房を鷲掴みにした。
 遠慮なく指が食い込み、ジンジンと痛む。
 
 「どうかやめてください……お願い……」

 逃れようと必死で身を捩るシャロンの首をセシルの大きな手が掴んだ。

 「っ……」

 首元を圧迫され、身動きが取れない。
 生命の危険を感じ、華奢な身体は小刻みに震えだす。

 「エウレカの王子はよくて、俺には触れられるのも嫌か」
 
 「マヌエル王子との間にはなにもありません。私は婚姻前に身体を許すような、そんなはしたない真似はしません」

 「嘘をつけ。結婚直前に他の男に乗り替えるような女など信用できるか」

 「そんな──っ!」

 拘束していた手が離れたかと思ったら、派手に布地が裂ける音がして、ひんやりとした風が肌を撫でる。
 一瞬遅れ、衣服を破かれたことに気づいた。     
 本能的な危険を感じ、咄嗟に両手で身体を隠そうとすると、再び伸びてきたセシルの手に阻まれた。
 セシルはシャロンの両手を頭の上で縫い留め、覆いかぶさってきた。
 
 「いや……やめて……っ」

 抗議の声はセシルの唇によって封じられた。
 荒々しい態度からは想像もできない柔らかな唇。
 
 「んぅ……!」

 薄く開いた唇の間を熱い舌が割って入り、まるで生き物のように口腔内を這った。
 美しく並ぶ歯列を舌先でなぞり、逃げ惑うシャロンの舌を絡め取る。
 破談になる前、まだセシルの花嫁になるのだと思っていた頃。
 初めての口づけやその先は、当然彼とするものだと思っていた。
 けれど想像していたのはこんな乱暴なのではない。
 女性として、彼の妻として、お互いを慈しみ合う。そんな行為だ。
 押さえつけられた手首が軋むように痛む。
 怖くて悲しくて、泣き出したい気持ちに襲われた。

 「……泣くほど嫌なのか」

 唇を離したセシルがぼそりと呟く。
 シャロンの意思などお構いなしに乱暴しておいて、気持ちを窺うような事を聞くのはなぜなのか。
 シャロンはセシルの考えがわからず混乱した。
 
 「あっ!」

 ぬるり、と熱い舌がシャロンの膨らみを這い、胸の頂きを弾くように離れた。
 無意識に下腹部に力が入り、腰が反る。
 するとセシルは薄桃色の小さな突起を口に含み、舌先で刺激した。
 
 「ん……んぅ……!」

 初めて与えられる甘い刺激に鼻からくぐもった声が漏れる。
 セシルはまるで飴玉を舐めるように、突起を舌先で何度も転がし、吸い上げた。
 唇が離れ、ようやく終わったのかと安堵したのもつかの間、今度は反対の膨らみに熱が移る。

 「あ、あっ、いやぁ」

 シャロンは身体に溜まっていく熱をどう逃がしたらいいのかわからず、身を捩りながら必死で耐えた。
 胸をすくい上げていたセシルの手が移動し、
 人前で晒したことのない素足が空気に触れる。
 誰にも触れられたことのない最も柔く無防備に場所をセシルの指がゆっくりとなぞり、シャロンの腰が跳ねた。
 指は粘着質な水音をたてながら幾度も行ったり来たりを繰り返す。
 羞恥と刺激に悶えるシャロンを見つめるセシルの口は薄く開き、そこから乱れた呼吸が聞こえた。
 
 「お願い、もうやめて、変なの。自分の身体じゃないみたいなの」

 しかし潤む目で懇願するシャロンに、セシルは蔑むような笑みを返す。

 「とんだ淫乱だな。この身体でエウレカの王子を落としたのか」

 耳を疑いたくなるような言葉だったが、傷つく余裕はシャロンになかった。
 言葉と共にセシルの指が自分の中へと沈んでいったからだ。
 
 

 
 
 
 
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